第33話 未知

 季節は巡り、まだ肌寒い3月の上旬。体育館では卒業式が執り行われた。体育館の後方では吹奏楽部が楽器を用意し、入退場の演奏を行う。入場にはアルセナール、退場にはカーペンターズの青春の輝き。この2曲はいつからかわからないが、毎年演奏されている。


 去年までは演奏する側だった3年生は、1・2年生の演奏で見送られていく。そんな1・2年生も3年生が部活を引退して半年以上積み重ねてきた練習と経験で力を付けた演奏は、見違えるほど変わっていた。


「3年生が抜けてまだ間もないですが、そんなことを言っている暇はありません。こっからはとにかく力を着けるときです。来年のコンクールに向けていろんなことを鍛えていかなければなりません。これから本番も立て続けにありますし、アンコンだってあります。立ち止まっている暇はない。来年こそは全国に行きます。」


 3年生が引退してすぐの部活で行われたミーティング。雨宮先生は気合いを入れ直し、集まっていた部員達にそう言った。

 1番楽器歴が長かった3年生が抜けたせいなのか、全体の音は安定感をなくしガクッとレベルが下がってしまったような感覚に1・2年生は陥る。それだけ3年生は偉大で、頼っていた。

 そこからの練習はなかなかのハードさだった。あれこれと音作りの基礎を磨き上げ、個人の技術を磨いた。


 ここまでにあった本番は5回。練習した曲は短い練習曲を合わせて軽く20曲。ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス、オリエント急行など吹奏楽のコンクールで自由曲になってもおかしくないような楽曲から、星条旗を永遠なれ、ワシントン・ポストなどマーチ王とも呼ばれたスーザ作曲の行進曲、ジャズやポップスなど幅広く滞りなく身につけられ、鍛えられてきた演奏は3年生を見送るには十分過ぎるほどの腕だった。


 よく晴れた空の下、卒業生は旅立ちの日を楽しんでいた。

「卒業おめでとうございます。」

 クラリネットは全員揃って3年生の詩織先輩のもとへプレゼントと色紙を持って訪れていた。詩織先輩は「ありがとう。」とあかね先輩から受け取り、「他の2人のところは行った?」と受け取った色紙を受け取りながら聞き、あかね先輩は「はい。」とだけ答えた。

「詩織先輩は続けるんですか?吹奏楽部。」とあかね先輩は詩織先輩に聞くと、

「私は続けるよ。今年はクラで夕星行くの私しかいないし、誰か来るの待ってるね~。」と冗談交じりに詩織先輩は言った。

 

 こうして3年生は次のステージへ羽ばたいていった。そして1・2年生の吹奏楽部も新たなステージへ向かう。


「定期演奏会まで残り1ヶ月を切りました。3年生が卒業し寂しい気持ちもありますが、次へ向けての練習はしていかなければなりません。例年3部構成でプログラムは組んでいて、1部は吹奏楽ステージ。ここではまずは全日の課題曲。これはこのなかから2曲やりますが、練習は4曲ともやってください。それからアルフレッドリード作曲、春の猟犬。2部は合同ステージで夕星高校とアルメニアン・ダンス パート1。これは毎年行っていることです。最後3部はポップスステージです。もう楽譜を配っているものも、これから配る物もきちんと練習してください。」

「はいッ!」

「では、練習を始めてください。」


 3年生は高校生として、1・2年生は新たな学年として未知なる世界への扉を開いた。これから先に起こることは誰にも予想はできない。でも、これまでの知識と経験はこれから先も必ず活かされていく。


 こうして夕星中学校吹奏楽部の長い長い序章が終わり、新たなステージの幕は上がった。

 

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青春即興曲 第一番:始まり ~宇宙の音楽~ @wakaco322

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