第5話 借金地獄の冒険者④

アドベントの片隅、安宿の一室。

セオルは眠れぬ夜を過ごしていた。


窓から漏れる月明かりに照らされ、彼の瞳は決意に満ちていた。

翌朝、冒険者ギルドの扉が開く。


「もう一度チャンスをください」


受付嬢ユーレンは、セオルの真剣な表情に息を呑んだ。


「セオルさん……」


その時、轟音と共にギルドが揺れた。

扉が勢いよく開き、血相を変えた冒険者が飛び込んでくる。


「大変だ!巨大ゴブリンの軍団が襲来!町が危険だ!」


パニックが広がる中、セオルは静かに前に出た。


「私が行きます」


ユーレンは驚愕の表情で彼を見つめる。


「でも、あなたは……」


セオルは微笑んだ。


「大丈夫です。きっと役に立ってみせます!」


町の広場。


数百のゴブリンが押し寄せ、その中央には巨大なゴブリンの首領が立っていた。

建物は破壊され、悲鳴が響き渡る。


セオルは深呼吸し、目を閉じる。


「俺ならできる!」


彼の周りに、青白い光が渦を巻き始めた。


「ロナ・バースト!!!」

「「ロナ・バースト!!!」」

「「「ロナ・バースト!!!」」」


眩い光が広場を覆い尽くす。

轟音と共に、ゴブリンの大群が一掃された。


しかし、巨大ゴブリンはまだ立っている。


「あと何回使えるんだろうか……」


借金地獄の底は見えない。

利子の返済はどんな形でやってくるのか。


セオルの青白い顔色が不気味に微笑んだ。


「もうやるしかない……もう一度……」

「やめて!死んでしまう!」


ユーレンの悲痛な叫び声が響く。


「ロナ・バースト!!!」


「「ロナ・バースト!!!」」


「「「ロナ・バースト!!!」」」


「「「「ロナ・バースト!!!」」」」


「「「「「ロナ・バースト!!!」」」」」


前とは比べものにならない光が広がる。


巨大ゴブリンが砕け散り、そして……

光が町全体を包み込んだ。


バタリ……


セオルは倒れ込む。


「セオルさん!大丈夫ですか?」


彼は弱々しく笑う。


「大丈夫です。でも……借金が増えちゃいましたね」


* * *


数日後、ギルドにて。


「セオルさん」


ユーレンが興奮した様子で呼びかける。


「凄いことになってますよ!」


彼女は一枚の書類を差し出す。


「王国から報酬が出ることになったのです!」


セオルは驚きの表情を浮かべる。


「しかもその額なんと10億ゴールドですよ!」


セオルは言葉を失った。

しかし、すぐに穏やかな笑みがこぼれる。


「これでなんとか……」


彼は遠くを見つめ、静かに続けた。


「昨日わかったのですが、お金で返済できるみたいなんですよ」

「返済って?」

「ちょうどロナ・バースト10回分のマナの返済です」


ユーレンが困惑した表情を浮かべる中、セオルは苦笑いした。


「まぁなんとかなるか」

「なんとかなりますよ!」


セオルは頷いた。


彼の新たな冒険、そして使命が始まろうとしていた。


かつては呪いだと思っていた「借金地獄」が、人の役にも立てる。

セオルの物語は、まだ序章に過ぎなかったのだ。

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転生覗見録(てんせいのぞみろく) 美桐院 @in_bito

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