ちがいがわからない男の子
あしはらあだこ
第1話
桃太郎になりそこねた、おとこのこ。
川辺の茂みで、出会った、くまとその後どうなったのか?
そんなはなし。
おっかない女神から逃げてきた桃太郎。
あれじゃあどっちが鬼なのかわからない。
川辺の茂みから、眼光鋭く現れたくま。
ぼくを食べてもおいしくないよ。とかんがえていると
「おまえ、素っ裸で、どうした?」
なんと、ぼくの身を案じているのか?
か、かたじけない。
「そうなんだ、おっかないばあさんから逃げてきたところだ」
「そりゃ、たいへんだったな」
そうやって、二人でつれだって歩くこと、数分、動物たちが、たくさん集まっているところにきた。その真ん中には、赤い腹掛けをした男の子がいる。
「あれは、だれだ?」
「金太郎だ。あしがらやまの」
「ここは、あしがらやまと申すのか?」
「なんだお前、場所もよくわかってなかったのかい?」
「ぼく、金太郎」と快活な声であいさつをした。
「お、俺様は、将来英雄になる桃太郎だ!」
「え?そうなの?ぼく、そんなすごい子とお友達になれたんだ!」
「そうか、お前が、桃太郎か。金太郎は、わしより強いぞ!」
「そんなわけあるかよ!ぼくは、家来を連れて、鬼を退治に行くはずだったんだぞ!」
「じゃあ、すもうでも取ってみるがいい。まず、そのまえに、いつまでも、裸ではいられまい。腹掛けがもうひとつあるはずだから、金太郎持ってきてやりなさい」
「うん」
と、返事をするが早いか、かけて行って、風のような速さで、帰ってきた。
行司は、うさぎ。
みあって みあって はっけようい のこった
あれ、と思う間もなく、まけてしまう桃太郎。
呆然としていると
「これから、ぼくとたくさん稽古をしよう」といって、金太郎は優しく手をさしだした。
しかし、桃太郎は、その手を乱暴に振り払う。
「うるせえよ!わざと負けてやったにきまってるだろ!」
「こら!桃太郎!」怒るくま。
脱兎のごとく、駆け出す桃太郎。
「待って!ももちゃん!」と言って、追いかけていったのは、うさぎだった。
心配ない、とうなずくくまとあまり気にしていない様子の金太郎。
さすが、うさぎ。
桃太郎にちゃんと追いついて、なにやら、お話をしている様子。
金太郎が、どんな性格かをはなし、自分たち動物がどう思っているか。
桃太郎が、いまとてつもなく、不安であろうことも、うさぎはわかってくれた。
いろんな感情が、ないまぜになって、少し、泣いた桃太郎だったが、うさぎがやさしくみつめてくれていた。
もう、自分はこの場所で、暮らしていくしかないと、腹をくくった桃太郎。
善は急げと、みんなのもとへ、謝りに行き、仲良くしてほしい、と伝えると、全員が歓迎してくれた。
数年後
桃太郎は金太郎と一緒に、稽古を積み、3回に1回は、金太郎に、勝てるようにまでなった。
そんな、ある日、桃太郎はうさぎから、重大なことを、聞かされた。
金太郎は、将来、坂田金時≪さかたのきんとき≫という、えらい侍になる予定だ、というのだ。
桃太郎は、ショックだった。
ずっと、一緒に暮らしていける、と思っていたら、あの野郎、一人抜け駆けかよ!
じゃあ、ぼくは、どうなるんだよ!ぼくだって、英雄になる予定だったんだぞ!
とそこで桃太郎、何かひらめいた様子・・・
どうなっちゃうの・・・?
翌日、なにを思ったか桃太郎、金太郎と同じヘアスタイルにしてきた。
目を丸くする一同。心配そうに、ひそひそやりはじめた。
(どうしちゃったの?)(なにかんがえてるの?)
なにやらそわそわする、うさぎ。くまは、そっと近づいて、
「少し、はなせるか?」
うさぎから、話を聞いたくまは、しばらく様子をみて、判断しようと思い、とりあえずは、何も、言わずにおいた。
しかし、それがまずかったのか、今度は、桃太郎、金太郎とまるで、同じ衣装を買い込んできた。
「おまえ、何かんがえてんだ?」くまが説教をしようとすると
「わあ、桃ちゃん、ぼくとおそろいだね!なんだか、双子みたいだ!うれしいな!」などと、金太郎が言い出すではないか。
内心、(それはダメだよ、金太郎)と動物たちは思っていた。
すると、
「ぼく、ずっと、金太郎と一緒がいいな」と桃太郎がのたまうではないか。
桃太郎の将来への不安と、焦りをかんじとったくまは、この二人を、できるだけ、分け隔てのないようにしようと、奮闘した。
皆の不安をよそに、以外にも桃太郎は、これまで以上に努力を積み重ね、親しみのある桃太郎と力持ちの金太郎、と評判を呼ぶ魅力を持つようになった。
さらに数年後
元服をした二人は、殿様に仕官することになった。
年のころといい、背格好といい、よく似ているので、双子とよく間違われたが、二人は、そのことが、どこかうれしそうでもあった。
桃太郎は、英雄になるはずだったが、毎日が平穏で、同じようなことの、繰り返しでも、構わないと、思うようになっていた。
英雄でも、平凡でも、一つの命に誰かが成り代わることはできないし、優劣のつくものでもない。
ぼくには、仲間がいる。それで、十分だった。
つづく・・・かどうかはわからない
ちがいがわからない男の子 あしはらあだこ @ashiharaadako
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