第40話 これからも、いつまでも
「ほーら、お前やっぱ七海っちのこと好きじゃん」
そう言って龍二は菓子パンを頬張る。昼休憩、中庭のテラスで天城は皐月のお手製弁当を食べていた。
龍二に付き合うことにしたと話したのだ、言わなくともいずれは知られるのだから早めに話した方がいいと判断して。龍二はそれ見たことかと言う、お前は嫌いじゃなかったんだよと。
バレンタインの時のことを言っているのだろう。あの時にはもう答えは出ていたのだが、龍二は随分と前から気づいていたようだ。天城は「気づいたのは最近ですからね」と返した。
「気づいてみると不思議なものなのですが」
「案外すんなり受け入れたっぽいな」
「まぁ、そうですね」
「くっそー、とうとうお前にも恋人ができたかー」
龍二は悔しそうに項垂れる。お前は俺を置いていかないと思っていたなどと言っているが、天城は適当に相槌を打つ。そんな二人の様子に皐月は「相変わらず仲が良いね」と呟いた。
相変わらずというか、相手から構ってくることが多いだけなのだがとそんなことを思っていれば、そうだろうと龍二が復活したように顔を上げる。
「幼馴染だからな! 絆は強いぜ!」
「そうでもないでしょうに」
「お前、冷たいなぁ」
「天城くんらしい返事ー」
あははと皐月は笑い、龍二はぶーっと頬を膨らませているが天城は気にしない。これもいつものことだからだ。
絆が強いかどうかはさておき、仲が良いというのは確かであると言えば、彼はそうだろうと胸を張る。その態度はいったいなんだろうかと天城は苦笑した。
「それで、上機嫌なのね、七海っち」
やっと恋が叶ったのだ、それは機嫌も良くなるよなと二人を羨ましげに龍二は見る。彼は恋人がいないので、好きな人は一緒にいられるといったことが羨ましいようだ。
「俺も恋人がほしいぃぃぃぃ」
「テーブルを叩かないでください。食べづらいです」
だんだんとテーブルを叩く龍二を咎めれば、彼はむっとふくれっ面になった。そんな表情をされても困るわけだが、天城は「貴方にも出会いはありますよ」と言ってみる。すると、龍二は「勝ち組には分からないんだよー」と、もっと面倒くさい表情をみせた。
龍二は少し面倒なところがある。それは分かっているのだが、うん、面倒くさいなと天城は溜息をついた。
「天城くんの言う通りだよ。速水くんは、かっこいいからね。きっと良い女の子が現れるよ。バレンタインだってチョコ貰ってたじゃん」
「それはそうなんだけどさー。告白されてはいないんだよなぁ」
「えーそうなの? あたしこの前、隣のクラスの女子に速水くんって彼女いるの? って聞かれたけどー」
「まじでっ!」
うんと皐月は頷く。どうやら、よく話すところを見られていたらしく、情報提供を求められたのだとか。女子というのはまず、相手の情報を集めるのかと天城は少し驚いた。
龍二はテンションが上がったようにいろいろと質問している。それを暫く眺めていれば、ふと彼がこちらを向いた。
「お前さー、俺が七海っちと話していても何とも思わないわけ?」
「と、いいますと?」
「いや、彼女が他の男と話してたらさー、嫌じゃね?」
そう問われて龍二の言いたいことが何となくわかった。他の男と話していたら嫉妬しないのかと彼は言いたいのだ。そう言われても、龍二が皐月に好意を抱いているわけではないことを知っている。それに――
「皐月さんは俺のことが好きですからね」
「そうだよー、あたしは天城くんが大好きだからね!」
「惚気じゃねぇか!」
聞いた俺がバカだったと龍二は机に突っ伏す、二人の惚気に当てられてしまったようだ。天城が「そんなことを言われても、好きなのだから信用しますよ」と追い打ちをかければ、龍二に「もう惚気はいいです」と返されてしまった。
END
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