フォース・オブ・ウィル 2000年の時空を越えてありがとうと伝えたい

ヤニカス太郎

第1話 空山 征十郎


 





 からりと乾いた風が肌を撫でる。日本の湿った空気と比べて異国の空気と言う物を実感する。


 ぱっちりとした二重に少しだけ吊り上がった目、茶色に染めた少し癖のある前髪を目に懸かる辺りまで伸ばしたその青年は周りを見渡した。

 日本人にしてはくっきりとしたそれなりに整った顔をしている青年は、その表情に少しばかりの笑みを浮かべた。


 辺りには石造りの建造物が立ち並び日本人には見慣れない景色が広がっており、その風景だけでも遠く離れたこの地に来てよかったと大多数の人がそう感じるだろう。

 

 街の中心部から外れたこの場所ですらこうなのだから道中通り掛けで目にした、ここ一番の名所である聖地の神殿を目にした時の感動は一入ひとしおだった。

  

 日本人の青年である空山征十郎そらやませいじゅうろうが何故この場所、中東にある国の首都でもある聖地に居るか説明するには少し時を遡る事になる。


 数日前、大学の長期休暇に入った征十郎が夏休み前の最後の授業を終え自宅に帰宅すると、家の駐車場に見慣れたメタリックブラックのスポーツカーが止まっており、母の友人が家に尋ねて来ているのが分かった。

 

 前髪を逆立て背中まで伸ばした黒髪を後ろに流しサングラスをかけ、出会った頃から変化がない年齢不詳の無駄に整ったルックスを持つ陽気なアメリカ人の姿を思い起こし、そんな彼の事が少し苦手な征十郎は少し溜め息を吐きながら自宅の扉を開ける。

 玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩いてすぐの洗面所に入る。棚からタオルを取り出し年々増していく夏の暑さで噴き出た汗を拭っていると横にあるリビングから話し声が聞こえてきた。

 扉越しで上手く会話は聞こえないが、珍しく真剣な話をしているようだという事は伝わってくる。

 

 「―はどうしても――へ行かないと駄目なの? 」

 「ああ、―――が―を呼んでいる。―達の為に私は――へ来た―――の話は何度もしてきただろう? 」

 「でも! 」

 「―ももう二十になったんだ。これ以上は…… ! 」


 汗を拭き終わりタオルを首にかけながらリビングに顔を出すと話をしていた二人は驚いた顔をして話を中断し、征十郎の方へ視線を向けた。


 「あ、帰ってたのね……お帰りなさい。全然気づかなかったわ、ごめんなさい」

 「ただいま。別にいつも通り入って来たんだけどな。二人とも何やら話に夢中だったみたいだし逆に悪い事をしたと思ったくらいだよ 」


 母が自分の帰宅に気づかなかった事を気にする様に声を掛けてきたが、逆に話の邪魔をしたと思った征十郎が申し訳なさにそう返すと、先程想像した通りの人物、家の前に停まっていた車の持ち主のアメリカ人であるアレックス・Jジョン・スミスが白い歯を煌めかせながら高めのテンションで会話の間に入って来る。


 「いいや、そんな事はない。それよりもセイ、君に用があったんだ。君は明日から夏休みだろう?という事で私と海外旅行へ行こう! 」

 「ということでってどういう事だよ?! 」


 いきなり突拍子もない事を言うアレックスに征十郎は思わず声を荒げてしまうがそんな事にはお構いなしとばかりにアレックスは続ける。


 「深い理由はない!だが世界の色々なモノに若いうちから触れておくのは大事だ。真理愛の許可は取ってあるし君はパスポートも持ってるだろ。ノープロブレムだ」

 「はぁ?!俺にだって予定ってものがあるんだがそれは無視か!? 」

 「君の将来に役立つ経験だ。それに比べれば他の事なんて小さき事さ。さ、わかったら荷造りしたまえ。私も準備しなくちゃいけない。用も済んだし私は帰るよ」

 

 HAHAHAと笑いながら部屋を出ていくアレックスを見て征十郎は(こういうとこが昔から苦手なんだよ…)と内心愚痴る。

 

