第11話 おいしいデザートは焼肉の後に(大吉の大吉)

 肉は……金曜夜の焼肉は正義だッ!


 それが食べ放題ともなれば飢えた野獣と化して喰らことこそ正義ッ!


「……そんなふうに思っていた時期が自分にもありました」


「先輩? 特上カルビ焼けてるっすよー?」


 来週月曜から新人教育を担当する予定の後輩が自分の箸で特上カルビを取って俺の皿に置く。


 飢えた野獣とは彼女のことで自分はもう脂っこいのがつらい。


「ありがとな。うまいんだが自分には脂がきつい。後はハラミとタンとレバーで梅酒を飲むよ」


「先輩はほんとにエセ食通っぽい食べ方好きっすね~」


「吉野さんから何か聞いたな」


「立ち食いそば屋でもこだわりのトッピングしてたって聞いたっす」


「そこはプチ孤独のグルメと言ってもらいたいな。ほい」


 ハラミとタンが網の上でほどよく育ったのでお返しに後輩の皿に置いてやる。


「えへへ、先輩ありがとうっす」


「新人には優しくしてやるんだぞ? 同じ質問繰り返されてもキレるなよ?」


「はーい♪」


 後輩は生グレープフルーツサワーと特上カルビと国産黒毛和牛ロースをおかわり。


 こっちは宣言通りの注文を繰り返し、ふたりとも最後は冷麺でシメとした。


「ふいー、お腹いっぱいっす」


「ひさびさに喰った喰った」


 と、なごんでいるところにおかわりできないデザートが届いた。食べ放題コース最後の一品だ。


「もう入らないし二人前食べてもいいぞ」


 そう言ってマンゴープリンの皿を取ろうとしたが、後輩がこっちの手に触れて押しとどめる。


「ここのマンゴープリンたぶん先輩も気に入ると思うから食べて欲しいっす」


 屈託ない笑顔がアルコールの影響もあってか、ほんのり紅潮していて、かわいいと素直に思った。


 たぶん自分も酔ってるだろうけど今はこの酩酊感と高揚をもっと共有していたい。


「そうまで勧めてくれるなら、もらっとくぞ」


 スプーンですくった時点でそれが見えていたので予感はあった。


 マンゴーの風味とやわらかさに入り混じるこれは、軟骨めいた、ぐにゃぐにゃ感。


「ナタデココ入りマンゴープリンか。確かにいいな、これ」


「でしょー♪」


 彼女もこちらと同じ味を楽しみながら笑っていた。


「次は先輩がお勧めのところに連れてってくださいっす♪」


「よっぽどまずい店でもない限りおまえとならどこでも楽しくやれるさ」


「ま、まじめな顔でそういう不意打ちはずるいっす……先輩のばか」


 うつむいた後輩は真っ赤になっていた。

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