第3話 借金地獄の冒険者②

海風が髪を撫でる港町ギルバード。

埠頭に停泊した大型帆船から、一人の青年が降り立った。セオルだ。


「ギルバード港に到着しました。お気をつけて」


クルーの声に軽く会釈し、セオルは埠頭を歩き始めた。


片手には父オルマから渡された100万ゴールドの入った財布。

もう片方には小さな鞄。これが彼の全財産だった。


港は活気に満ちていた。


荷物を運ぶ労働者たち、取引を交わす商人たち、そして遠方からの旅人たち。

様々な人々が行き交い、喧騒が渦巻いている。


セオルは深呼吸した。塩の香りと魚の匂いが混ざった空気が肺に染み渡る。


「さて、これからどうしたものか……」


彼の眼差しは、港の奥に広がる町並みへと向けられた。

生活の糸口を見つけなければならない。


そう、ここが彼の新たな人生の出発点なのだ。


* * *


「どうか私を雇ってください!」


セオルの声が、商会の応接室に響く。

しかし、机の向こうの中年の男性は、冷ややかな目でセオルを見つめるだけだった。


これで何軒目だろうか。

働いた経験もなく、商品知識もない若者を雇う気になれる商会など、そう簡単には見つからない。


疲れ果てたセオルが最後に訪れたのが、ルイビ商会だった。


「期間限定で働いてみる、というのはどうだ?」


ルイビ・エルボン。

痩せた体つきながら、鋭い目つきの男性だ。


彼の言葉に、セオルの目が輝いた。


「ありがとうございます!ご期待に応えられるように頑張ります!」


* * *


それから半年。

セオルの働きぶりは目覚ましかった。


「セオル君、君を正社員として迎えたい」


エルボンの申し出に、セオルは驚きと喜びで言葉を失った。


「ほんとですか!」

「ああ。それだけじゃない。次の仕事は、セレブ御用達のセールスだ」


高級な応接室。

エルボンの口から語られる新たな仕事の内容に、セオルは身を乗り出して聞き入った。


* * *


豪華絢爛な客室。

ジュイン伯爵夫人が優雅にソファに腰かける。


その前で、セオルがトランクを開ける。


「新作のラインアップはこちらになります」


トランクの中には、まばゆいばかりの宝石が輝いていた。


「まぁ、どれも綺麗じゃないの」


夫人の目が輝く。

セオルは微笑みを浮かべながら、一つ一つ丁寧に説明を始めた。


「こちらは、エメール宝石の中でも珍しく大きく採掘されたものを、世界一の加工職人によって作成されたものです。世界に二つとない限定商品となっております」


セオルの巧みな話術に、夫人は次第に引き込まれていく。

鏡の前で、エメラルドのネックレスを首に当てる夫人。


その姿に、セオルは確信めいた表情を浮かべた。


「奥様にピッタリの商品だと思い、選んできて正解でした」


最終的に、ネックレスとイヤリングのセットで1,500万ゴールド。

ありえない金額だが、夫人の満足げな表情を見れば、この取引が成功だったことは明らかだった。


セオルは丁寧に お辞儀をし、豪邸を後にする。

彼の顔には、達成感と自信に満ちた表情が浮かんでいた。

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