第3話

それからリビングでお互いの事を少しの間話をした。


「刹那ちゃんの誕生日って5月だったよね?」


「そうですよ。誰かに聞きました?」


「テレビで自分が言ってたじゃないか」


「あっ。そうでした テヘッ♪」


刹那ちゃんは舌を出しおどけてみせた。 うん。可愛いな。


「何日なんだい?」


「はい。5日です。こどもの日ですね。憶えやすいでしょ?」


祝日だから憶えやすいな。とりあえず忘れない様にメモ帳に書いとかないと。


「圭介さんの誕生日はいつですか? 私、全力でお祝いしちゃいます♡」


「や、俺の誕生日は良いよ憶えなくて」


「何でですか!」


「今さら祝って貰う歳じゃないし」


「む~~~っ! 教えて下さい~! 私どうしても知りたいです! だって、大切な彼氏の誕生日ですよ! お祝いするのは当然じゃないですか! だ~か~ら~! お~願~い~! 教えて下さい~!」


刹那ちゃんは俺の袖口を掴んでグイグイと引っ張って抗議の態度を取ってきた。 止めて、袖が伸びるから!


しかしだな……。 た、大切な彼氏…… 何だか照れるよな。こんな可愛い娘に彼氏だなんて言われたら。


……結局、滅茶苦茶食い下がってくる刹那ちゃんの勢いに負けた俺は観念して


「分かったよ。教えるから。俺の誕生日は10月23日だよ。はい教えたよ。これで良いかい?」


俺がそう言うと、刹那ちゃんは自分のバッグからメモ帳を取り出して真剣な顔でメモをしだした。


「よしっと! これで絶対に忘れません! ……って、圭介さん誕生日もうすぐじゃないですか。 これはいけません! 早く準備をしないと」


「俺の誕生日は祝わなくって良いって。ほら、ね、急な事だったし、もう日も無いからさ」


そう、確か刹那ちゃんを海で助けたのが8月の前半。それから数週間が経って、今は9月の中旬である。 まぁ、俺の誕生日まで後1ヶ月程はあるんだけどね。


「いいえ、まだ時間はあります! ほら、1ヶ月は余裕がありますよ!」


刹那ちゃんは壁に掛けてあるカレンダーをバシバシ叩いて俺に言ってきた。 そしてグイッと俺の顔の近くに自分の顔を近づけてきた。


っ! 刹那ちゃん! 顔近い近い! 


その時、フワッと何とも言えない甘い香りがした。 俺が今まで嗅いだことの無い甘い香り。 俺の顔が一瞬にして赤くなったのが分かる。


「ち、ちょっと近い! 刹那ちゃん無防備過ぎ!」


刹那ちゃんに注意を促すと、刹那ちゃんは自分の今の距離に気付いたみたいで真っ赤な顔をして バッ! と顔を遠ざけ


「ご、ご免なさい! 興奮しちゃって……つい。 はしたなかったですね//////」


はにかみながらエヘッ♪ みたいな顔をする刹那ちゃん。


……何だこの可愛い生き物は? 思わず抱き締めたくなる……っていかんいかん! 気をしっかり持て丹羽圭介!


