とある世界:ウィザーズサイドエディション
俺はそこに立っていた。
満月が煌々と辺りを照らす夜。
深い森をひとりさまよっていた。
不思議なことに深い森であるにも関わらず月の光が森を覆う樹冠を抜けて地に届き、わずかに霧がかっている森の中に多数の
ひたすら歩く。
やがて、深い森がわずかに開けた場所に出た。
奥に朽ちかけた廃墟の家を見つけた。
俺は中に入ってみた。家の中にはずらりと本が並んでいる。
魔導書だった。別の部屋には魔法具らしきものも置かれている。
俺はひたすら本を読んだ。
なぜか家を出ることは思いつかなかった。
睡眠も食事も忘れひたすら本を読んだ。
何日経ったのかもわからない。あるいは何年、何十年だったのかもしれない。
本に夢中になるあまり時間の感覚がなくなっていた。
ある日、本に書かれていることを実践しようと思い立ち、廃屋の外に出た。
念じると空中に炎の渦が巻き起こり、大地と天を焦がした。
また念じると、雷が起こった。竜巻、氷結。念じるだけで様々な事象が引き起こせた。
出てきたばかりの廃屋を見た。
この家に来たときよりもさらに朽ち果て、苔むした屋根や壁はもはや森と一体にでもなっているようだ。
手をかざして念じた。
廃屋の穴が塞がり、朽ちてふわふわ軟らかくなっていた材木が堅くしまった。
全面苔むしている姿は元のままであったが、朽ちて穴が空いた廃屋ではなくなり、古いが丈夫な家に戻った。
それからもひたすら魔導書を読み漁った。
一度読んで理解したつもりの本も、何年も経ってからもう一度読むと全く違う解釈ができそうだった。
いや、もしかすると内容も書き換わっているのかもしれない。
新しいことが理解できるのであれば俺にはどちらでもよかった。
◇◆◇◆◇
わしはずいぶんと年老いたようだ。
もう目も霞んでいる。
家にもとから置いてあった
手もしわくちゃで声はかすれていた。
ここに来て何年経ったかは想像もできない。
何百年も経ったような気がする。
それからもまたずいぶんと時が経った頃、ようやく何かを悟った気がした。
わしは重い腰を上げ、何百年ぶりとも何千年ぶりともつかぬ遠出をした。
月も出ていない真っ暗な夜であった。
わしは大昔に通った森のけもの道を戻り、最初にわしが立っていたその場所に向かった。
ひたすらに歩く。
夜が終わり、ブルーモーメントの仄かで真っ青な空が広がった。
その青が朝焼けに変わってくるころ、ようやく森の端に出た。
わしの記憶ではまだここは最初の地点ではない。
幾年も過ぎる間に森が侵食され、ここまで森が開けたようだ。
さらに進む。
すっかり朝日が上がり、もう朝焼けの面影は残っていない。
彼方に、まだくすぶっている黒煙が空高く上がっているのが見えた。
近づくと、焼けただれた村だった。
村は完全に焼け落ちていた。
無惨な死体が転がっている。火事か戦か。
人間以外にもゴブリンの死体もあるので、戦のようだ。
おおかたゴブリンに襲撃されて火をかけられたのであろう。
人間もゴブリンも、誰も生者がいない焼け落ちた村。
わしは生き残りがいないか探しつつ歩いた。
わしがこの世界に来た時に立っていた地点はすぐそこだ。
その地点に、たたずんでいるひとりの人間の子供を見つけた。
彼はまだ生きていた。
その瞬間、全てを思い出した。
「ひとりか?」
話しかけるわし、うなずく子供。
「ではお前だけでも助けよう。わしは森に住まう隠居したアークウィザードだ」
わしの真っ白の法衣は今や薄汚れて灰色となり、長年放置した灰白髪も肩まで伸びていた。
「俺はシバ。みんなを守れるだけの力が欲しい」
そうして子供は、意識を失った。
「わしがお前に魔法を授けよう。お前がみなを守れるようにな」
今は、何億年何兆年もかけて神と戦っている最中。
この子を魔法使いとして育てる。それが俺の使命だった。
魔法使いとなるこの子も、女神の
今の俺はそれも知っている。
だが、その彼の記憶が後の転生で
そうやってわずかな勝機をつむいでいくことで最後に勝つのだ。
俺は子供の
「シヴァ、お前に未来を託そう」
俺はシヴァを抱きかかえ、歩き出した。
― 完 ―
———————————————————
これで完結となります。
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転生ガチャに失敗した俺は、詰んだ世界で愛を叫ぶ 八田さく @hachida_saku
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