P3
「お姉さん、名前は?」
「えっと……ヒロだよ」
口に出し慣れていないせいで思わず本名を言ってしまいそうになり、慌ててアカウント名を言った。
「ふうん」
興味があるのか無いのか曖昧な返事をして、女の子は薄く笑った。
「あなたの名前は……」
「さて、そろそろお待ちかねのメインイベントに移りましょうかー」
わたしの声を遮るように、センカさんの声がした。いよいよとばかりに弾んだ主催者の女性の声に、参加者がほのかにざわめく。花火がメインじゃなかったんだ。何事かと顔を見合わせてから、わたしと女の子も声のした方を見た。
「みなさん、ちゃんとネタは考えてきてくれましよねー」
何のことかと不思議に思っていると、女の子も隣で小首をかしげていた。
「ネタってなんのこと?」
「さあ? 分かんない」
わたしは肩を竦めた。
こちらのことなんて待つ気もなく、そもそも、暗さでこちらの顔すら見えていないのかもしれないが、センカさんは続ける。
「それでは、他人には言えない秘密の告白タイム初めましょうー」
ああ、そういえば。わたしは参加の旨を伝える際にセンカさんから送られてきたメッセージを思い出した。
――花火等の必要なものはこちらで用意するので必要ありません。唯一の持ち物は、他人に言えない秘密を一つ考えてきてください。
何を求められているのか分からず、考えたところで用途も思いつかなかったので、忘れてしまっていた。
「さ、私の左隣の方から順番に」
「えっ?」
指名された、寄り添っている三人の内の一人が大げさに驚く。さっき派手は花火は無いのかと聞いてた女の人。
「どうして私から? 主催者のセンカさんからじゃあ?」
「私は大トリってことで。主催者権限です」
「えー、なら、キイロが先に言ってよお」
「だめだめ。指名されたのはエナガでしょ」
「ふふ……」
楽しそうなセンカさんと三人のやり取りを苦笑しながらわたしは見つめる。さっさと言えばいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます