魅惑の夜食とダイエッター
砂上楼閣
第1話
草も眠る丑三つ時。
俺は携帯のライト片手に台所にいた。
もう片方の手には紙袋。
中身は会社帰りに買ってきた焼き芋だ。
当然温もりどころか芯まで熱なんて残ってない。
だが、それでいい。
石焼き芋機でじっくりと、加熱された小石が放射する遠赤外線で熱されたさつまいも。
中までゆっくり、しっかりと熱された石焼き芋は芯までねっとりと柔らかくて、冷めた今でも十分に美味しい事だろう。
が、俺はそこで満足なんてしない。
ここからさらに一手間加える事で、こいつをさらなる高みへと昇らせる!
用意するのはグラニュー糖とアルミホイル。
そう、俺が今から作ろうとしているのは……焼き芋のブリュレだ!
包みから取り出した冷えた石焼き芋をまな板に乗せ、包丁で縦に2つに分ける。
想像通り、中までしっとりと、いや、ねっとりとしていて、このままでも十分過ぎるほどに美味しそうだ。
包丁はすぐに水につけておく。
放置して乾いてしまうと片付けに時間がかかるからな。
ブリュレと深夜の調理は時間が命。
あ、そうそう。
なぜ石焼き芋か、って言うのを説明しておこう。
さらになぜ、買ってきてすぐに使わずに冷ましておいたのかと言うと…
カラメリゼする前に芋をしっかりと冷やしておくことで、砂糖とさつまいもが馴染むことなくパリッとしたカラメルができるからだ!
やっぱりブリュレはあの表面のパリパリ、カリカリした所があってこそだよな。
別にこだわりがなければ大学芋でも買ってくれ。
あ、あと普通に家でさつまいもをじっくり焼くのが面倒くさいってのもある。
まぁ作ろうと思えば工程そのものは簡単だ。
濡らしたさつまいもをアルミホイルで包んで、オーブンで焼くだけ。
後は竹串を刺してみて抵抗がなければオーブンの中で粗熱が取れるのを待って、冷蔵庫に入れて冷やせばいい。
温度や時間はネットで調べればおすすめの芋の品種ごとに色々と出て来るよ。
けどまぁ買った方が手っ取り早いし、何より家で作るより石焼き芋機で作った方が美味い!
個人の感想なので、ご家庭で作るのであれば色々と試してみるのをおすすめする。
カラメリゼって言うのは、菓子とかの表面に振りかけた砂糖をバナーで焦がして色付けすることだ。
他にもカラメルで装飾したり、シロップをカラメル状に煮詰めることもカラメリゼって言うらしい。
それもまぁ詳しくはネットで調べてみてくれ。
正直お菓子作りはそんなに詳しくないんでね。
さて。
バーナーがあれば、切った焼き芋の断面にグラニュー糖をかけてお好みにカラメリゼするんだが、あいにく一般家庭にバーナーがあるかは微妙なところだ。
その場合はアルミホイルを使う。
あるならフライパン用のホイールシートだな。
フライパンにアルミホイルを敷き、そこに大さじ何杯かのグラニュー糖を入れる。
入れる焼き芋の大きさにもよるが、中くらいなら3杯くらいか。
中火で、かき混ぜる事なく全体が茶色くなるまで加熱する。
そしたら断面を下にした焼き芋をできたばかりのカラメルの上に置いて、数秒で取り出す。
あとは冷蔵庫に入れて数分冷やしたら出来上がり。
お好みでアイスとかクリームをトッピングすれば魅惑の焼き芋ブリュレの出来上がりだ。
な?簡単だろ?
焼き芋さえ買ってくれば、片付け含めて所要時間は30分以内。
最高じゃないか。
冷やしてる間に包丁を洗って、アルミホイルを片付ける。
さて、そろそろいいか?
冷蔵庫を開けて焼き芋ブリュレの様子を確かめる。
ひんやりした焼き芋に、その断面を覆うカリカリのブリュレ。
……いい感じだ。
内緒で買っておいたクリームをトッピングして、さぁ実食!
これぞ深夜の禁断メニュー…
「ねぇ、何やってるの?」
「!?」
台所の灯りが付けられると同時に、ブリュレ以上に冷たい声が俺の背中にかけられた。
ゆっくりと振り返ってみれば、そこには能面をかぶったみたいに無表情な妻の姿が。
さらに付け加えるなら、ここ数日、ダイエットで常にピリピリしている妻が、まるでそう、しばらく前からずっと様子を見ていて今まさに声を掛けましたがなにか?みたいな雰囲気を漂わせてまして。
はい…
俺は出来立ての焼き芋ブリュレの乗った皿をテーブルに置き、流れるように正座したのだった。
みんなも気が向いたら焼き芋ブリュレ、作ってみてくれよな!
食欲の秋がやってくれば石焼き芋の屋台も姿を現すし、スーパーによっては焼き芋コーナーがあったりもする。
バーナーがあれば焼き加減も簡単に、何層にもパリパリカリカリなブリュレを作る事だって可能だ!
焼き芋をいくつかに分けておいて、食べたい時だけブリュレにする事だってできる。
ただ周りにダイエットしてる人がいる時は要注意。
悪いが何の責任も取れん!
それではまた!
魅惑の夜食とダイエッター 砂上楼閣 @sagamirokaku
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