歯磨きをしてあげたい。 2人台本

サイ

某日深夜11時





後輩:「先輩、今日はほんとありがとうございます…。」


先輩:「いや、いいんだよ。」

先輩:「ちょっとは元気でたか?」


後輩:「まぁ…なかなかすぐに切り替えられそうにないですけど、おかげさまで少し元気をいただきました、ありがとうございます。」


先輩:「そうか…。ああ、もうこんな時間か。終電が出る前に、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか。」


後輩:「…え?」


先輩:「え?」


後輩:「泊まらせて…くれないんですか。」


先輩:「…え、いや、もう疲れてるだろうし、家帰ってゆっくり休めよ。」


後輩:「いや、疲れてるからこそ泊めてくださいよ。」


先輩:「えぇ…俺だって疲れてるんだよ…。」


後輩:「もう僕泊めてもらうつもりでドラッグストアでいろいろ買い揃えてきたんですけど」


先輩:「旅行気分かよ…ちなみに何買ってきたんだよ。」


後輩:「えっと、シャンプー、コンディショナー、タオル、下着、歯ブラシ…。」


先輩:「何泊する気なんだよシャンプーの量!ボトルじゃねーか!」


後輩:「てっきり泊めてもらえるとばかり思っていたので…。」


先輩:「もう泊まりじゃなくて居候じゃねーか…あと歯ブラシはなんで2つ買ったんだ。」


後輩:「ああ、これは…」

後輩:「これは…僕のわがままなんですけど」


先輩:「泊めてもらおうとしてる時点でだいぶわがままなんだけど」


後輩:「実は…先輩に歯磨きしてあげたくて…」


先輩:「はぁ…?!」


後輩:「そっ…それは…『歯』だけに、ってことですか…?」


先輩:「いや、そういうことじゃねーよ!なんだ歯磨きしてあげたいって!」


後輩:「仕上げだけでもいいんですよ」


先輩:「何も譲歩できてないんだよ!磨いてる時間がちょっと短くなっただけだろ!」


後輩:「嫌ですか…?」


先輩:「嫌に決まってる!絶対嫌だ!!」


後輩:「どうしても…?」


先輩:「食い下がって可能性はゼロだからな、絶対拒否だからな。」


後輩:「じゃあせめて、理由を聞かせてください!何がそんなに嫌なんですか?」


先輩:「何がって…大の大人が歯磨きしてもらってる絵面がやばいだろ。」


後輩:「僕以外誰も見てませんよ?」


先輩:「お前が見てるから嫌だ。」


後輩:「先輩、お母さんに昔歯磨きしてもらったことあるでしょう?それと何が違うっていうんですか。」


先輩:「何もかもだよ。お前はお母さんでもないし、昔みたいにガキじゃねえの!1人で歯磨きぐらいできる!」


後輩:「うーん、イマイチ理由が納得できない…歯がゆいなぁ…」


先輩:「うるせーよ、俺こんなやつ励ましてたのかよ…彼女も別れて納得だわ」


後輩:「実は僕…先輩に優しくしてもらったときから、何かを感じ始めていたんです。これはきっと…恋、だと思うんです…!」


先輩:「はぁ?!」


後輩:「『歯』だけに?」


先輩:「そのくだりもういいんだよ。なんだよ恋って」


後輩:「えーっと…特定の人に、強く焦がれること…?」


先輩:「『恋』の意味を聞きたいんじゃないんだよ。優しくしてもらったときからって…それいつの話だよ。」


後輩:「えーっと…入社直後、僕が複合機の使い方がわからなくて困っていた時に、使い方を丁寧に教えてもらったときからだから…」


先輩:「…いや待て、お前入社何年目だ。」


後輩:「5年目ですね。」


先輩:「…お前、彼女と付き合いだしたの、いつ?」


後輩:「2年ほど前ですね。」


先輩:「…お前引きずりまくってるじゃねえか!!彼女と付き合ってる間ずっと俺のこと考えてたってこと?!」


後輩:「ずっと、噛み砕いてもなくならず、本音が歯に挟まっていました…。」


先輩:「某スパイ一家のアニメのテーマソングみたいな言い方すんな。」


後輩:「だから僕、大好きな先輩の歯を磨いてあげたいんです!どうか!」


先輩:「絶対嫌だ。何があっても嫌だ。」


後輩:「はっ…僕としたことが…。ピロートークもなしに夜の営みが始まらないように、ちょっと歯が浮くようなセリフでも言わないといけなかったですかね」


先輩:「お前歯を絡めないと話できねえのかよ!歯磨きはいらねえし、もう早く帰ってくれ!」


後輩:「それって…歯磨きはダメってことですか。」


先輩:「そうだよ!無理!野郎と野郎が歯磨きしあってる絵想像しただけで気持ち悪い!!」


後輩:「付き合うだけなら…いいってことですか」


先輩:「は?!」


後輩:「『歯』だけに?」


先輩:「それもういいから!早く帰れよ!!」


後輩:「帰りません!もっとちゃんとお返事をください!僕は先輩とお付き合いがしたいんです!」


先輩:「帰れ!!」

先輩:「……今日は終電来ちまうし、仕切り直して、明日また来い。」


後輩:「……!」


先輩:「買ってきたやつ全部持って帰れよ。…歯ブラシだけは置いて行ってもいいが。」


後輩:「歯磨きさせてくれるんですか!!」


先輩:「…お前のやつだけ置いていけ。」


後輩:「先輩…!!」

後輩:「明日また、伺いますね!」


先輩:「……ようやく帰った。」

先輩:「何なんだ、アイツ…。」

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