 「母さんもなんで許可したんだよ…」

 「確かに強引かもしれないけどアレックスのいう事は一理あると思うし、それに昔からアレックスに英語を教えてもらって来たのだからそれをあなたが試すいい機会かなとも思ったのよ。行くのが英語圏じゃなかったとしてもいい経験にはなる筈だしね」


 思わず不満をこぼしてしまい、申し訳なさそうにそう返す母を見て想像以上に悲しそうな顔をしている事に気が付き征十郎は慌ててしまう。


 「まあアレックスが言いだしたら止めるのは無理って分かってるし、ちょっと愚痴りたくなっただけだからそんな顔しないでくれよ……」

 「ごめんなさいね」

 「謝らなくていいって。アレックスは無駄に行動が早いから俺も何時でも行ける様に準備してくるよ。仕方なくだけど」


 そう言い部屋を出る時に見えた母の悲しそうでそれでいて寂しそうな顔に征十郎は(俺そんなひどい事言ってないよな? )と少し不安になりながら自室に向かった。


 それから少し時は流れ出発の日が訪れた。

 今から海外へ旅立つ息子の手を心配そうに両手で握りながら真理愛まりあは寂しさを隠し切れない表情で征十郎を見つめた。 


 「気を付けて行ってくるのよ」

 「わかってるって。母さんはお土産楽しみにしてなよ」

 「元気に帰って来るのよ」

 「そんなに心配ならアレックスに俺を連れて行く事許可しなきゃよかったのに……。俺だってそっちのが都合よかったからさ」

 「ダメね。母親の私がこんなんじゃあなたも安心してどこにも行けないものね。私も子離れしなくちゃあなたの母親失格だわ。でもこれだけは言わせて。何があってもあなたは私の宝物、だから絶対に帰って来てちょうだい」


 そう言い終わると真理愛は征十郎を抱きしめた。


 「なんだよ後生の別れみたいなこと言って……。多少治安は悪いとこではあるらしいけど縁起わりぃよ、まったく。まあ母さんの過保護は今始まったことじゃないし、いいけどさ。約束するから離してくれよ」

 「絶対よ」

 「わかったって。絶対帰って来る」


 寂しがる母を抱きしめ返す征十郎の姿をスポーツカーにもたれかかりながらアレックスは静かに見つめていた。


 「アレックス、悪い待たせたな。もう行ける」

 「OK。なら出発しようか」

 「アレックス、征十郎を頼んだわよ」

 「勿論。約束は守るさ」

 「なんだよ、俺はそんなに心配されるほど子供じゃないっての」


 いつにもなく真剣な声音で真理愛へ言葉を返すアレックスを見て征十郎はむすっとした表情になりながら車へ乗り込んだ。

 そんな征十郎を他所よそに何か覚悟を決めたかの様な視線を送る真理愛と、それにこたえる様に頷いたアレックスだったが、その様子は征十郎に見えてはいなかった。


 出発した二人はその後、順調に飛行機に乗り目的地である聖地と呼ばれる首都が存在する中東のとある国へと降り立ったのだが、アレックスは征十郎を連れていきたい場所があると言い、アレックスがレンタルしていた車に押し込まれ移動していた。


 市街地を抜けた場所を進んでいるため車はガタゴトと揺れ、慣れない旅で疲れた体には優しくなかったが、見慣れない異国の風景が荒みかけた征十郎の心を癒してくれる。

 外の景色が少し寂れた古い石造りの建造物が目立つようになりそれからしばらくした後、車はようやく停車し古びた神殿と思われる建物が建ち並ぶ小さな集落の様な場所で征十郎は降ろされた。

 辺りには木が生えており乾燥した大地が多いこの国では珍しい光景だった。

 以上が冒頭へと至った経緯である。

 

 アレックスは着いて早々に宿となる民家に案内すると征十郎をその場に残し、用があるとだけ告げ何処かへと車を走らせて行った。

 

