第3話 帰宅難民

その後、皆の身に危険が及ぶ事なく同好会は終わり、普通に帰宅出来た僕。

いや、まだ家には帰ってなかった。

自宅の扉の前、までは来れたのだが……


「(ゴソゴソ)……あれ?」


ポケット、カバン、パンツ……色々調べるが、鍵が見つからない。


「あーん? ……あー、やらかしたー」


恐らく、鍵は家の中だろう。

台所かリビングの机の上。

僕もママンも気付かず外に出て、こうして密室の出来上がり、と。


「ふぅむ……」


花壇の下にスペアキーを隠す、なんて気の利いたルールはウチには無い。

ママンが仕事から帰ってくるのは……今は忙しい時期らしいし、あと数時間後って所か。


「よいしょ。さて、どうしようか……」


扉の前にあぐらで座り、スマホぽちぽち。

ママンが帰って来るまで忠犬してる、なんてほど僕も孝行息子じゃない。

だから、どっかで時間を潰そうってのが現実的。


「喫茶店、ファミレス、ゲーセン、漫喫…………うーん、今の気分は……」


キイ……


「うん?」


車の音。

車の停車音。

ママン?


「っと、ちげぇや」


顔を上げてチラッと視線を向けたが、ありゃタクシーだ。

んで、これまた、後部座席のドアガラス越しに見えた人物は、『金髪』。


スッキリした僕は、再びスマホに視線を落とす。


ガチャ …… バタンッ …… ブウウウゥゥゥゥン ……


カツ カツ カ 「……ッ!」


「うーん、パスタ……ドリア……天ぷら……肉……今の僕の気分は……」


カツ カツ カツ カツ カツ 「…………ねぇ」


「あん?」


顔を上げる僕。

そこには、制服姿の幼馴染アイドル様、篦(へら)オオバコ様が居た。

ローファーの音が近づいて来るなとは思ってたけど。


僕は視線をまたまたスマホに戻し、


「おー、お疲れー」

「……うん」

「仕事終わりー? にしては早いねー」

「……今日は、早めに上がらせて貰ったから」

「そー。無理はいけないからねぇ。帰りがタクシーなのも流石はアイドル、危機管理はバッチリだねー」

「……うん」


なんだか……

久し振りに普通の会話してるな、僕達。

思えば、いつから会話が無くなったんだっけ?


まぁ、思春期の男女ってのはそういうもんだろう。

まぁ、自然と疎遠、とかじゃなく、一方的にアッチ(幼馴染)から突っかかれるような感じになってたけど。


喧嘩するような出来事とかあったっけ?

恨まれるような出来事とかあったっけ?


些細な事でも、子供の頃のいざこざが尾を引くとかあるからなぁ。


「……なに、してるの?」

「ん? ママンが帰るまでの時間を潰す手段を模索ちゅー(親指を盾で後ろの扉に向ける)」

「意味が…………ああ」

「ファミレスとか喫茶店とかねー、検索中ってわけ。うーん、ハンバーグとかラーメンも中々……」

「…………(モジッ)」


んー。

なんかホント、普通に会話してるなぁ。

彼女らしからぬツンケンの足りなさ。


思えば。

こうして二人きりになるのも久し振りで。

思えば。

彼女がツンケンしてる時は、いつも人前だけだったような?


「ま、だからテキトーに過ごしてるから、気にしないでいーよ」


ヒラヒラと手を振る僕。

疑問が解消したら、彼女も帰るだろう……


そう思ったが。


グイッ


「あん?」


スマホを持つ方の僕の手首を掴む幼馴染。


「なぁに?」

「…………別に」

「なんて?」


「別に、『ウチで時間潰せば』いいじゃない」


「んー……」


これまた意外な展開だ。

何故? という疑問。

『昔ならまだしも』な提案。


「気ィ使ってくれてるの?」

「は、はぁ!? 調子に乗んなっ」

「だよね」


ツンデレだとしたら、お粗末なキャラ付けだ。

ただ、ここに座ってる僕がみすぼらしく見えたのだろう。

ふむ…………ここは折角だし、


「じゃあ」

「つべこべ言わず来なさいっ(グイッ)」

「おー?」


返事するよりも先に、掴んでいた手首を引っ張り上げて僕を立ち上がらせる幼馴染。

流石はアイドル、日々の鍛錬の賜物か力も強い。


特に予定も無かった僕は、そのままなすがまま、


(まぁこれも仲直りするいい機会か)


なんて思いながら、抵抗もせず、幼馴染の家へと引き摺り込まれて行くのであった。

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学校で僕にだけツンな人気者(アイドル)に催眠掛けたらえらい事になった (ほんとに催眠掛かってる?) 月浜咲 @tukihama

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