新たな日々 6-2

 ロイシュタイン城でヒロ達は、毎日の激務に追われ忙しくも平穏な日々を過ごしていた。魔族武闘会での激闘の傷も癒え、身体に元気を取り戻したヒロは、魔族武闘会での出来事やダンテたちとの絆を思い出しながら、日々を生活していた。


「よし、ここはこのぐらいで大丈夫かな~」


「ヒロ先輩! 螺旋階段の掃除終わりました!」


 1人のミニデーモンがホウキを持ちながらヒロの元に駆け寄ってきた。どうやら魔族武闘会の後にできたヒロの後輩のようだ。傷が癒えたヒロ達はロゼの推薦でデーモンに進化し、教育係を命じられたのだ。最初は嫌々だったヒロ達だったが、徐々にミニデーモンたちとも打ち解け、今では『一番優しい掃除班』と呼ばれているらしい。


「おっ? よし、じゃあ次は階段のカーペットを頼んでいいかな?」


「わかりました!」


 ヒロに言われた通りにミニデーモンは階段の一番上からゴミを掃き始めた。


「ヒロさん! 僕はどうしたら……?」


「そうだな、君はもう一回螺旋階段を拭いてくれるか?」


「えっ、また……ですか?」


「そうだよ、いつも言ってるだろ? ロゼ様は?」


「『綺麗好き』です!」


「その通りです。はい、いってらっしゃい」


 ヒロは笑顔でミニデーモンを送り出し、螺旋階段を再度掃除させる。デーモンに進化したヒロは人間でいうところの18歳前後の青年になっていた。体格も逞しくなり、顔つきもますます大人びている。


「よぉ、すっかりお兄さんじゃん」


 ヒロに話しかけてきた、細身で短髪のデーモンはダンテだ。ダンテは身長もさらにグッと伸びて、ヒロの頭一つ抜けている。ヒロとは正反対で、ダンテは熱血指導らしく、度々ミニデーモンを泣かしているらしい。


「ダンテ先輩……あそこ拭き終わったんですけど……」


 5人ぐらいのミニデーモンがダンテに恐る恐る聞いてきた。


「だ~か~ら~! まだ拭き続けろってんだよ! ぶっ飛ばすぞ!」


「ひえっ! わ、わかりました!」


 ミニデーモンたちは半べそをかきながら持ち場に戻っていった。


「ったく、ダンテは根性論で掃除させ過ぎだよ? 気を付けないとパワハラになるぞ」


「あぁ~、大丈夫なんだよ。あ~いうのはバシッといえば」


 ヒロとダンテが話していると、遠くの方からベネッタの声が聞こえてくる。ベネッタの体つきは女性らしさを増し、ピンクの髪の毛をサラサラとなびかせている。ロゼに負けず劣らずの美貌を持つベネッタは幅広い魔族から恋愛対象として見られていた。


「あの! だから、もう付きまとわないでってば!」


「いいじゃないか、ベネッタちゃぁん!」


 ベネッタは複数のデーモンに言い寄られている。花束を持っている者や、プレゼントを持っている者、中には凝縮された魔力を大量に持ってきている者までいる。


「ねぇ、ダンテ助けてくれる!? 毎日しつこすぎ!」


「いいじゃねぇかよ、ベネッタだけ6時起きだぞ? 俺たちなんか3時起きなのに優遇されすぎだろ」


 ダンテはブツブツと仕事で優遇されていることに愚痴を言っていた。


「もういいいだろ、そのことは。ほら助けるよ~」


 ヒロはダンテの肩をポンと叩くと、ベネッタを取り巻くデーモンを剝がしていく。


「ったく、おらぁ! クソ野郎ども! ベネッタから離れやがれってんだよ!」


 ダンテはデーモンに手を出しながら、力ずくで剥がしていく。手を出されたデーモン達はやり返そうとするが、ダンテは魔族武闘会の準優勝者の1人、反撃の隙を与えることなく、次々に返り討ちにしていく。


「くそっ! なんだよベネッタちゃんに見向きもされてないくせによ!」


 デーモンたちは捨て台詞を吐きながらベネッタのそばを離れていく。


「さっさと仕事しろってんだよ! って、そろそろ俺たちも掃除しないとな」


 そういいながらダンテはエプロンを巻きなおして、急いで自分の持ち場に戻った。デーモンに進化したとはいえ、まだ魔力を摂取しないといつ暴走するかわからない。正気を保つにはまだ魔力が必要なのだ。


「ふぅ、ダンテって頼りになるんだか、ならないんだか」


 ベネッタは腕を組んで、ダンテの行動に呆れていた。


「でも、いつも最後に頼ってるのもダンテだよなベネッタって」


 そういわれると、ベネッタは顔を真っ赤にしてアタフタし始める。


「ちょ、何言ってるの!? ばっかじゃない!」


 まるで火山が噴火したように激高したベネッタはブツブツと小言を言いながらどこかへ行ってしまった。


「ったく、みんな忙しいなぁ」


 ヒロはどこかほっこりとした気分になり、ロイシュタイン城をぐるっと見渡した。

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