第44話青ちゃんとデート 後
商業区をうろうろする俺たちは、気になった店で足を止めて、中を覗いたり、ああだこうだ、と言い合いながら、また次の気になった店に入っていく。
雑貨屋や食料品、装飾品店などなど。通りを歩けば色々とあった。
知っている場所で、知っている店なのに、青ちゃんと一緒だととても新鮮だ。
歩き疲れたのでカフェに入って一休みする。
「考えたんだけど、これを湊くんに持っていてほしいの」
すっと指から【天使の指輪】を抜いた。
「俺に? けどこれは、差し上げたもので……」
要らなかったんだろうか。
俺が不安に思っていると、察した青ちゃんが首を振った。
「返したいわけじゃなくて、預かっててほしいの」
「預かる? いいですけど、どうしてまた。他に装備したいアイテムでもあるんですか?」
「Sランクパーティの人たちだったり、クロムたちだったり、みんなさ、最後の最後は消えちゃうじゃん」
「……ですね」
ゲームならリトライかロードで戻れるが、この世界は違う。
「何かあったときに何も残らないのは、寂しいなぁって思ったの」
「何かは起きません。今後も。俺がそばにいる限り」
「それでも、持っていてほしい」
青ちゃんは思いのほか真剣な目をしている。
「わかりました」
俺はうなずき、指輪をポケットにしまった。
なくさないように、小袋か何か買って首から提げれるようにしておこう。
「ありがとう。万が一の話なんてしてごめんね」
「いえ。色々ありましたし、仕方ないです」
「あらからしばらく経ったけど、元気出た?」
「おかげさまで。今日のデートが良い気分転換になってます」
「そっかそっか」
青ちゃんは、カップを傾けてコーヒーをちびりと飲む。少し遠くを見るような目で、周囲を眺めている。
俺はその顔をじいっと見つめていた。物憂げな表情も良い。
「報奨金の使い道、どうします?」
「どうしよっか」
「ぱあっと使うにしては多すぎますし、装備品を揃えてもまだまだ余ります」
「そうだねぇ。腐るものじゃないから、ゆっくり考えよ?」
「そうですね」
まったりしていると、あっという間に時間は過ぎていき、夕日がゆっくりと沈みはじめていた。
「このあと、行きたいところがあるんです」
「うん。いいよ」
馬車に乗り込んで御者に行き先を指示する。
「どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみってことで」
「なんだろう」
馬車で街の外に出て、小高い丘までやってくる。
「手を」
先に降りた俺は、青ちゃんの手を取って、馬車から降ろす。
「あっ、綺麗……」
見晴らしのいいこの丘は、さっきいた街が一望できる高台となっている。
茜色に染め上げられた街並みは、ゲームでも相当綺麗だったが、実際目にするとその何倍も美しかった。
「こんなところ知ってたんだ。……なんか、手慣れてる」
半目で青ちゃんが俺を疑わしそうに見てくる。
「こうやって何人も女の子を連れてきて、ポイント稼いだりしてない?」
「してないですよ。こんなふうに見てほしくて連れてきたのは、青ちゃんがはじめてです」
「そ、そうなんだ」
まんざらでもなさそうに、青ちゃんはゆるくうなずいている。
風にそよぐ髪の毛を押さえる青ちゃんの夕日に照らされた横顔は、可愛いし綺麗だと思う。
クロムたちの一件があって、俺も考えていたことがある。
「これまでの戦いは、ギリギリに見えるかもしれませんが、格上相手でも俺なりに十分な勝算があって戦ってるんです」
「? それは知ってるよ。型にハマったとき、あっという間に敵倒しちゃうもんね」
「けど、前回が一番肝を冷やしました。仲間がいると安心ですが、仲間に一端を任せると、ダメになったとき一気に崩れてしまう……。そのキャラのプレイヤーが俺じゃない以上、仲間にある程度頼るのは、メリットもありますがリスクもあることだと痛感しました」
青ちゃんは前を向いたまま、話に耳を傾けてくれている。
「青ちゃんが俺に指輪を預けたように、俺も、命の危険を感じて、考えが変わりました」
「考え?」
「はい」
死んだら消えてなくなる。人も、その人の所持品も。
――それがこの世界の原則だ。
青ちゃんがそれを寂しいと言ったように、万が一が起きたとき、抱えているものを押し込めたまま消え去るのは、悔いが残るんじゃないか。
俺はそう思うようになった。
「き、聞いてください」
……言わないつもりでいた。
青ちゃんは大人で、先生で、俺の気持ちは一時的な物だって言って、俺が傷つかないようにやんわりと逃げそうだったから。
そうなったら、俺たちの仲はこれまで通りにはいかず、きっと気まずくなって解散する。
でも。
もし言わないまま死んだら、俺は納得できるんだろうか。
後悔はなかったって言えるんだろうか。
「何?」
青ちゃんが体を傾けて、俺のほうに向き直る。
空気をなんとなく察した青ちゃんは、緊張した面持ちで唇をぎゅっと閉じていた。
ほっぺもうっすらと赤くなっている。
クエストでいつか下手を打って消えてなくなるなら――。
俺の気持ちは、青ちゃんに知っておいてほしい。
付き合いたいとかキスしたいとかおっぱい揉みたいとかセックスしたいとか、どうこうしたいというのは一旦脇に置いといて、伝えるだけ伝えよう。
「青ちゃん」
「は、はい……」
「な、中林青葉さんっ!」
「は、はいっ!?」
青ちゃんの手をぎゅっと握り、まっすぐ目を見つめると、潤んだ瞳が揺れていた。
緊張と照れと恥ずかしさのせいか、一度目線を外した青ちゃんだったけど、また俺を見つめ返した。
俺の頭が沸騰しているみたいに熱い。
バクバクしてうるさい心臓よりも、デカい声で言った。
「好きです! 俺は青ちゃんのことが、世界中の誰よりも好きです!」
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追放された底辺職「盗賊」はゲーム知識で無双する。一緒に召喚された先生も外れジョブだったけど効率的に成り上がります ケンノジ @kennoji2302
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