第41話 おまけ



「天城くん、なんで悲しいお話書いたの!」



 そう言って皐月はコピー用紙を天城に返した。それは天城がたまに趣味として書いている小説だった。皐月がまた読みたいなと言ってきたので、見せても問題ないものを彼女に読ませている。


 今日は天城がぱっと思い浮かんだ少し悲しい物語を皐月に渡したのだ。ハッピーエンドが好きな彼女にとっては驚きのようで「何でさ!」と皐月は頬を膨らませていた。



「思い浮かんだので」

「ハッピーエンドにも変えれなかったの!」

「いえ、何となくこのまま貴女に読ませてみたいなと」

「反応見たかったのか!」

「そうですね」



 皐月の反応に天城はくすくすと笑う、良い反応をしてくれるなと。楽しまれているなと彼女も気づいたのか、「意地悪だなー」と口を尖らせた。



「この前の童話みたいなやつの方が好み! あれハッピーエンドだったもん!」


「あれも変えようと思えばメリバに出来ましたけどね」

「やめてよね?」

「やめたじゃないですか」



 やろうと少しは考えたのかと天城の返答に皐月は察したようだ。それでも嫌いだとは言わないあたり、物語自体は楽しめたのだろう。



「どうでしたか」

「やっぱり天城くんのお話は好きだなーって思った」

「悲しい話でしたけどね」

「それなんだよ。ハッピーエンドが好きだけど、天城くんの話は好きなんだよ」



 嫌いになれないんだよと皐月はコピー用紙を眺めながら眉を寄せる。どんな物語であっても、天城の綴る話は嫌いにはなれないようだった。そんな彼女だから天城は小説を読ませている。


 皐月は思ったままの感想を言ってくれて、綴った物語を好きでいてくれるから。



「天城くん、気持ちに素直になったら意地悪度増したよねー」

「そんなことはないかと」

「えー、そうかなぁ」

「嫌でしたか?」

「まっさかー、好きー」



 違う一面が見れて、自分に心を許してくれたみたいでむしろ嬉しいと皐月は笑う。なんと、ポジティブな思考だろうかと天城も笑ってしまった。


 ただ、素直になったと思わなくもなかった。ここまで誰かに心を開くということはそうないことだったから。



「今度はハッピーエンドが読みたいー」

「思い浮かんだら書きますよ」

「絶対だからね!」

「そんなに読みたいですか?」

「天城くんの書く物語が好きだからね!」



 読みたいに決まっているじゃないかと皐月は言う。その嘘のない言葉にじゃあ次は彼女を喜ばせるような物語を綴ろうじゃないかと天城は決めた。



END


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一途なさつきちゃんと塩対応なあまぎくん~同級生の自殺を止めたら一途にぐいぐいくるようになった件~ 巴 雪夜 @tomoe_yuya

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