第4話 借金地獄の冒険者③

朝靄の立ち込める冒険者の町アドベント。


石畳の通りを、一人の青年が歩いていく。

セオルだ。


彼の目は、遠くにそびえる魔導書店の尖塔に釘付けになっていた。


店内に足を踏み入れると、古書の香りが鼻をくすぐる。

棚には無数の魔導書が並び、それぞれが神秘的な光を放っている。


「いらっしゃいませ」


店員の声に軽く頷き、セオルは目的の棚へと向かう。


「あった!」


セオルの手が、三冊の魔導書に伸びる。

「マナ回復速度・倍速(壱)」「マナ回復速度・倍速(弍)」、そして「超級魔法ロナ・バースト」。


店員の女性が驚きの表情を隠せない。


「ロナ・バーストですか...」


セオルは財布から50枚の50万ゴールド硬貨を取り出す。

硬貨が放つ金色の輝きに、店員の目が釘付けになる。


「ぴったり2,500万ゴールド頂きました!」


魔導書を手に入れたセオルは、専用の部屋で魔法を習得する。

魔導書が光り、チリとなって消えていく様子に、セオルは決意を新たにした。


* * *


深い森の中、セオルは初めての討伐クエストに挑んでいた。


「ロナ・バースト!!!」


轟音と共に、眩い光が森を貫く。

爆風に吹き飛ばされ、セオルは後方へと跳ね飛ばされた。


煙が晴れると、そこには荒涼とした光景が広がっていた。

ゴブリンの姿はおろか、生い茂っていた木々さえも消え去っていた。


「やってしまった...」


セオルは呆然と立ち尽くす。

しかし、まだ12体のゴブリンが残っている。


「ロナ・バースト!!!」

「「ロナ・バースト!!!」」

「「「ロナ・バースト!!!」」」


魔法の詠唱が森に響き渡る度に、新たな荒地が生まれていく。


* * *


冒険者ギルドの受付。

セオルは汗と土にまみれた姿で立っていた。


「すいません、クエストを完了したのですが...」


受付嬢ユーレンは、驚きの表情でセオルを見つめる。


「もう完了したのですか!有望な新人さんですね」


しかし、その喜びもつかの間。


「あの、それで素材の方は...」

「その素材のことで、実は、ちゃんと倒したんですけど、跡形もなく消えてしまって...」


ユーレンの表情が曇る。

大きなため息と共に、彼女は問いかける。


「どんな魔法で?」

「これ言わなきゃいけないんですか?」


セオルは小声で囁くように答える。


「ロナ・バーストです」


ユーレンの目が大きく見開かれる。


「はぁセオルさん、その魔法はですね。もし仮に使えても、ホイホイ使えるものではないんですよ」

「そうですね、マナ消費激しいですし」

「少しは知っているようですね。ですが、もし仮にその魔法で15体のゴブリンを倒したなら、何回この魔法を使ったのですか」

「4回です...」


セオルの言葉に、ユーレンは呆れたように首を振る。


「はぁ4回ですか、よーく分かりました」


彼女の声には皮肉が滲んでいた。


「もう少し上手い冗談を考えてください」


セオルは俯く。

ユーレンの言葉に反論できない。


「もう今日は疲れました。私も他の仕事がありますし。一旦、このクエストは保留扱いにしておきます」


セオルは静かに頷いた。


冒険者ギルドを出る彼の背中には、疲労と落胆が滲んでいた。

しかし、その瞳の奥には、まだ諦めていない決意の光が宿っていた。

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