エピローグ
少し休憩を挟んだ後に霧部が話し始めた。
「先日話したお見合い相手を紹介する件。すまんが白紙になった」
「ああその件ですか。弁護士でしたっけ? 期待していませんでしたので大丈夫です。気にしないでください」
煌月はあっさりと流した。
「期待はしてほしかったんだが。いや、本当にすまない。あの後、予定していた人が実は彼氏持ちだと分かってな。しかもその交際相手と結婚の話までしているとは、全く気が付かなかったらしくてな」
「彼氏持ちなのを黙ってただけでしょう? どうせ最初から期待などしていません。教授の顔を立てるつもりだけでしたからね」
煌月から本音が流出した。霧部は複雑な表情をしたが、すぐに立ち直った。
「それでな。その代わりというと印象が悪いかもしれないがな。こちらのお嬢さんはどうかな?」
煌月は写真でも見せられるのかと霧部の手を見遣る。しかしその手は懐にもポケットにも向かわない。掌が隣に座るルナアリスに向いた。
「……どういうことでしょうか?」
「月の導きじゃないかと思うんだがね。代わりの女の子を探す為に片っ端から連絡したそうでな。そうしたら最近煌月に会ったことがあって、しかも好意的な印象があるという彼女に当たったんだという。実はこちらのお嬢さん、見合い話を持ってきた研究仲間に協力してくれていた子なんだよ」
煌月は腕を組み、眼球だけを霧部からルナアリス、彼女の両親へと動かした。
霧部は真面目な顔、ルナアリスと彼女の両親は煌月に微笑んでいる。
「正気ですか?」
「本人もご両親もかなり前向きでね」
「うちの子が非常に好意的ですし、改めてお見合いの段取りを組むのはどうでしょうか?」
お父様の提案に煌月の顔が少しだけ歪んだ。
「いや、お嬢さんは確か十一歳だったと記憶していますが」
「はい。でも年齢は関係ありませんよね? 十歳くらいの年の差は今や珍しくもなく」
「二十歳と三十歳なら普通ですが、十一歳と二十一歳は普通じゃないですよ。いつの時代の話ですか」
「この時代の話だよ。いやすぐに籍を入れるという話では勿論ないよ?」
「当たり前だ。そんな事があってたまるか」
煌月の表情が更に歪む。
「お若いのに結構な資産家だと伺っておりますので私も安心してお任せできます。まずは健全なお付き合いからということでどうか」
お母様は玉の輿に乗れるとでも思っているのだろう。
「私達夫婦は国連主導の国際医師団に所属しておりまして。色々な国活動している事もあって、中々娘との時間を作れないのです。幼少期に連れ回す訳にもいかず、妻の祖国のイギリスで知人の大学教授に預けていたのです」
「この子は煌月に似ている所があるんだよ」
睨むつもりはないが、鋭い眼光が霧部に突き刺さる。霧部は怯むこともなく堂々とした姿勢を崩さない。
「満月の日に出会い、人の縁によって引き寄せられる。煌月よ、この子は月だ。君の運命を動かす天命の月の一つなのだよ」
「この子がですか? まさかそんな」
「知っているかい? 彼女の名前は、『ルナ』と『アリス』が組み合わさっている。ローマ神話には、『ルナ』という名前の『月の女神』がいるんだよ」
煌月は目を見開いて、まるで石になったかのように動かなくなった。月は煌月を見上げていた。
白髪探偵 殺人城への招待状 オウルマン @owl30
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