新たな日々 6-4

 魔族武闘会から1か月が過ぎたころ、ヒロとダンテはミニデーモンたちに手伝ってもらううちに、その努力と成果を感じ、心地よい充実感に包まれていた。掃除の仕方を効率的な手順で教えることで、ベルゼルとミニデーモンたちの関係も改善され、笑顔が戻ってきた。


「おお、やっぱりヒロの教え方はいいな。感謝だな」


 ダンテがにっこり笑って言うと、ベネッタも微笑んで頷いた。


「そうだね、私たちも手伝ってあげたかったけど、ヒロの方が断然上手だわ」


「そんなことないよ、でもまぁ、ベルゼルもなんだかんだで喜んでるみたいだし、よかったけどね」


 ヒロが照れくさい笑顔で言うと、フェイルも大きく首を横に振りながら満足そうな喉鳴らしをした。ヒロ達が掃除をしていると、ロイシュタイン城の扉が大きな音を立てながら開く。ロゼが外から帰還したのだ。


「おっ、ロゼ様のお帰りだ。おい! お前ら!ロゼ様がおかえりになられたぞ、大広間に集合しろよ!」


「はい! おい、急ぐぞ!」


 ミニデーモンたちに指示を出して、大広間にデーモンたちが列を形成し始める。扉が開くと、ロゼがモコモコのマントを優雅になびかせながら堂々と歩いている。相変わらずの美貌にデーモンたちは全員がうっとりとしている。


「おかえりなさい! ロゼ様!」


 デーモンたちは頭を下げて、ロゼの帰還を祝福する。


「うむ、皆の者、城での仕事ご苦労である。ん? これは……」


 ロゼは下に敷いてあるカーペットに目をやった。


「あ、ここは、私が掃除しておきました!」


 1人のミニデーモンが前に出ると、ヒロ達は焦って、前に出るのをやめさせる。


「バカ! この流れは、とんでもない一撃が来るぞ!」


 ヒロが最初に出会ったとき、ロゼは掃除した個所が汚れていたことで、デーモンに強力な一撃を浴びせていた。その記憶が蘇ったヒロは、危険を察知したのだ。しかし、ロゼの反応はヒロの予想を見事に裏切った。


「ふむ、カーペットの繊維に沿って綺麗に掃除してある。艶やかな紅色の綺麗なカーペットだな。ここの掃除をしたのはお前か? ここまで綺麗にできるとはお前、見どころがあるな」


 そういって、ロゼは微笑み、ミニデーモンの頭に手を置いた。褒められたミニデーモンの眼は見事にハートマークになっており、歓喜の声を上げた。ヒロはほっと肩を撫でおろしていると、ロゼはヒロに話しかける。


「ヒロ、お前に話がある。あとで私の部屋まで来てくれ、ダンテ、ベネッタもな」


「あ、わかりましたロゼ様」


 言葉を交わした後、ロゼは螺旋階段を上って自分の部屋に戻った。


「なぁ、俺たち……またなんかしたか?」


「もう食事抜きは嫌よ」


「う~ん、それは無いと思うけど……」


 ヒロ達は仕事を終えた後、ロゼの部屋に向かった。コンコンと扉をノックするとロゼの声が聞こえる。


「はいっていいぞ」


 ヒロ達が扉を開けると、ロゼはベッドで横に寝そべっていた。


「あの? 俺たちに何か用でしょうか?」


「うむ、あのカーペット掃除の指示を出したのはヒロ、お前だな?」


「え?」


「あの掃除の仕方はヒロのやり方だろう? ずっと見ているのだ、すぐにわかったぞ」


 ロゼはベッドから起き上がると、机の上に置いてあるグラスに飲み物を注ぎ、口に運んだ。


「いや、でも掃除したのは彼ですよ。彼は仕事が丁寧ですから」


「ふっ、ヒロらしいな。まぁ、それはそうとお前たちを呼んだのは良い話があってな」


 ロゼの顔は次第に真剣な顔つきに変わっていく。


「いい話?」


「もしかして魔力をいっぱい貰えるとか?」


「そんなわけないでしょ、ダンテは黙ってなさいよ!」


 ダンテはベネッタに頭を叩かれると、ジロッとベネッタを睨んでムスッとした表情を浮かべる。


「実はな、我が領土内で内紛が発生してしまったのだ。民にそのことが知れれば混乱を招き、より内紛が激化する恐れがある。そこで我が城から義勇軍を組織したいと考えているのだが、ヒロ、ダンテ、ベネッタお前たちに義勇軍に参加してほしいと思ってな」


 ヒロ達はロゼの言葉に驚き、しばらく沈黙が続いた。すると、ヒロが口を開く。


「わかりました。国の為にできることがあるのなら……」


 そういうと、ダンテは深いため息をつきながらも顔はニヤついていた。


「はぁ、ゆっくりできると思ったのにヒロが行くなら行くしかねぇな」


「顔がニヤついてるわよ、行きたくてウズウズしてるくせに」


「ありがとう、ならばさっそく明日の早朝に出発するぞ、準備しておけ」


「え、早朝!? あと5時間しかないですよ?」


 ヒロは驚きを隠せないでいた。


「はぁ、睡眠時間がまた削られる……」


 ダンテは顔を上にあげて、寝る時間を惜しんでいた。


「私はだいぶ寝てるから大丈夫だけどね」


 こうして、ロゼを中心にして義勇軍が結成され、ヒロたちは新たな冒険に身を投じることとなった。ロイシュタイン城の中で絆を深め、次なる試練に立ち向かうために、ヒロたちは新たな冒険の舞台へと歩を進めるのであった―――


 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王の城に配属したのですが、超絶ブラックな職場でした Mr.Six @0710nari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