2019

透は思い出した、滝から流れた川は途中で岩場の間に吸い込まれて、流れが消えてしまっていたのだ。そして、その消えた流れの一部が、この地下室へと流入しているのだ。

「ここが、僕が来るべき場所だったんだね。そして、僕が君を愛してはいけない理由が、ここにある」

「貴方は、やっぱり正直で誠実ね。きっと来てくれると、信じていたわ」

透はゆっくりと葉子に近づき、彼女に手を伸ばして、その頬に触れた。ひやりと冷たい感触が、彼の知覚の全てを支配した。彼女が生きていることさえ、疑問に感じられるほどだった。

葉子は透の手に自分の手を重ね、自分の頬から引き離した。そして、ゆっくりと彼の手を自身の右側へと、誘導していくように、彼は感じた。そして、その先は、貯水槽だった。

透は貯水槽の中を見た。その中にいたのは、全裸の若い男だった。男は眠っていた、瞳の中に潜んでいた男と同一人物だということは、すぐに分かった。常に清水に清められ続けている中で、全身が薄く青白い光を放っている。その体は、時間を超え、永遠に輝き続けるように、彼には思えた。

「彼が、柏葉なんだね」

「ええ、そうよ。私は、ずっと彼を守り続けてきたのよ」

「だから、僕をこの中で眠らせることができないんだね」

「それは違うわ」

「何が違うと言うの?」

「私は貴方を愛しているわ、だから、生きていて欲しいの」

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滝の行方 八月光 @L_IN_A

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