 一人放り出された征十郎は仕方がないので荷物を宿に置いて、集落の中を探索する事にし、辺りを歩いて回っていた。

 幸いなことに集落の住民たちは英語を話せる者達ばかりだった為、アレックスから十年近く英語を学んでいた征十郎は苦労することなく彼等とコミュニケーションが取る事ができ、景色がいい場所や歴史のある建造物を彼等に教えてもらう事で、思いのほか有意義な時間を過ごす事が出来ていた。


 しかし、住人が100人ほどの小さな集落の中での探索など直ぐにやる事が無くなってしまうのが必然。

 征十郎は2時間ほどで集落を一通り見て歩き、他にやる事が無くなってしまっていた。

 

 慣れない土地でこれ以上、出来る事も無いと判断した征十郎は宿に戻り、案内された自分の部屋へと入るとベッドに倒れ込んだ。

 少し硬いベッドだったが旅で疲れた征十郎の意識は直ぐにまどろみの中へと沈んでいった。



 









――――――――――――――――――――





 夢を見た。


 目の前には真っ白い空間が広がっていてその真ん中に人が立って居る。

 男とも女とも言える中性的な容姿をしたその人物はゆっくりこっちを見ると語りかけてきた。


 『征十郎、ようやく出会えたね。とは言っても今は僕が一方的に語りかける事しか出来ないけど。だからこれだけ伝えておくよ。ボクと君の本当の出会いの時はすぐそこまで迫っている。だけどそれは君にとって辛い事になるかもしれない。それでもどうかその時が来たらボクの手を取って欲しい』


 そう言うと目の前のそいつは消え、同時に目が覚めた。


 「ハァハァ、何だったんだ今のは?妙にリアルな夢だったが…」


 変な夢を見た所為か汗でシャツが肌に張り付き気持ちが悪い。

 

 着替える為に替えの服が入った荷物を手に取ろうとした時、突然外から悲鳴や怒号の様な物が聞こえてきた。

 何だ?と思う間もなく激しい地響きが襲った。


 「おいおい、海外まで来て地震かよ?! 」


 思わずそう呟いたが俺の予想は外れ揺れは直ぐ治まったが、直ぐにまた床が揺れた。

 何か大きな物を地面に叩きつけたような、そんな揺れだ。

 

 「とにかく、このまま建物の中に居るのはまずい。どちらにせよ状況を確認する為に外に出ないと。こういう時はパニックになった方がヤバい」


 自分でも驚く位に冷静な思考を働かせ、口に出しながら自分が取るべき事を整理していく。

 部屋を出て、断続的に続く揺れに気をつけながら階段を下り、なんとか家を出る事に成功したが外に出た瞬間、飛び込んで来た光景は黒い靄に包まれ、平均的な日本の一軒家程の巨体に三つの口と複数の目を持ったおぞましい巨人が、その腕を薙ぎ払い集落の人々を襲うという現実離れした理解しがたいものだった。

 更に追い打ちをかける様に襲われてる側の人々も何かを呟きながら手から炎や目視できるほどに密集した風の弾を撃ち出し攻撃しているという更に脳が混乱する出来事が起きる。


 「おいそこの君!こっちだ! 」


 呆気に取られていた俺は咄嗟に呼びかけられた方を見る。そこにはここの住人と思われる男が自分の方に来るようジェスチャーをしながら叫んでいるのが見えた。


 「わかった! 」

 

 言われるがままに男の元に辿り着くとそのまま「こっちに安全な場所がある」という男に連れられ再び走り出した。

 

 こんな訳の分からない状況ながら、男の焦りながらもどこか落ち着きのある様子に先程ここの住人達が、化け物を魔法としか形容できないものを使い攻撃している光景を思い出し、俺は足を動かし息を切らしながらも前を走る男へと疑問をぶつける。


