第40話 新塾ダンジョン⑩鉄パイプ

「ボクは気にしてもしょうがないと思うけどね。それでボク達が殺されたら、馬鹿みたいじゃないか。さっさと殺しちゃおうよ」


 魔王は全く気にする様子はない。人の命が軽い感じ、やはり魔王は魔王なのだろう。


 しかし、配信でこんなことを言ったら炎上してしまう。あまりにも慈悲がなさすぎる。


 今の時代、何が火種になるかなんて分からない。俺は恐る恐るコメント欄をのぞいた。


 『理屈は分かったけどちょっと気分悪いな。倒すの?』


 『それ本当の話? 聞いたことないし推測で言うのはよくないよ。魔物倒したくないだけなんじゃ?』


『どっちでもいいよ。早く倒しちゃおう』


『がんばれ~』


 リスナーの反応は微妙だ。しかし、心配していたような魔王を責めるコメントはない。聞こえていなかったのだろうか。


 不思議に思っていると、ノ宙が耳元でささやいた。


「魔王ちゃんのマイク切ってるから」


 その言葉に安堵した。人の意識が残っていると言われて「そうですか。ふーん、でも俺も危ないしさっさと殺しますね」みたいな対応は流石にを反発を招くはずだ。


 リスナーからしたら、きっと魂を魔物から解放する手段を探す、という選択肢を期待するだろう。


 その選択肢を検討すらしないというなら、俺達のことを人間の心を持たない、血も涙もない配信者だと思うに違いない。


 では解放するための手段を探すべきか。


 「凸、どうするのじゃ?」


 レイヤが尋ねてきた。レイヤには、俺が迷っていることが分かっているようだった。


 今の俺達の戦力でゴーストを倒すことができるのはレイヤと上野さんだけだ。「倒せ」と俺が言えばこの戦闘はあっという間に終わるだろう。


 「攻撃…きます」


 上野さんがそう言うと【物理的遮断】を唱える。ゴーストの背後には何十もの黒い槍のような物体が現れてこちらを狙っていた。


 その光景に俺は心のモヤが晴れるのを感じた。都合がよく大義名分が出来たからかもしれない。これなら倒しても正当化できると思った。


 「やれ! レイヤ!」


 「りょうかいなのじゃ!!!」


 レイヤは【破壊の光】を何十にも分裂させると、ゴーストの黒い槍に向かって放った。


 ドウン、ドウンという花火を近くで見ているような爆発音が洞窟内に響く。二つの魔法が次々と衝突し、消えていく。


 その隙間を縫うように上野さんがゴーストに飛び込んだ。


 「グオオオオオオオ……」


 絶叫と共にゴーストは塵となって消え去った。


 使った魔法は毒兼毒ポイズンヒールだろう。先ほどまでと桁違いの魔力量をゴーストに送り込んでいた。殺すつもりで魔法を使っていた。


 『うおおおおおすげええええ』


 『倒した!!!!』


 『で、見た目な派手なこの子は誰よ。突然出てきたけど』


 『誰だかわからんがすごい!』


 『じ、自己紹介はまだですかね……』


 『さっきから見切れてた子だ!』


 『安らかに……』


 リスナーの反応を見て思い出す。上野さんの姿がバッチリ配信されていた。


 「ふっふっふ! ついにバレてしまったようじゃな! 今紹介するのじゃ!」


 レイヤは飛んでいるカメラを手元に戻すと、上野さんの顔に思いきり近づけた。上野さんはめちゃくちゃ困っているようであったが、ここはレイヤに任せるのが一番かもしれない。


 カランカラン。


 背後で金属音がした。見ると、何やら棒のようなものが転がっていた。ゴーストが使った魔力媒介だろうか? 


 近づきその棒を拾う。


 どうやら鉄パイプだ。中は空洞だが、ずっしりと重い。片手で振り回すのは難しいか。両手ならなんとかいけそうだった。


 「はははっ、武器にでもするかな。あのスレ主みたいに……」


 冗談半分の独り言だったが、同時に汗が引いていくのが分かった。


 上野さんが見つけた魔力の痕跡がある場所へ走った。大広間の一角に隠し扉が現れており、そこから反応が出ている。


 扉を開けると、そこには白骨化した三人の亡骸があった。


 俺は手を合わし黙とうをした。これでゴーストへの対応がチャラになるとは思わない。ただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 そして、その中に見覚えがある服があった。


 念のためネットで画像を確認した。間違いない。


 それは―――この【ダンジョン】を世に知らしめたスレ主の亡骸だった。

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社畜おっさん配信者、攻略済みダンジョンで封印されし美少女のじゃっ子を拾ったらバズった しんしん @sinkou

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