第4話 萌えキャラ缶ペンケースの付喪神。

その日の放課後。自宅への帰路を歩く澄雄すみおの前に立ちはだかる3人の人影。


「キモオタが。先生の前だからって良い気になりやがってよ」

「俺ら強者が何でてめーのような弱者男性と仲直りするかよ」

「チー牛野郎が覚悟できてるやろなあ?」


残念ながら肉食動物と草食動物の間に友情など生まれるはずもなく、ヤンキーの恨みは喧嘩する前よりさらに強大となり澄雄すみおに襲い掛かろうとしていた。


「やめないか。もしも俺が怪我して真っ先に疑われるのは、お前たちヤンキーだろう?」


などと言った所で頭に血の上るヤンキー男子に通じるはずもない。咄嗟に踵を返して逃げ出す澄雄すみおであったが。


ドカーン


背後から駆け寄り蹴とばすヤンキーキック。

背中を蹴られた澄雄すみおの身体はアスファルトの地面に倒れ込む。


3対1。肉食ヤンキー動物VS草食チー牛動物。

どう考えても勝ち目のないこの戦い。


「へっ。疑われるだあ? てめー議員の権力を舐めんじゃねえぞ?」

「てめーのようなチー牛が1匹、ドラム缶にコンクリ詰めでもよお」

「議員の権力があれば、いくらでも誤魔化しが利くんだよ」


すでに殺す気満々であるヤンキー3人組。

なるほど。令和の時代は民主主義。民意によって選ばれた議員の権力。殺人の1つや2つ隠ぺいするのも容易いというわけで……


何とか起き上がり逃げようとする澄雄すみおの身体をヤンキーが踏みつけ蹴り飛ばす。


絶体絶命のその窮地。蹴とばすその衝撃に、澄雄すみおの鞄から萌えキャラ缶ペンケースが転がり落ちると、その蓋が開かれていた。


【キラリ☆魔法の国からやって来たー☆】


まるでオルゴールの蓋を開けたかのような音の奔流。


【キラリ☆魔法妖精がやって来たー☆】


いったい何事かと顔を見合わせるヤンキーたちだが、澄雄すみおにとっては耳に馴染むその音楽。アニメ魔法妖精フェアリンのOP曲。


【キラリ☆勇気の力が限界突破☆魔法妖精フェアリン☆只今参上☆】


溢れ出る光と共に、フェアリンが缶ペンケースを飛び出し姿を現した。


「んなあ!? なんやこの光と音楽は?!」

「人形が、人形が飛び出てきおったでえ!」

「どないなっとんねん?!」


確かにどういった理屈か?

キラキラ光るフェアリンの姿。これまで澄雄すみお以外に見えなかったはずが、ヤンキー3人組にも見えているようで……


【☆悪即斬で今こそ決めろよ。正義の衝撃☆】


これは……もしかして魔法の力か?

どこから取り出したのか音楽に合わせて右手に持つステッキをクルクル軽快に回転させるフェアリンのあの動き。


「まさか……核爆発にも匹敵するという、あの魔法を……?!」


フェアリンの振り下ろす杖の先。集まる光が収束、臨界点を突破する。


【キラリ☆フェアリン☆ジャスティス・インパクト☆】


チュドーン!


核爆発には遠く及ばないものの鼓膜を破るその爆音。ヤンキー3人はトラックにはねられたように吹き飛び宙を舞い落ち気絶。勝負は決した。


「フェアリンは俺のイマジナリーフレンド。妄想上の産物でしかないはずが、いったいどうして……?」


褒めて褒めてといわんばかりに澄雄すみおの周囲を飛び回るフェアリンの姿。試しにその頭を撫でるなら、確かに幻ではない。実体ある存在。


そもそもが今にして思うなら、妄想の産物であるイマジナリーフレンドに触ることが出来るという。その時点で疑問に思うべきで……


そんな折、不意に澄雄すみおの脳裏に浮かぶ1つの言葉。


付喪神つくもがみ

それは長い年月を経て使った道具や物などに宿る神や精霊のことを言う。


澄雄すみおとフェアリン。小学生の時。缶ペンケースを購入してから10年の付き合い。通常は100年を経るという付喪神つくもがみが生まれるには早すぎるが……


澄雄すみおのフェアリンに対する思いが。陰キャ特有の粘着質な執念が缶ペンケースに込められた結果、わずか10年という異例の月日で付喪神つくもがみが誕生したのであった。



萌えキャラ缶ペンケースの付喪神つくもがみ。完。

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俺の萌えキャラ缶ペンケース。いつの間にか美少女妖精が住みついていたのだが? くろげぶた @kuroge2022

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