二、三四人目 幸せなサラリーマン

 屋台の周りにいる人の話し声がさっきよりもはっきり聞こえてくる。

 「どうしたんです?」

辻さんは相変わらずよくしゃべっている。

この雰囲気を感じれていないのか、はたまたそれを楽しんでいるのか、

どちらにしても彼以外の人は口を開ける気にもならない。

僕は彼らの前にビールを置いた。

 「まあでも、酒を飲んでるときぐらい、物騒な事を忘れようじゃないか」

部長さんが置かれたビールを飲みながら言った、

言っていることは楽観的に感じるが、言い方に重みがあるように感じる。

 「それも、そうですね!」

辻さんは納得したように言った。

 「そうだ、僕彼女できたんですよー」

ビールを飲みながら少し照れたように辻さんは言った

 「どんな人なんだい?」

部長さんが聞くそうして部長さんはビールを飲みもう一本と手で合図

してきたので僕は注いだ

 「凄く上品で、繊細でキラキラしていて

 目がパッチリで凄く運動が出来て頭もいい完璧な女性ですよ!」

そう話す辻さんはとても楽しそうだった。

 「なかなか居ないぞそんな完璧な人!

 辻くんは幸せもんだな」

部長さんは楽しそうにそう言った。

みんな酒が効いてきたようだ、

 「うらやましいですね、僕なんか仕事柄あまり出会いないですよー」

僕も話しに入った

 「大学で知り合って、何回か一緒に遊んで

 この前告白したらOKしてくれたんですよ!」

彼がいい人なのか性格の悪い人なのか僕の中で結論が付かなくなったとき

誰かのスマホがなった

 「あ、すみません」

辻さんはのれんを別けて出ていった、

部長さんの横を見ると、佐々木さんが寝ているのが見える

どうやら、無理して起きていたらしい。

 「最近は物騒ですなー」

部長さんがそう言うと僕もそれが何を指しているかわかった、

一部の人しか知らない噂だが僕は心当たりが有ったので続いた。

 「あのいじめの件ですよね、本当に可哀想に

 あんなに若いのに…、残念な限りですよ」

「わかりますか?私もこの事を知ってとても胸

 痛くなりましたよ、「人って団結すれば何でもできる」とは聞きますが、

 その瞬間は人と呼べるのかねー、

 にしても大将珍しいな、今どき話が分かる人は珍しいよ」

話してるときの部長の目は寂しそうだった、

「いやいや、仕事で身に付いた能力でしょうか。

 物事を客観的に見る必要が有ったんですよ、

 「事情だけに目を向けるな」ってのが前の職場の先輩の口癖だったので」

部長は凄く話しやすかった、のでついつい話しすぎてしまう。

 「でも、無知というのも残酷ですな」

人は純粋な者を尊が実際は穢れをしって人は成長するのだ、

穢れはある種の知識であるが皆その穢れを理由もなく避けるのだ。

 「そうですね…」

二人は考え込むようにため息をした、

冷え込んでいた空気に辻さんが終止符をうつ、

 「すみません、彼女が駅に居るので迎えに行きたいんですけど…」

 「おう、行ってこい!」

部長さんは喝を入れるように力強く言った、

 「じゃあこれ」

辻さんはお金を財布から出そうとしていたがぶが手でそれを止めた。

 「その金は彼女に使え」

部長さんはそう言った。

 「ありがとうございました。では、また来週よろしくお願いします」

小さな声でそう言って、辻さんはのれんを潜った。

 「私もあんな恋をまたしてみたいものですなー」

部長さんは笑顔でそう話す、

 「では、私も女房が晩御飯を作ってくれたらしいから

 帰りますかな。」

部長さんは佐々木さんの方を見た後に財布を出しながら言った、

 「じゃあ、佐々木くんの分と辻くんの分でこんくらいか…」

そう言いながら、明らかに有り余る程にお金を出して

カウンターに置いた、

 「ではお釣は…」

お金を数えようとしたとき、

 「釣りは要らんで、それでいろんな人を助けてやれよ」

そう、言って部長さんはのれんを潜った。

 「じゃあ、また来週な!佐々木くん、大将」

 そして、それと共に佐々木さんが起きた。

 「あれ、部長と辻さんは?」

寝ぼけながら、言いながら目を擦る。

 「皆、帰りましたよ」

 「そうなのか、じゃあ僕も帰ります」

まだまだ、安定していない声でそう言った。

 「じゃあ、支払いを…」

 「部長さんが払ってくれてますよ、」

そう聞いたあと、佐々木さん少しランタンを眺めたあと

 「では、ありがとうございました。」

そう言って、おぼつかない足取りでのれんを潜っていった。

僕はのれんの隙間からその後ろ姿を少し眺めたあと

グラスを洗った、もうそろそろ今日は終わりにしようかな…

1人でここに来る人がいないことを願う

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移動屋台わことん ムディフ @ciro223322

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