「The Last One」を聴きたくて
日を改めて、送ってもらったCD-Rをプレイヤーに入れてみる。もちろん、発売されたCDほどの音質ではないが、関係者が資料用に会場で録音したという音源が元になっており、流石DATでの録音、音質は良好だった。どうしても水谷さんのギターの音が大きいため、所々音が歪むのは仕方ない。いや、音の歪みがあるからこそラリーズらしいと言えるかもしれない。
この音は、当時の会場で流れていた音を編集なしでダイレクトに伝えているものだ。そこにあった空気を凝縮した嘘偽りのない音。
もちろんこれが最上とは言わないが、編集され手直しされたアルバムを聴いた今、 ネイキッドなライブの音を聴いてみたかった。思い入れのあるライブだから尚更だろう。
発売されたCDと同じ部分まで聴いて、残りの続きの部分も聴いてみる。
長い曲の後に続くのは、ゆったりとした感じの『記憶は遠い』。『黒い悲しみのロマンセ』もそうだが、ゆったりとした感じの曲もまたいい感じだ。残念ながらこの音源では、歌詞がはっきりと聞き取れない。その点は残念だ。マルチレコーディングが残っていれば、その文学的な歌詞もしっかりと味わえきれてたのだが。それはまあ、仕方がない。
続く『Enter the Mirror』もゆったりとした感じの曲であるが、途中の水谷さんのギターは、まるで金切声のように会場に響いている。単なるノイズではない。しっかりと音楽の形をしている。これが水谷さんにしか出せない音世界というべきだろうか。
そう思っている間にフレーズがいつの間にか変化していた。『’77LIVE』でも何度となく聴いていたラリーズにとっての終演の1曲。『The Last One』だ。
一度聴いたら耳から離れない印象的なリフをバックに歌われる水谷さんの歌声。歌われた時代によって歌詞こそ違っているが、初期の頃から演奏されてきた裸のラリーズにとって代名詞と言える曲。30年前、初めてこの時に生で聴いて感動していたなぁ、そんな記憶が蘇る。
単純なリフをバックに会場内をノイズの塊で満たしていく。ステージのフラッシュは、これでもかという位に激しく点滅し続けている。『The Last One』は決まったリフ以外には決まりなどない。短くても10分、長い時には40分以上も演奏される時もあった。
いつ終わるかわからない音世界、しかしながらこの曲が終わると『夜』が明けてしまうのだ。出来るならいつまでも、いや限界までここに留まっていたい、そんな気もしていた。
残念ながら、『夜』が明ける時が来たようだった。長い時間続いていた演奏も終わりとなってしまった。
メンバーは無言で去っていき、(ラリーズのライブはMCは一言もないのだ)そしてアンプの電源が切られて無音になった時、ライブは終了した。そしてささやかな拍手があったくらいでアンコールの手拍子もない。ラリーズを知っている者にはわかっている。MCもアンコールもない事も。
もっと歓声もあるのではと思っていたのだが、爆音に呆気に取られていたのか、 曲間も静かだった。ラリーズのファンというのは、本当に独特だ。
帰りはどのように帰ったのかは覚えていない。覚えているのは、フラッシュで暫くの間、眼がチカチカしておかしかった事と、爆音で翌日も耳鳴りが止まらなかったという事くらいか。
そして、ラリーズのライブは今後、無理をしても見に行きたい、そう決心させるのに充分なライブであった。
全て聴き終わって、改めてCDの解説を読んでみる。解説を書いているのは、ジェニファー・ルーシー・アランなる人物で、BBCラジオでホストもしたりするライターらしい。サウンドエンジニアの話とかも入っていて、なかなか興味深い。ライターらしい表現で、バウスシアターのライブを評していた。
因みに、『ジャップロックサンプラー』という日本のアンダーグラウンドなロックを紹介した書籍を20年近く前に出版しているジュリアン・コープも寄稿文を乗せているのだが、自分の足りない頭では、何を言いたいのかまるで理解出来なかった。
そして初回盤に付属のDVDも視聴してみる。時間的には20分強と短いが、4曲目の抜粋と「The Last One」のラスト5分で構成されていた。フラッシュが凄いため、子供に見せたら確実に発作を起こすだろう代物だ。長時間見るものではないなと。
自分にとって、思い入れの強いライブなので、追体験出来てよかったと思う。しかしながら、まるで脳細胞が思考を停止するような強烈なライブ体験には遠く及ばなかった事を付け加えておこう。
そして自分なりに思った裸のラリーズというのは……。
『裸のラリーズは一般人にとって毒だ。しかしそれを受け入れる事が出来た人にとっては麻薬だ。一生逃れられない』
裸のラリーズは1996年のライブ以降は沈黙を続けていた。いつライブをやってくれるのかと待ち続けていた。
しかしながら、水谷孝さんは2019年に死去していた。だからもう裸のラリーズのライブは体験出来ない……。
参考CD Les Rallizes Dénudés(裸のラリーズ) / BAUS '93 (CD+DVD) TBVC-0004
(Tuff Beats Co, Ltb)
水谷 孝 ボーカル、リードギター
石井 勝彦 サイドギター
高田 清博(ドロンコ) ベース
三巻 敏朗(サミー) ドラムス (敬称略)
※ 1990年代に発売された公式CD3種は、2022年に久保田麻琴さんによるリマスターで再発された。しかしながら、音質がクリアになったのにもかかわらず、往年のファンからは、『この音は求めているのと違う』のか、不評である。
ラリーズファンは本当に難しい人が多いものだ。
もう二度とこの「夜」は訪れない~Les Rallizes Dénudés~ 榊琉那@屋根の上の猫部 @4574
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