刹那ちゃんに手を伸ばし掛けたのを何とか押し留めれた俺。 危なかった~。


「で、でも、やっぱりお祝いはどうしてもしたいので、準備はしますよ。 圭介さんが断っても絶対にします! 良いですね?」


物凄くやる気満々の刹那ちゃんを見て


「……分かったよ。じゃあ楽しみにしてる。でも、無理は禁物だからね」


と釘を刺しておいた。


「はい! 了解です! うふふっ! プレゼント何にしようかな~♡ お料理も頑張らなくちゃ♡」


……本当に分かっているのだろうかこの娘は? 滅茶苦茶無理しそうだな。心配だよおじさんは……。


後色々話をしていると


~🎵 ~🎶


俺のスマホから着信音が鳴る。


画面には " 赤坂 晃 " の文字が出ていた。


「ちょっとごめんね。 同僚から電話が掛かってきた。 出ても良いかな?」


刹那ちゃんに断りを入れた後、通話をタップする。



『丹羽~! 聞いてくれよ~!』


相変わらず大きな声がスマホから響く。 あ~煩い! 耳がキンキンする。


「赤坂、もう少し声を小さくして喋れ! 耳が痛い!」


赤坂の声は刹那ちゃんにも聞こえていたみたいで、賑やかな人ですね。と笑われた。


『お、おう悪い。 聞いてくれよ丹羽』


「何があったんだ?」


『それがさぁ、今日ライブのチケット先行受付だったじゃん』


「そうだったな。で? それがどうしたんだ?」


『……買えなかった』


「え?」


『買えなかったんだよ~! 予約開始してから30分間電話が繋がんなくてさ、ようやく繋がったと思ったら、どの席もSOLD OUTだって……。 死にたくなる……』


……あらら。気合い入ってたもんなぁ。絶対手に入れるって。


すると、俺の表情を見た刹那ちゃんが


「圭介さん、どうしたんですか? 浮かない顔してますが?」


と小声で聞いてきた。


「赤坂ごめん。直ぐにかけ直すから良いか?」


『あ、ああ。じゃあまた後で話聞いてくれよ』


俺は赤坂との通話を一回終了させる。


「別に通話を終わらさなくても良かったんじゃ?」


刹那ちゃんが俺に申し訳なさそうに聞いてくる。


「人と話をする時に、他の人と話ながらなんて失礼だろ? 話に身が入らなくなる。俺はそう思っているんだ。だから赤坂との通話を一回終了させた」


「……そうなんですね。私も見習わないと」


感心した表情で何度もウンウンと頷く刹那ちゃん。


そこまで感心されると何か恥ずかしいな。


「あ、さっきの話ね。俺の同僚に赤坂って奴が居るんだけど、そいつ刹那ちゃんの大ファンでさ。 今日刹那ちゃんのライブチケットを予約しようと頑張ったみたいなんだけど、全部売り切れて取れなかったらしいんだ。だからその愚痴を俺に聞いて欲しくて電話してきたという訳」


「ふ~ん、そうなんですね。 私チケット用意しましょうか?」


刹那ちゃんの申し出に俺はビックリした。


「えっ!? 良いのかい? かなり入手困難なチケットだよ? 大丈夫なのかい?」


そう訪ねると、ニッコリ微笑みながら


「大丈夫ですよ。だって、私のライブチケットですよ? 準備出来ない訳ないじゃないですか」


……そうでした。俺の目の前に居るのは 由井刹那さん御本人でした。


「じゃあお願いできるかな?」


「了解です! 任せて下さい!」


「ありがとう! 御礼に今度お願い事を1つ聞くから」


「っ! な、何でもですか!?」


「おう。俺に出来る事なら何でも聞くよ」


「言質とりましたからね! 後で無し!なんて駄目ですからね!」


「分かってるよ。約束は絶対だ」


「分かりました! 必ず用意します! 期待していて下さいね! 良い席を二枚用意しますね!」


「や、チケットは一枚で良いよ。赤坂の分だけで十分」


俺が刹那ちゃんにそう言うと、急に刹那ちゃんの機嫌が滅茶苦茶悪くなり、頬をぷ~っ!と膨らませている。


「ど、どうしたんだ!? いきなり機嫌が滅茶苦茶悪くなったけど!」


「……やっぱりチケット用意するの止めようかな?」


そ、それは困る!