 「ハァハァハァ…。なあ、ここには日常的にあんな化け物が出るのか? 」

 「いや、そんな事はない」

 「それなら、あんた達は何者だ?ハァハァ、何やら魔法の様な物を使っていたが此処の人達は全員あんなことが出来るのか? 」

 「説明は後でアレックスがしてくれる。今はとにかく走るんだ」

 「何でアレックスの名前がここで出てくるんだよ?! 」

 「いいから走るんだ!どうやら足止めは失敗に終わったらしい。私はここで奴を喰いとめる。君はこのまままっすぐ走ってこの先の一番大きな神殿に入るんだ」


 どういう事か聞き出そうとする前を走っていた男は立ち止った後、後ろを振り向き空に手を突き出した。

 その手の先を見れば先程の巨人が空高くジャンプをしており、落下しながらこちらに向かってきている真っ最中なのが目に入る。


 直後凄まじい衝撃が襲った。

 その勢いで俺は吹き飛ばされ、身体を何度か打ち付けた後地面を転がる。


 「うぅぅ… 」


 呻きながらも何とか痛みに耐え体を起こし先程自分が居た辺りを確認する。

 そこには半透明のバリアーの様な物を創り出し、怪物の攻撃を受け止めている姿が目に入った。


 男は化け物の攻撃を防ぎながらこちらを見ると大声で叫んだ。


 「ここは私がなんとかする!だから君は逃げろ! 」

 「あんたは大丈夫なのか?! 」

 「グッ…、なんとかしてみせるさ。それに増援も後から来る。だから君は気にせず行くんだ」

 「…わかった。あんたも絶対やられるんじゃねぇぞ」


 俺は男の言う通り彼に背を向け走り出す。

 

 頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。


 だけど、ここの人達が俺を逃がすために囮になってくれているのだけはわかった。

 何故かはわからないが初対面の俺を命がけで守ろうとしてくれている彼等の気持ちをないがしろには出来ないししたくない。

 それにここの人達の事や、あの化け物についてそれを知ってると思われるアレックスから聞きださなきゃならない。


 俺は男が言っていた神殿を目指し無我夢中で走った。

 暫く走っていると先程探索した時に訪れた大きな古びた神殿が見えてくる。

 目的地があそこだと確信したと同時にその神殿の近くに三人の子供の姿が見えた。

 

 神殿の直ぐ近くまで辿り着くと、女の子一人に二人の男の子が俺の姿に気づき近寄ってきた。

 すると三人の中で一番背が高い高学年の小学生くらいの女の子が話しかけてきた。


 「お兄さんが征十郎さんですね。奥でリヴァライト様が待っています。付いて来てください」

 「リヴァライト?そんな奴俺は知らないぞ…。それに君達は? 」

 「リヴァライト様は彼方がアレックスと呼ばれている方の事です。グリンライト様は今手が離せない状態で他の大人達はみんな骸 ムクロの討伐に出向いているので私達が案内役として彼方の事を待って居ました。神殿の中には地下が広がっていて少し複雑なので。あ、自己紹介しておきますね。私サラっていいます。横の大きい方が上の弟のクラムで小さい方が下の弟のセインです」

 「よろしくな兄ちゃん! 」

 「…よろしく」

 「ああ宜しくな。成る程、事情は理解した。あいつには聞くことが更に増えたな……。それでムクロ?ってのはさっきの化け物の事か? 」


 神殿の入口までの道中、長女なのもあってか凄くしっかりした子だなぁと思いつつ、サラと話ながら歩いているとその横に歩いていた二人の男の子の内の大きい方、クラムが自慢気そうに話に入って来た。


 「そう。俺の父ちゃんたちはあいつを撃退するためにふだんからきたえてんだぜ!俺もいろんな術が使える父ちゃんみたいになるんだ。頼んだらきっと兄ちゃんにも凄い術見せてくれるよ」

 「そりゃあ楽しみだな。だけどここでこんな話ながら歩いていていいのか? 」

 「父ちゃんたちのおかげでこの辺は大丈夫なんだ! 」

 「ここの敷地内には不可視の結界が張ってあるので大丈夫なんです」

 「結界ねぇ……。もう大抵の事では驚かねえぞ…俺は」


 そう呟きながらも神殿の方へとまた一歩踏み出した時、ガラスが割れたようなパリーンッという音が耳を貫いた。


 「なんだ?今の音は? 」

 「そんな…!結界が壊されたみたいです。征十郎さん、急いで神殿の中へ! 」

 「なんだって?!じゃああの化け物がここに来るってのか?! 」

 「【骸】が来る前に早く神殿へ急ぎましょう。クラム、セイン、手を繋いで!神殿に走りますよ」


 サラがそう言った瞬間、後ろに気配を感じ振り返ると巨大な何かが降ってきてそれにより目の前の地面が爆ぜ土煙がまった。


 「うわっ!? 」

 『ヴォオオオオオオオオオオ!! 』

 

