第12話 春秋五覇
春秋五覇の五人の記事を、改めて書き出そう。
文公の亡命中、
人々は介子推の死を悲しみ、文公はその山を
いっぽう斉では襄公が弟の
ただし魯も、姜子糾に兵を与えて斉に向かわせていた。この道すがら、管仲自ら桓公の命を狙うも、失敗。
結局桓公が後継者レースに勝利し公位についたのだが、このとき鮑叔が管仲を推挙。なので桓公、殺され掛けた恨みを飲み込み、採用した。
そうして管仲とともに覇者に上りつめた桓公であったが、やがて管仲が「クソな側近や側妾達をどうにかしないとヤバい」と言い残し、死亡。この遺言を守らなかったため、桓公在位中に斉の政治は乱れ、また死後には後継者争いが勃発。桓公の死体は二月近く放置され、死体に湧いたウジが部屋から溢れかえる勢いであった。
「丘の上に止まった鳥が三年鳴かず飛ばずなのですが、これは何と言う鳥なのでしょうな?」
「三年力を蓄えたのか! それはさぞ見事に羽ばたこうな」
また
かねてより百里傒の賢さを耳にしていた穆公、高級な羊の毛皮五枚で百里傒を買い取り、政治に参与させた。このため百里傒は五羖大夫とも呼ばれた。百里傒は友人の
この頃、隣国の晋は悪名高き獻公、すなわち文公の父の時代。文公が亡命したのと同じく、文公の兄である
この窮地を救ったのが、三百人からなる野人たちである。彼らは過去に穆公が所持していた名馬を食したことがあった。このことに配下らは激怒し、彼らを殺そうとしたが、穆公は言う。
「良い馬を食ったら酒を飲まねば、今度は人を傷つけてしまうだろう」
そして彼らに酒を与え、無罪放免とした。これに感激した野人たちが、穆公の窮地を聞きつけ、駆けつけたのである。彼らの活躍で、穆公は危地を脱することができた。
やがて秦に、流浪を重ねていた晋の文公がやって来る。その文公が晋に帰還、公位につくと、覇者とまで讃えられるようになった。
文公が死に、
ここで筆頭、斉桓晋文については即位までの経緯が載る程度。実際にどのような功績があったかは載らぬ。そして宋襄はボロ負けしたことのみ。いわゆる中原系覇者については「クソでした」と印象付けられるようテキストが編まれているのがわかる。
対して、楚荘と秦穆。完全に名君としての扱いである。一方で春秋戦国が終了した直後、曾先之は以下のように語る。
黃帝以來、天下列百里之國萬區、蓋自中國、以達于四裔、中國之制、可攷於王制者、九州千七百七十三國、古之建侯、各君其國、各子其民、而宗主於天子、歷夏殷至周、强倂弱、大呑小、春秋十二國外、存者無幾、戰國存者六七、至是遂倂於秦、
三皇五帝以来続いた天下の主の系譜が
「秦に成り代わられてしまった」ことが悪いことであった、と断言されておる。もっともこれは王化の不全に原因を求め、秦の存在そのもの、とまで言い切ることもなさそうでは、ある。この辺り、中華人の感情をどう検証するべきなのであろうかな。
曾先之よりもさらに後の時代の人、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884854958/episodes/16816927859257281585
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884854958/episodes/16816927859983441963
王夫之はなかなかに激烈な性格をしておるため、ここまでのヘイトをみなが持っていた、と見なすのはなかなか難しいことではあろう。しかしながら、王夫之の置かれた環境は元の時代を生きねばならなかった曽先之とも軸を一とするところがあったようにも思う。では、そうした中、なぜ曽先之は楚荘秦穆を称揚したのか。すでに年代別あらましで論語の子曰:「夷狄之有君,不如諸夏之亡也。」を引いた以上、改めてくだくだしくは語らぬが、「恐るべき敵こそ刮目して相対するべきである」と言うメッセージを拾っておかねばならぬように思うのだ。
我もまた、
「劉裕は寒微よりのし上がり、まともに土地資源も持たず、抱えて然るべき兵力もなかったにもかかわらず、腕を振るい、声を上げました。そのような振る舞いにも関わらず
敵を忌み嫌い、憎む。それは人間として当然の感情である。しかし一方で尊敬にも近しき感情を抱いておけねば、敵の実情を不必要に大きく、あるいは小さく見ることとなろう。それは不要なコストの増大化、もしくは致命的な惨敗を招きかねぬ。あるいは、地獄のような大虐殺であるな。斯様に考えるため、我は曽先之の著述よりそうした意図を引き出したい。
無論、これはあくまで我個人の感覚である。諸氏は諸氏で、自由に感じていただければ良い。散々に持論をぶちかました上で言う言葉でもないがな。
むしろこの手合の議論は、違うところをお互いに開陳し、比較し合えるのが良いと思う。違いを認識した上でのすりあわせ。結局はこれこそがここから展開する人種混交の時代における重要なタームであろう。無条件の受容も、無条件の排撃も、ともに禍根を残すに過ぎぬのである。
以上、春秋時代に関するコメンタリーを綴って参った。次話より、戦国時代の紹介に復帰いたす。
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