コンビニまで5分

狐照

コンビニまで5分

こんな時間なのに誰かとすれ違うなんて、と思ったが速度は緩めない。

走る俺を見て当然、女の人が驚きの表情を浮かべている。

お仕事帰りのところ不審者ダッシュを見せつけてごめんなさい。

でも、急がないと、いけないんです。

右手のペットボトルが水滴で滑る。

左手のシュークリーム、潰れてないか不安になる。

それよりも時間、時間だ、速度だ急げ急げ。





「おっせぇよ」


「はぁ…はぁ…す、んま、せ…」


何やってんだよと言いながら先輩が、俺が買ってきたペットボトルに口を付ける。

シュークリームは後で食べるからと、冷蔵庫にいれた。


「5分で買ってこい、ったよな?」


「はい…」


「お前まじでつかえねぇよな」


「ご、ごめんなさい…」


深い溜息を先輩が吐き出す。

息を静かに整えながら、俺は正座で次の言葉を待った。


「こっち、こい」


「は、い」


ベッドに寝そべる先輩の傍へ近寄る。

真黒な髪が艶々、蛍光灯でも光ってる。

ニヤって先輩が笑うから、背筋がゾクってした。


「…罰になるかな?」


「…あんま、なんない、かと」


先輩が好きだって言うから染めてる金髪、優しく撫でられ素直に答えてしまう。

やっぱそうだよな、そうぼやきながら先輩が俺を抱き寄せる。


「あ、汗、くさい、かも」


全力疾走してきたから、まだその熱も収まってないし、そう思って焦っても逃れようとは思わない。


「ん…むしろちょっと顔、冷たいな…風、冷えてた?」


「あー風は、冷たかったかもです」


そっかそっか、と呟きながら先輩がシャツの中に手を。


「せ、ん、ぱ…ン…」


「…も少し意地悪な命令考えとく」


「…ぁい…」






まだ寝ていたいのに、起床時間がくると起きてしまう。

まだ眠いから、二度寝しようと目を閉じる。


「…せんぱぃ…手、が…」


「先輩は寝ている」


寝起きじゃない声色だった。

結構前から弄られてる、気はしてる。

だって、だめに、なってる。


「せんぱい…します?」


後ろから抱き締められてるから顔は見えないけど、先輩意地悪な顔してる。


「…したい?」


「…ぁ…したぃ、です…」


「じゃ、しない」


「せんぱぃぃ」


首にふふって笑い声、掛かってくすぐったい。

きゅむってされて、もどかしさが募る。


「してよぉ…せんぱいぃ」


「こういう系の意地悪、きくのか…」


「先輩っ」


寝返りうって先輩に抱き付く。

さすがに嫌すぎる。


「ごめん、意地悪ってむずい」


先輩が優しく体を撫でまわしてくれる。

ちゃんとしてくれそうでなによりだ。


「意地悪ブーム…はやく終わってほし」


「なんか言ったか?」


「なにも、言ってませんよ、先輩」

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