 目の前に着地した化け物が咆哮上げた。

 それによりビリビリと大気が振動する。

 手を振り上げた化け物は俺目掛けてその腕を振り下ろそうとしているが足が硬直して動けない。

 全身に嫌な汗が流れ出したその時、化け物の顔にサッカーボル程の大きさをした炎の玉がぶつかり爆発を起こした。


 「姉ちゃん! 」


 恐らく今の火の玉はサラが起こしたのだろう。

 振り返り少し後ろに居るサラ達の方を見ると、手を化け物の方へ構え、息を切らしながら汗を流すサラと、不安そうに姉の名を呼ぶクラム、それから姉にしがみついたセインの姿が目に入った。


 「征十郎さん、この子達だけでも連れて逃げてください!幸いにも今の攻撃で【骸】の狙いは私になったみたいですから今のうちに早く! 」

 

 サラの言う通り化け物は顔を手で押さえながら複数あるその不気味な目でサラを睨みつけていて、ターゲットが彼女にうつったのは間違いなさそうだ。

 だがこんな少女を一人化け物の前に残して行けるものかよ!


 「何言ってんだ!君一人置いていけるわけないだろう?! 」

 「兄ちゃんの言う通りだよ!姉ちゃんをおいてなんていけないよ! 」

 『グォオオオオオオ』

 「! 」


 

 そんなやりとりをしている間に先程の痛みから回復した化け物が拳を地面に叩きつけた。

 そのあまりの衝撃にサラ達三人より近くにいた俺は吹き飛ばされながらもなんとか受け身を取る事に成功し素早く立ち上がれた。

 しかし、顔を上げた俺の視線の先にあったのは今にも振り上げた腕を振り下ろそうとする化け物と弟二人を抱きしめるサラの姿だった。


 その瞬間、脳に電撃が走った。

 俺はこの光景を知っている。

 記憶にはないが以前、同じ様な事があったと、そう心が訴えている様な気がした。


 「やめろーーー!!! 」


 俺は気が付けば叫んでいた。

 いや、叫ぶしかできなかったんだ。

 

 『予定とは違うかったけど、どうやら時が来たようだね』


 次の瞬間そんな声と共に周りの景色が色を失い一面モノクロの世界に包まれた。

 腕を振り下ろそうとしていた化け物はそのままの態勢で停止しており、まるで時が止まっているようだ。

 先程見た夢にも現れた目の前の中性的容姿の人物以外は。 


 「お前は……!一体何者なんだ……それに時が来たってのはどういう意味だよ!?この状況もお前の仕業なのか!?知ってる事は全部教えてくれ! 」

 『悪いけど今は時間が無いんだ。だから君にとって重要な事だけ伝えるよ。ボクにはあの子達を助ける力がある。だけど残念ながらボク一人ではその力を使う事が出来ないんだ。でも君は違う』

 

 俺の問いには答えず目の前の存在はそう言うとまるで握手を求めるかの様に手を差し出してきた。

 

