スマホをかざしただけなのに!!!

立花 優

第1話

「おい、こらっ、ソコのオジさん!」






 えっ、こ、この俺の事か?






「貴方、今、スマホを、中年女性のスカート下に、かざしましたね。


 盗撮ですよ、その行為は、盗撮です。


 別室へ、来て下さい!!!」






 金沢駅の一階から二階へ上がる、エスカレーターの横で、駅員に大声で言われた。






 金沢駅の中央正面駅の左側には、エスカレーターがあるのである。






 あっと言う間に、3人の駅員に取り囲まれ、1階の事務室に強制的に連れて行かれた。






「盗撮の現行犯ですね。現行犯は、私らでも一発で逮捕できるのです。


 今から、警察に通報致します」






「ちょ、ちょっと、待って下さい。これには、実に言葉で語り尽くせない、もの凄く大きな事件が関与しているのです」






「盗撮犯が、何を偉そうに、反論しているんだ。


 我々、金沢駅職員を馬鹿にしてるんか!!!」






「いや、決して馬鹿には、してません。


 しかし、大体があんな中年のババアを、どうして盗撮する必要があるんですか?


 これが、女子高生とか女子中学生なら、ともかくも。


 変には、思われませんでしたか?






 今回は、非常に非常に、大事な事件の捜査の途中だったのです。で、北陸新幹線で、東京から、この金沢まで彼女を追って来たのです」






「じゃ、貴方は、刑事なんですか?だったら、警察手帳を提示してみて下さいよ」






「いや、私は、刑事ではありませんから、警察手帳など、持っていません」






「ホラ、やっぱりね。






 あんたは、単なる、変態なんですよ。中年女性の下着の盗撮専門のね」






「言葉に気を付けて、物を、言って下さい。


 これでも、私は、……」






 ここまで、言った時、1階の事務室に、石川県警の警官2名がなだれ込んで来た。






「どうかされましたか?」






「いや、つい先ほど、スマホを中年の女性の下着の下に、かざしていた、この中年の男性を、盗撮の現行犯逮捕したところです。






 本人は、大事な捜査中だのと、訳の分からない事を言っています。






 多分、少々、頭がいかれているのでしょう……」と、金沢駅職員の一人が答える。






「ば、馬鹿に、するな!!!






 これでも、「私は、○○大学准教授の立花優だ」と、私は、おもむろに、大学の身分証を見せた。






「いや、大学の教授であろうが無かろうが、こう言う変態はいるものです。


 毎日のニュースを見ていれば分かりますよ」と、石川県警の警官は反論した。






 そこで、私は、とっておきの証拠を出した。






「これを見て下さい。このICカードを。今、世間で問題の、マイナカードなんかじゃありませんよ」






「どれどれ」と警官の一人が望み込む。






 だが、そこには、現警察庁長官の顔写真と印鑑の入った、特殊な形状の、身分証明書で、この俺の顔も大きく写っている。


 特に、3Dフォログラムでの写真印刷は、中途半端な技術では、作成は不可能だ。


 『特殊事件調査班 班長 を命じる』との辞令と、日付入りだ。






「こ、こ、これは、風の噂には聞いていたが、ま、まさか存在するとは?


 ちょっと待て、即、課長に直接、聞いてみる」






 数分後、先ほどの警官の態度は、ガラリと一変した。












「だから最初に言ったでしょう、私は、警察庁からの、ある特殊な任務を受けて、捜査中だったのです。


 ただその捜査のために、『スマホをかざしただけなのに』、こんなに、大きな話にまでなってしまった。






 まあ、ここまで話が大きくなってしまった。


 本当は、超機密事項なのですが、先ほどのスマホの画面を、極秘で、皆さんにだけ見せます。絶対に、他言無用ですよ」












 ゴクリと、全員、唾を飲み込む音が、聞こえた。周囲の雑踏の音は、もう、誰の耳にも入って来なかったのだ。






 しかして、そこに、映っていたのは、たった一枚の写真のみ。日付は、正に今日。時間は、先ほどの時間を表示していた。






 で、そこに映っていたのは、スカートの中だったが、何とそこには、薄赤いパンツの横からはみ出している、蛇の尻尾のような小さな鱗が生えた物が、鮮明に写っていたではないか?






「こ、こ、これは一体、何です?」






「これこそが、人間に成りすまして、この地球に住んでいる宇宙人のホントの姿の一部なんです。


 わたしは、数年前から、彼女に目を付け、今日、ようやくその事実を撮影できたところだったのです」






「では、貴方は、やはり?」






「今ほども述べた通り、日本政府の依頼を受けた、宇宙人捜査班、本当の名称は『特殊事件調査班』の班長なんです。


 もう、あと一歩だったんですがね」






 警官2名は、最敬礼して、この俺を、この部屋から見送ってくれた。






「また、一から、やり直しだなあ……」、この俺、立花優は、ポツリと一言、言って、金沢市の雑踏の中に消えて行った。






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