婚約を破棄され、追放までされて、金欠になりましたけど、幼馴染が近づいてきます。

甘い秋空

一話完結 コインは持っていないが、大丈夫だろう



「婚約破棄され、追放されたギンチヨ嬢が、なぜ学園にいるのですか」


 栗毛で派手な伯爵家令嬢が、大声で私に言いました。



 王立学園の朝、授業が始まる前、友人たちと歓談、いや愚痴を聞いていた時です。


 教室が一瞬にして静まりました。


 銀髪の私は、侯爵家令嬢であり、しかも女侯爵という一代爵位を拝命しており、先日までは第一王子の婚約者でした。



「伯爵家令嬢ごときに、答える必要はないと思いますが、お情けで教えましょう」


「侯爵家のギンチヨは領地に帰りましたが、女侯爵のギンチヨは、これまでどおり学園で勉学に励みますわ」


 私との婚約を破棄した第一王子は、私に追放を言い渡しました。


 でも、誰をどこから追放するのかを宣言しなかったことから、侯爵家令嬢の私は領地に帰ったことにして、女侯爵を国王から拝命した私は学園に残ることにしたのです。


 でも、侯爵家の後ろ盾が無いことになったので、王都にある侯爵の屋敷を離れて、学園の安い学生寮に住んでいることは、秘密です。今の私は、金欠病です。



「それは、私を、王太子妃と知っての発言ですか」


 さっきまで、友人たちと話していたのは、この栗毛で派手な伯爵家令嬢のことです。


 私の婚約破棄の原因となったのは、婚約者であった第一王子と、この伯爵家令嬢とが浮気していたからです。


 鼻高々な彼女は、以前から、第一王子と浮気をしていると匂わせるような話を、教室で自慢げにしていたので、私だけでなく、クラス中の話題となっていました。



「婚約だけでは王太子妃ではなく、ただの候補ですし、現在の王太子は第一王子様のお父様ですよ、伯爵家令嬢」


 国王は年老いていますがご存命で、王太子は国王の息子であり、孫の第一王子は王太子ではありませんので、彼女の軽率な発言をたしなめます。



「なら、この指輪を見なさい。これが王族に加わる女性の証なのです」


 彼女の指には、派手な指輪が光っています。


 グリーンエメラルド、イエロートパーズ、レッドガーネットと、大玉の宝石3個が横一列に並べられた、その派手な指輪には見覚えがあります。


 第一王子が私に贈ると用意した高価な指輪ですが、石の中に混じり物が多く、カットも甘く、一目でわかる安物だったので、私が受け取るのを断った指輪です。


 金欠の今なら、受け取って、直ぐに売って、生活費に充てますけど。


 たぶん、第一王子は、宝石商の口車に乗せられています。見た目を重視して、中身を見ないというタイプでしたから。


 貴族社会には、目の肥えた方がたくさんいらっしゃいますが、お二人は、これから大丈夫なのでしょうか。私には、もう関係ありませんけど。




「騒がしいな。授業は始まっている、席につけ」

 先生から注意されました。


 急いで席に着きます。私の席は、最後尾の窓側、隣はイケメンの第二王子である黒髪のクロガネ君という、超優良物件な席です。



    ◇



 お昼休みになりました。お弁当を購入するため、席を立とうとした時です。


「ギン、君と一緒にランチしたいのだが」


 クロガネ君が、私をランチに誘ってきました。


「第二王子様、先日の件で、私は貴族社会から距離をとりたいと思っています。貴族の食堂は使わないつもりでいますので、ほかの令嬢を誘ってください」


 私は貴族社会から離れますが、幼馴染の彼とは離れたくないので、こうして学園に残っているのは、内緒です。


「では、お弁当を購入して、中庭で食べよう。それなら良いだろ?」


「お弁当……おごってくれるのですか?」


「コインは持っていないが、大丈夫だろう」


「平民も使うお店では、サインでの支払いは無理です。今日は私が立て替えますので、後日、お返しください」



    ◇



「お弁当も、美味しいですね」


 学園の中庭、木陰のベンチで、二人並んで座り、テーブルに置いたランチプレートからサンドイッチを口に運びます。


 私の服装は、スカートではなく、男性と同じようなパンツルックで、上は、制服である燕尾服に似たブレザーを着ています。


 私の体形は、嫌な婚約を受けた時の呪いで、女性としては胸が小さいので、うれしくはないのですが、男装がよく似合っています。


 男装の方が、洗濯の費用が安価だという理由は、秘密です。



「そうだな、これは機能的だ。パンと野菜と肉が一度に、しかも片手で食べれる」


 男性って、効率重視の方が多いのでしょうか。デートっぽい雰囲気が台無しです。


 空は、雲一つなく、青く澄み渡っています。



「このアイスティーも、冷たくて爽やかです」


 テーブルに置いた私のカップに、紅色の口紅が付いています。



「ギン……」


 クロガネ君は、真剣な顔になりました。黒髪に黒の瞳、第一王子よりも整った顔立ち、普通の令嬢なら、一目で惚れるイケメンです。


「ギン、婚約破棄や追放のことは、申し訳なかった」

 彼は頭を下げました。


「第二王子様が頭を下げたら、王族としての威厳が落ちますよ」


「王族か……今回の件は、国王陛下に事前の報告が無かったので、おじい様はもちろん、王太子である父上までも怒っている」


「でしょうね……私がもっとしっかりしていれば」


 政略結婚なのだから、ガマンすれば良かったのかもしれません。



「ギンは、昔から兄を嫌っていたな」

 幼馴染の彼には、私の気持ちがお見通しのようです。


「政略結婚は、貴族の役目です」

 私は、心にもないことを言ってしまいます。



「もしも、もしもだ。俺がギンの婚約者として名乗りを上げたら、困るか?」


 クロガネ君から見つめられました。


「こ、困るなんてことは……ありません」



「そうか、わかった。あとは、俺に、そんな大それたことをする資格が、あるかどうかだ」


 彼には、第二王子という立場があります。



「クロガネ君は、幼いころに、私をお姫様抱っこすると約束したのに、まだ約束を果たしていませんよ」


「え?」


「私、ずっと待っていますから」



「そ、そっか、約束は必ず守る。ノドが渇いたな」


 彼は、テーブルに置いていた私の飲みかけのアイスティーのカップを掴み、一気に飲み干しました。


「それ、私の……」

 言いかけて、止めました。


 彼の唇に、少しだけですが、紅色の口紅がついていました。



「しまった、カップを間違えた。ごめん、こっちを飲んでくれ」


 クロガネ君が、彼の飲みかけのアイスティーを私に勧めてきました。


「ありがとうございます。私もノドが乾いてきました」


 ノドなど渇いていませんが、彼のカップに口を近づけます。すごくドキドキします。



 ……木陰なのに、顔が火照って熱いです。




 ━━ FIN ━━





【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

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婚約を破棄され、追放までされて、金欠になりましたけど、幼馴染が近づいてきます。 甘い秋空 @Amai-Akisora

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