「い、いやそれは大いに困る! 用意してくれるんじゃなかったの?」


「だって……圭介さんのチケットはいらないって言うから……」


「だって俺がライブに行きたいんじゃなくて、赤坂が行きたいんだから」


「……私のライブ来て下さい」


「だからね、ライブに行きたいのは俺じゃなくて」


「来て下さい! じゃないとチケットの話は無し!」


え~っ。 俺が難色を示していると、物凄く拗ねた顔で


「く~る~の~! 来てくれないと嫌なの~!」


と駄々をこねだした。


……もう一度言おう。 何だこの可愛い生き物は。


「……分かったよ。行くよ。だからチケット」


俺は仕方なく折れた。そうしたら刹那ちゃんの機嫌が滅茶苦茶良くなって


「やった~! 圭介さんが来てくれる! 私滅茶苦茶頑張る! チケットはちゃんと二枚用意しますね!」


全身で喜びを表す刹那ちゃん。


……俺、この娘には勝てないかも知れない。


その後ニコニコ顔の刹那ちゃんの横で赤坂に電話を掛ける。


『もしもし……』


「赤坂? 喜べ。俺の知り合いにって痛い!」


知り合いって言ったのが気に入らなかったのか、刹那ちゃんが俺の腕をつねってきた。地味に痛いから止めて下さい。


『どうした?大丈夫か?』


「大丈夫だ。で、話の続きな。知り合いって痛い! っ。知り合いに由井刹那さんのチケットを譲ってくれる人が居るんだけど、お前チケット要るか?」


『お前の 痛い! って言葉が物凄く気になるが。是非ともお願いします!』


「じゃあお願いしとくわ。でも、席に文句つけるなよ」


『当然! 文句なんてつけないよ! 丹羽、ありがとう! この恩は必ず返すからな!』


「期待しないで待ってるよ。じゃあまたな」


『ああ。またな。本当にありがとうな!』


そう言って赤坂との通話を終了させる。


「刹那ちゃんや。通話中に腕をつねるの止めてくれるかね?」


「だって……知り合いじゃないもん。彼女だもん」


そんな拗ねた反応を見せる刹那ちゃんが可愛かった。


時計の針はPM10:00を指していた。


「刹那ちゃん、もう遅いから早く帰りな」


俺は刹那ちゃんに帰宅する様に声を掛ける。


すると、刹那ちゃんは頬を膨らませ


「何で圭介さんは私を帰らそうとするんですか? もう少し居たっていいじゃないですか」


と抗議の態度を取ってくる。


「いやいや、もうPM10:00だよ? 皆心配するでしょ?」


「心配? 何を心配するんです?」


いやいや、普通心配するでしょ? 20歳の美女が何処の馬の骨とも知れない男の家に夜遅くまで居るんだよ? 俺が親なら心配どころか怒鳴り込みに行くけどな。


「だから、俺は男。刹那ちゃんは女。OK? 今の状況解ってる?」


俺がそう言うと、刹那ちゃんはハッっとした顔をした後、顔を赤らめて


「……私、初めてなので、出来れば優しくして下さいね。少し位なら痛いの我慢しま」


「ストーップ! それ以上は言ってはいけない!」


俺は慌てて刹那ちゃんの発言を止める。


「え? だって、そういう事でしょ? 私、圭介さんとならいつでも……」


「だからストップだってば! 女の子がそんな事を言ってはいけない! 今日はもう帰りなさい」


「む~~~っ! 私は圭介さんの傍に居たいのに……」


「また今度ね今度!」


「今また今度ねって言いましたね? 忘れませんよその言葉」


刹那ちゃんはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。 ……しまった。失言だった。


「今の無し!ってのは駄目?」


「当然駄目! です♥️」


「忘れて」


「無理♥️」


「そこを何とか」


「駄~目♥️」


……埒が明かない。 どうしようか……この危機的状況を。


そんな押し問答をしていると、突然刹那ちゃんのスマホが鳴り出した。


「も~っ! もう少しで圭介さんを落とせたのに! 誰!? タイミングが悪いのは!」


ほっ……。助かった。 今は電話してきた人に感謝だな。


プリプリ怒りながら刹那ちゃんは電話に出る。


「はいもしもし💢」


『あっ、刹那? 篠宮です。今大丈夫?』


「大丈夫じゃないです💢 篠宮さんタイミング悪すぎ! もう少しだったのに💢」


『???? 何怒ってるの刹那?』


刹那ちゃんはスマホの受信部分を手で押さえて


「すみません。マネージャーからです。少しだけ話をしますので」


「あっ、うん。気にしないで話をしてね」


「ありがとうございます」


そう言って刹那ちゃんはマネージャーさんとの会話を再開する。


「で、何の用事ですか篠宮さん💢」


『明日のスケジュールについての打ち合わせをしたかっただけなんだけど……ねぇ? 何で怒ってるの?』


「当然ですよ💢 もう少しで圭介さんと……する予定だったのに💢」


いやいや刹那ちゃん? 俺はそのつもりは微塵も無いよ? てか、貴女はそれを言っちゃいけません!


『圭介さん? ああ、あの時の彼? 今彼の所に居るの?』


「そうですよ💢」


『じゃあもしかして…上手くいったの?』


「結婚は駄目でしたが、恋人には成れました❤️ でも早めに結婚まで持っていくつもりです♪」


……お~い。マネージャーさんとそんな話をしていたのかい? てか、君は芸能人でしょうが。俺みたいなモブとそうなっても良いというのかい? 恋人って事だけでも大概なのに。


『……刹那。避妊はちゃんとしないと駄目よ? 貴女はトップアーティスト兼女優なんだから。 妊娠はちゃんと結婚してからよ』


……聞こえてますよマネージャーさん。貴女それで良いんかい! トップアーティストに何言ってるの! そこは怒る所でしょうが!


