第7話 婚約
「僕はみんなのことも好きなので、それでも構いません!」
最初にユリウスが口を開くと――
「こいつらに姐御を取られるくらいならそのほうがマシだな。それにオレは孤児だったから家族が多いのには憧れる」
「姉さんが望むなら俺は従うだけ。姉さんの幸せが俺の幸せだから」
「私はミレディとしか添い遂げることができないので、結婚できるだけも望外の喜びです」
レオ、フェリィ、ヴィンセントも立て続けに本心を口にした。
「ほれ、四人とも問題ないと言っておるではないか」
得意顔になる陛下。
「えぇ……」
予想外の展開に、私は溜息交じりの声を無意識に漏らしていた。
でも実際問題、四人と結婚するのが一番いい解決策なのかもしれない。
一人を選んだことで四人の仲が悪くなるのは私が懸念していることだし、それが解消されるなら願ったり叶ったりだ。
姉貴分として、四人には幸せになってほしいと心から思っている。
その幸せになる方法が私と結婚することなのだとしたら、姉貴分として一肌脱ぐのは
今は自由気ままに生きたいと思っている私だけど、いつかは家庭を築いて子供を産みたいと思っている。だから陛下の提案はいい機会なのかもしれない。
改めて四人のことを結婚相手として考えてみよう。
四人は魔王を討伐した勇者パーティーの一員として一目置かれる存在だし、一人の男としてのスペックも高い。
彼らの容姿、武勇、性格がいいのは姉貴分の私が一番良くわかっている。
ヴィンセントに関しては家柄も申し分ない。
苦楽をともにした仲だからいいところも悪いところも互いに熟知している。
なので、欠点を補い合うことができる。――それは仲間として過ごしてきた中で立証済み。
信頼できる相手だから夫婦として上手くやっていけるのではないだろうか。
それに私の手でかわいい弟分たちを幸せにできるのは姉冥利に尽きる。
しかも私の自由が保証されているおまけ付き。
ついでに下世話な話をすると、世の女性の憧れである四人をまとめて夫にできるのは優越感が半端ないし、女としての自尊心が満たされる。――まあ、そんな低俗な考えがなくても、私は自分に自信があるけど。
それはともかくとして、私にとってもユリウスたちにとっても悪い話ではないのだろう。
姉貴分として四人には情があるから、みんなで一緒に幸せになれるのはこれ以上ない喜びだしね。
だから――
「あんたたちがそれでいいなら、陛下の提案通りにしましょうか」
私は四人に手を差し出しながらそう口にした。
「はい!」
「おう!」
「うん」
「ありがたき幸せ」
ユリウス、レオ、フェリィ、ヴィンセントは同時に頷くと、喜色をあわらにしながら私の手を取った。
「――あ、でも、ヴィンセントは勝手に決めていいの?」
完全に忘れていたが、ヴィンセントは貴族だから婚姻に関しては勝手に決められないはず。
家同士の繋がりや血統を重んじる貴族の婚姻は当主の裁量に委ねられているからね。
「問題ありません。兄には事前に話を通していますので」
「根回し済みなのね……」
さすがヴィンセント。抜かりがない。
普通なら平民の女と結婚するのは許されないことなんだろうけど、彼のお兄さんは若干ブラコン気味だから弟の望みを断る姿が思い浮かばないわ。
まあ、一応、私もデュプランティス侯爵家の血筋ではあるし、国に多大な貢献をしているから名誉伯爵になる以上は、結婚相手として悪い相手ではないはずだけど。
「それに陛下も認めてくれていますから」
「うむ」
ヴィンセントの視線に応えるように鷹揚に頷く陛下。
「確かにこれ以上ない
納得するしかない事実に私は苦笑しながら肩を竦める。
陛下が認めている婚姻に誰が文句を言えるというのか。
まさかヴィンセントはそこまで見込んで陛下の御前で求婚したのか……?
「よし、決まったな。そういうことなら、後日行われる凱旋式でアレクサンドラの叙勲を発表しよう」
今日は陛下に魔王討伐の報告をしに来ただけで、式典が行われたわけではない。
そういう面倒な式典は後日行われる。
まずはゆっくり休めという陛下なりの配慮なのだろう。
「お主は見世物にされるのを嫌うから、婚姻に関しては大々的に公表せずとも
「それは助かります」
名誉爵とはいえ、一応、貴族の一員なので、本来は正式な手順を踏まなくてはならない。
だが、私は貴族の堅苦しい仕来りが嫌いだし、見世物にされるのも勘弁願いたい。
故に、陛下の配慮はとてもありがたかった。
「それでは陛下、お騒がせしました」
私が頭を下げると、一拍遅れて四人も続いた。
そして陛下に挨拶を済ませた私たちは謁見の間を後にした。
私は背後にいる四人の姿をちらっと確認する。
まさかこの子たちと結婚することになるとは……。
しかも四人まとめて……。
数刻前まで全く考えもしなかった展開に驚きつつも、内心では満更でもなかったりする。
その事実に、四人と結婚できることに喜んでいる自分がいるのだと自覚させられた。
もしかしたら自分では気づいていなかっただけで、私は四人に対して弟分以上の感情を持っていたのかもしれない。
まあ、これから自分の気持ちに向き合えばいいか――と私は一先ず考えるのを後回しにするのであった。
勇者パーティーの紅一点に訪れた幸せな後日譚 雅鳳飛恋 @libero
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