第2話 旅の始まり
紀伊田辺駅に着いて改札を出るとベンチの傍にハナが立っているのが見えた。
手を振ると私に気付いたようで手を振り返してくれた。
挨拶を済ませると、彼女に「焼けたね。」と言われる。今年の夏は遊び惚けて私の肌はさながら夏休みの小学生のようである。
会う人会う人に言われ慣れた私は「そう、焼けたの。」と返した。
ハンの姿が見えないので尋ねるとコンビニに居るという。
私は荷物を置き、一先ずトイレに向かった。
戻ると今度はハンだけがいてハナの姿はない。トイレに向かったというのだがすれ違った覚えはない。
時刻は10:00を過ぎていたが朝食がまだだったのでコンビニへ向かう。
ふと昼食はどうするのだろうと思いハンのもとへと戻り、聞いてみたが彼も分からないらしい。まあいいかと思い、朝食だけを買った。
戻るとハンとハナがクレデンシャルを持っていることに気付く。
※クレデンシャル
歩いたことの証明書。
スタンプラリーの台帳のように都度スタンプを押すことで完成する。
これはカミーノ・デ・サンティアゴ・コンポステーラでも同じ。
駅の横にある案内所にあるというので貰いに行くがバスの出発まであと10分もないと言う。合流してから各々自由にしていたので間際になって慌ただしくなる。
急いで案内所でクレデンシャルを手に入れるも、サンティアゴ巡礼の展示品があり懐かしさに足を止めた。
外を見ると2人は既にバス停にいた。小走りで後を追い、バスに乗り込んだ。
バスの中では他愛もない会話を楽しんだ。
主にハンに関する話だった。
彼の職業はイラストレーターで、前職はコミックアプリで連載もしていた。
サンティアゴ巡礼の話をコミックにしている。
全て韓国語なので読めないが、ハナと私も登場しているのだそう。
そして2日前に彼は渋谷の神泉で個展を開いていたのだがそこに遊びに行ったハナは自分よりも日本人の友人がいるハンを見て改めてコミュニケーション能力の高さに驚いたのだ。
次に驚いたのは私だった。
渋谷にいるときに彼は1人でビールを飲んでいた。
彼は少し前に福島の農場で働いていたのでトマトをツマミに飲んでいたそうだ。
(韓国では飲食店への持ち込みは厳しくないため、日本でも同じようにしてしまったようだ。)
すると背後で飲んでいた集団と仲良くなり一緒に飲んだという。
そしてそれは俳優の集まりだった。彼らと撮った写真を見せてもらうとそこに映っていたのはムロツヨシだった。
勇者ヨシヒコが大好きな私はもちろんムロツヨシも好きなので心底羨ましかった。
当の本人は自分の強運に気付いておらず何処吹く風だった。
ここへ来るための初めてのナイトバスは快適でぐっすり眠れたのだとか。…良かったね。
1時間程してバスは滝尻王子に着いた。熊野古道へのスタート地点である。
大きな川は酷く濁っている。そういえば電車から見えた川は全て同じように濁っていた。深夜のゲリラ豪雨の影響だろう。そんなことを話しながら。川を渡り滝尻王子のスタンプポイントを探す。渡った先に観光案内所が見えたので入ってみると地図があった。
今日は5時間程歩くのだそうだ。時刻は11時過ぎ。ゆっくりで大丈夫だねなんて話をした。
地図には至る箇所に○○王子という地名があった。
私が「王子って何?」と尋ねるとハナは「分からない。」と答えた。
よくよく見ていると、なにやらお参りするポイントのことのようだった。
サンティアゴ・コンポステーラへ巡礼する旅では、教会をめぐって歩く訳だがその旅にはるばる出かけているのにも関わらず、教会って何?と言っているようなものだと言って2人で大笑いした。
案内所を出ると早速お店があり、ハンが興味津々に店内を見る。
私も付いていくとけん玉を見つけたのでやってみた。1回目、成功。
ハンに渡すと失敗していたが、苦し紛れに私の友達はとても上手だと言っていた。何だそりゃ。
その店でバンブーハットが売っていた。よく釣り人や農家の人が被っている印象があるが日本語で何というのか分からない。
ハンは迷うことなく購入し満足そうに被っていた。
くゆるが歩けば棒に当たる @kuyuru0614
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