「大丈夫です。そこはちゃんと分かってますから。きちんと籍を入れてからママになりたいので」


……ツッコマナイゾ……フルスルーヲキメルゾ……フルスルーダ。


嬉しそうに話をする刹那ちゃんとマネージャーさん。そして現実逃避をする俺。


『それはそうと刹那、明日はAM5:00から仕事だからもう帰って休みなさいね? 貴女隈が出来た顔で仕事するつもり?』


「え~っ!? でも~っ!」


『でもじゃありません! プロなんだから、仕事はきちんとしないとね』


「う~っ! 分かりましたよ。今日は帰って休みますよ」


『よろしい。じゃあ明日4:00に迎えに行くからね』


「は~い。それじゃ篠宮さん、お休みなさい」


『はいお休み。ちゃんと帰りなさいよ』


「分かってますって」


そう言って刹那ちゃんとマネージャーさんとの電話は終了した。



「は~~っ。仕方がないので今日は帰りますね」


「お、おう。気を付けて帰るんだぞ。 てか、刹那ちゃんはどうやって来たんだ? 電車か? それとも誰かに送ってもらったのか?」


「自分の車で来ました。そこの駐車場に停めてます」


免許持ってたのか。


「じゃあ駐車場迄送るよ」


「ありがとうございます圭介さん♥️ 優しいから大好きです♥️」


そうして俺達は部屋を出て駐車場へ向かった。


「忘れ物は無い?」


「圭介さんとの熱い夜の思い出を忘れて来ましたが」


「それは忘れ物とは言わない」


「テヘッ♥️」


……全くこの娘は……。


階段を降りて駐車場についた。


駐車場には俺の愛車(軽自動車)とLのエンブレムの高級車と後数台の普通車が駐車されている。


俺はLのエンブレムの高級車に近付き遠目から眺めた。


は~~っ。良いなぁこの車。一度で良いから運転してみたいよなぁ。 憧れちゃうよなぁ。 まぁ、俺の安月給じゃ夢のまた夢だけどな。 だってこの車約1000万円位するんだもんな。 持ち主はどんな人なんだろうなぁ。 社長さんかな? それともプロ野球選手? とにかく羨ましいなぁ。


はっ! いかんいかん。刹那ちゃんをお見送りしないと。


「刹那ちゃん、刹那ちゃんの車はどの車なんだい?」


「私の車ですか? これです」


刹那ちゃんはバッグから鍵を取り出してボタンを押す。


すると、Lのエンブレムの高級車のロックが開いた。


……もしかして。


「せ、刹那ちゃん。もしかしてこの車って」


「私の車ですが?」


「…………マジか」


この車の持ち主は刹那ちゃんでした。


俺は一時の間固まってしまった。


……ヤベーッス。 マジヤベーッス。


「圭介さん? 圭介さんてば? お~い!」


刹那ちゃんは俺の顔の前で手を振っている。


はっ! いかん。トリップしてた。


「凄いね。こんな車に乗ってるんだ……」


「圭介さん、もしかしてこの車欲しいんですか?」


「そりゃ欲しいさ! 憧れの車だからさ!」


俺が勢い良くそう言うと、刹那ちゃんはニヤニヤしながら


「へ~っ♪ 圭介さんは車が欲しいんだ~♪ 成る程成る程。良い事聞いちゃった♪」


とボソボソ呟いていた。


「ん? 何か言った?」


「べ~つ~に~♪ 何にも言ってませんよ~♪」


「そう?」


「はい♥️」


刹那ちゃんが運転席に乗り込む。 エンジンをスタートさせ、発車準備が完了する。 やっぱりこの車のエンジン音……最高だな。


すると、刹那ちゃんが慌ててウインドウを開けて


「圭介さん! 連絡先の交換してない! 交換しましょう!」


あっ。そういえば忘れてた。連絡先の交換より衝撃的な出来事が盛りだくさんだったからな。


俺達はお互いのスマホをフリフリして連絡先を交換した。


「じゃあ今度こそ帰りますね。 圭介さんまた来ます♥️ その時こそ……グフフ」


……女の子の笑い方じゃないぞそれ。


まもなくして刹那ちゃんが運転する車が駐車場を発車した。


車が見えなくなるまで見送る。


さて、俺も寝ますか。明日は気晴らしに釣りでも行こうかな? 会社休みだし。


俺は部屋に戻りベッドに入った。




後日俺の元に封筒が届いた。中には刹那ちゃんのライブチケットが二枚入っていた。


……ん? 何だかこのチケット、キラキラしているんだが? 気のせいか?






































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