 『君がこの手を取ればボクの力を使い、あの子達を助けることが出来る。だけどその代わり君は君の母が待つ家へ帰れなくなるかもしれないんだ』


 「なんだって!? 」


 こいつの言うあの子達とはサラ達の事であろう事は予想がつく。

 しかし、この訳の分からない状況で突然そんな事を言われても直ぐに決断できるわけがない。

 ただ不思議な事に目の前の存在が嘘を言っていない事だけは何故だかわかった。


 『酷だけど悩んでる時間はないんだ。もうこの空間を維持するのもそろそろ限界が来ている。さあどうする?もう答えは出てるはずだけどね」


 「っ……」


 目の前のこいつの言う通り答えは出ている。俺はサラ達を見捨てる事なんてできない。

 助けることが出来るならこいつの言う家へと帰れなくなるかもしれないという言葉がどういう意味なのかは分からないが手を取らないという選択肢は取れる訳がなかった。

 大きく深呼吸をし、覚悟を決める。 


 「わかった。お前の言葉を信じるよ」


 『君ならそう言うとボクも信じていたよ』


 手を握るとそこから光が溢れだし視界が白で塗りつぶされる。それと同時に声が聞こえてきた。


 『光が治まれば時は再び動き出す。その時、君はこの手に一本の剣を握る事になるからそれを思い切りあの化け物目掛けて振ればいい。そうすればあの化け物を倒すことが出来る。もっと君と話していたかったけど時間だ。それじゃ次はゆっくり話せるといいね』


 言葉が聞こえなくなり視界が徐々にもどっていく感覚がした。

 あいつの言葉通りなのであればもう直ぐ時間が動き出すという事なのだろう。


 「やってやるさ」


 気合を入れる為にそう呟いたと同時に目の前の世界がクリアになる。


 『ヴォオオオオオオオオオオオ!! 』


 「させてたまるかよ! 」


 化け物が咆哮を上げながら腕を振り下ろそうとした時、アイツに言われた通りいつの間にか握っていた真っ白な剣を構えそれを振りおろした。

 その瞬間、剣からとんでもない衝撃と共に斬撃の様な物が放たれ吹き飛ばされる。 


 「うわっ! 」


 『グウォオオ!? 』

 

 「キャアッ! 」


 化け物とサラのものと思われる悲鳴が聞こえ態勢を立て直しそちらを見れば真っ二つになり動かなくなった化け物の姿と少し吹き飛ばされたのか先程の場所から少し離れた場所で倒れているサラ達三人の姿が見えた。

 

 無事を確認する為にサラ達に近寄れば三人とも起き上がり、擦り傷などはあるもののそれ以外目立った怪我はなさそうで安心した。


 「どうやら無事みたいだな。サラのお陰で助かったけどあんまり無茶すんなよ。無事だったからよかったものの肝が冷えたぞ」

 「グスッグスッ……」

 「そーだぞ姉ちゃん!いつも父ちゃん達にも無茶するなって言われてるじゃんか」

 

 ホッとしたと同時に思わず呟いた俺に便乗する様に泣きべそをかくセインの横でクラムが非難の声をあげた。


 「すみません。あの時はああするしかないと思ったんです。けど弟達まで危険にさらしてしまったのは私のミスです。クラム、セインも怖い目に会わせてごめんね。征十郎さんのお陰で弟達も無事で本当にありがとうございます」

 「俺は出来る事をやっただけだし頭なんかさげないでくれ」

 「俺も兄ちゃんのお陰で助かったんだし俺も姉ちゃんとセインが無事ならもう気にしないよ」

 「処で征十郎さん……その剣はどうしたんですか?凄い威力でしたけど……」

 「本当だよ兄ちゃんってすごく強かったんだな!オレ尊敬するよ! 」


 はしゃぐクラムを他所にサラは真っ二つになった化け物の方を見ていてそちらに視線を向けると化け物の死体は徐々に黒い灰のようになりながらサラサラとその体は徐々に分解されている様だった。

 その容姿から死んだ後まで全く理解できない生き物だ。


 「征十郎さん? 」

 「え?ああ、この剣か。詳しくは後で教えるけど今言えるのは良く分からない内に握ってたとしか言えないんだ。全くここに来てから訳が分からない事だらけで俺よりサラやそれこそアレックスの方がこの剣に関しても分かるんじゃないか? 」

 「確かにそうですね。お互いの情報を確認するためにもリヴァライト様の処へ行きましょう」

 「そうだな」


 未だに泣きべそを掻いているセインをあやしながら神殿の方へ向かうサラに付いて行こうとした時、足元から淡い光が溢れ俺の身体も光りだした。

 今度は一体何だっていうんだ。

 これがあいつがいっていたもう帰れないって事と何か関係あるのか!?


 「征十郎さん!? 」

 

 異変に気付きそう叫ぶサラの声と共に俺は意識を失った。


 

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