新たな日々 6-3

 ヒロはロイシュタイン城の中庭で気持ちよさそうに寝そべりながら、心地よい風に当たっていた。フェイルも傍らにいて、まるで平和そのものを感じさせる光景だった。


「なんだかんだで、こんな平和な時間もいいもんだな」


 ヒロがぼやくと、フェイルは大きな体をくねらせて応えるように喉を鳴らした。


「そうか、フェイルも気に入ってくれてるみたいで嬉しいな」


 ヒロはフェイルの毛並みを撫でながら、ゆったりとした時間を楽しんでいた。デーモンになったことで、ヒロの生活は多様性に富んでいた。昼の休憩時間も設けられ、その間は自由に動けるようになったため、ヒロたちは様々なことに時間を費やしていた。


「いやぁ、デーモンになったから昼も自由に使えるようになったし、案外ブラックじゃないのかもな……」


 突如として、城内からベルゼルの怒号が響き渡った。


「なんでこんな簡単なことができないんだ! 一体何をやってるんだよ! 違うってそうじゃないって! あーもう!」


 ヒロとフェイルは怒号がする方を振り向き、様子を眺めていると、ダンテとベネッタが中庭の扉から現れた。扉の隙間からベルゼルの姿が見える。どうやら失敗をしたミニデーモンたちを激しく怒鳴っているようだ。


「やべえ、ベルゼルいつにも増してキレてますぜ」


「変な顔が台無しね」


「いや、変な顔ならむしろいいだろうがよ……」


 ダンテとベネッタはたわいもない会話をしながらヒロに駆け寄った。


「ベルゼルなにかあったの?」


 ヒロが聞くと、ベネッタは困ったように肩をすくめた。


「ミニデーモンが教えたことを理解してなかったみたいで、失敗に失敗を重ねて、大激怒。実演もしてるけどそれでも覚えられないみたいよ?」


「すごい形相だったぜ? 『なんでこんな簡単なことができないんだ!』だってよ」


 ダンテがベルゼルの様子を物まねしてみせ、ヒロたちは苦笑いする。


「まぁ、ベルゼルって自分のやり方しか教えないからな、教育係は少し難しいかもな~」


 ダンテは軽く肩をすくめたが、心配そうな表情を見せていた。


「ナルシストのクソ野郎なだけで根はいい奴なんだけどな。教育の仕方が問題なだけで」


「でも、あれじゃミニデーモンたちが可哀そうね。私たちが見てあげたいけど、もう一杯一杯だし」


 ヒロはしばらく考え込んだ後、笑顔で言った。


「じゃあ、俺たちがベルゼルを教育するってのはどう?」


「ははは! それはいいアイデアだ! 問題はベルゼルが教えを乞うかどうかだな」


 ダンテは笑いながらヒロの提案に納得した。


「とりあえず、ベルゼルのとこに向かうか……」


 そういってヒロ達はベルゼルのもとに向かったのだが、ベルゼルに経緯を説明すると……


「なっ! この僕がお前たちに教えを乞うだと!? バカにするのもいい加減にしろよ! 僕は優勝者だ! ミニデーモンの教育ぐらい簡単に……!」


「あの~、ベルゼル先輩、ここの拭き方ってこれで大丈夫ですか?」


 ミニデーモンの1人が話しかけ、掃除をした箇所をベルゼルに見せた。明らかに汚れが目立ち、拭き方が分かっていないようだった。


「なっ!? 全然磨けてないじゃないか! どういうことだ?」


「まぁ、いいから、俺の教え方を見てなよベルゼル。よし、そこの拭き方はな……」


 ベルゼルの肩に手を置きながらヒロはミニデーモンに教え方を手取り足取り教え始める。ヒロの教え方は丁寧で親身に接しているからか、ミニデーモンはあっという間に磨き方を覚え、徐々に掃除箇所が綺麗になっていく。


「わぁ! なるほど、こうやって拭くんですね、ありがとうございますヒロ先輩!」


「えっ、ヒロ先輩!  俺にも教えてくださいよ!」


「俺も俺も!」


 ヒロの教えを聞きたいミニデーモンたちが集まり、一瞬の内にミニデーモンに囲まれる。


「よし、後はベルゼルの指示に従えば大丈夫だから!」


「え~、ヒロ先輩にもっと教えてほしいです~!」


「なっ! お前たち……」


 ベルゼルの顔は真っ赤に染まっていた。


「だって、ベルゼル先輩教え方がいつもニュアンスというか、感覚というか」


「うん、『ここは、こうしてこう』とか、『ここはこんな感じだ』とかで雑なんだよな~」


 ミニデーモンたちは口々にベルゼルの教え方を指摘していく。


「だってよ、ベルゼル。教え方に少し工夫をしてみたら?」


 ヒロがベルゼルの方を向き、ベルゼルにアドバイスをすると、歯ぎしりをしながら、一度大きく深呼吸をした。


「くっ……ゴホン! いいか、ここの磨き方は……」


 ベルゼルは教え方を気を付けながら、丁寧に教えていく。ヒロより効率よく教えることで、ミニデーモンのより早く上達していく。


「おぉ! わかりやすいですベルゼル先輩!」


 教え方が上手になったことでミニデーモンはベルゼルの周りに集まり始める。


「……はは、そうだろう! なんたって僕は魔族武闘会の優勝者だからな、これぐらいは当然だ! よし、今日はもっと教えてやるからな!」


「はい!」


 そういって、ベルゼルは上機嫌になり、ミニデーモンたちと共に、次の掃除箇所に向かった。


「けっ、なんだよお礼の1つぐらい言えってんだよ!」


「まぁまぁ、いいじゃないか」


 そういってヒロはダンテをなだめ、次の業務時間に間に合うよう、早足で掃除箇所の向かった―――

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