ざまぁ! から始まるこの作品ですが、当作の魅力は主人公の在り方なのかなぁって思っています。
主人公は死霊術師です。
理解できない人間よりも、物言わぬ死体と親しむことを選んだような人間てす。
ただ、必要があって彼は人の死体をネクロマンスすることになります。
それは死体であっても人です。
人の魂を宿し、人としての面倒臭さを多分に孕んでいます。
そんな元死体たちとの親しみの中での主人公の揺れ動きが……私は良いなぁと思っています。
推しキャラはマズルカさんですねー。
獣人の女性です。
狂気成分多めのキャラクターたちの中で、彼女は非常にまともです。ある種、大人です。
彼女の存在が物語に暖かい奥行きを与えているような気がするんですよね。
読まれる際には是非注目していただきたいところです。
ともかく素敵な作品です。
オススメです。
突然パーティーメンバーから追放を言い渡される死霊術師のマイロ。
ネタバレにならない程度に言っておくと、追放してきたやつらに対する「ざまぁ」は話のかなり早い段階で執行される。
だが、それはマイロにとって大した意味のあることではない。
確かに、この世界の死霊術は悪用しようと思えば、いくらでもできそうな能力なので、嫌われるのにも一部の理はある。
だが、汚れた存在として蔑まれつつも、実際のところその力は様々な場所で利用されており、社会を回すのに不可欠なものになっている。死霊術自体、ちゃんと公の学院で教えている術でもある。
忌み嫌われる存在なら、何故そんなものを目指すのかと思われるかもしれないが、官職にも一定のポストがあり、つぶしも効く死霊術師という職を、生い立ちや経済的事情から選ばざるを得ない者がいるのだ。社会には常にそういう人間がいる。
気持ち悪いとかそういう感覚的な話ではなくて、かなりリアルな職業差別なのだ。
マイロを追放したパーティーメンバーは、そんな差別がはびこる社会の中の一部に過ぎないというわけだ。仕返しなど大した意味もない。
そして、パーティーを離脱したマイロはダンジョンの中で暮らすと言って旅立つ。
世の中に希望を見出さず、他人を信じない。死んでるように生きていたいとでもいうような、俗的な欲の抜けおちた彼の性格は、力!金!女!承認欲求! と興味のないふりをして、実は欲に目をギラつかせた普通のなろう系主人公とは明らかに毛色が違う。
彼の仲間になる者たちも、全員がゾンビとなっている。死にたてで本人の魂を入れれば、生前と同じように動くことはできるのだが、成長はせず、術が解ければ死んでしまう。実態は死の執行猶予にある状態というだけで、未来はないのだ。
本作のダークでペシミスティックな雰囲気は、普通の追放ものを好む人とは違った嗜好を持った読み手に刺さるのではないかと思う。
マイロの人生はこの先どうなるのか。そもそもダンジョンの中なら自分の望むように生きていけるだろうという考え方自体、見通しが甘いというか虫のいい考え方な気がするが、この先色々うまくいって幸せになれるのか。
それとも少しずつ計画に綻びが生じて、破滅への道を歩むことになるのか。
彼の運命を知りたいという方は、一度目を通してみてはいかがだろうか?