夏が終わっても
師走 こなゆき
P1
そろそろ日付が変わる時間の山に来るなんて、なんだかいけないことをしているようでドキドキしてしまう。
周りに居るのはSNS上でアカウントを見た程度の殆ど知らない人たち。緊張も相まって、更にわたしはドキドキする。
「そろそろ始めますよー。花火を配るので取りに来てくださーい」
このイベントの主催者らしい女性――アカウント名はセンカさん――が、声量を抑えた、それでいてよく通る声で参加者を集める。その声に従い、わたしたちはそれぞれ数本の手持ち花火とライターを受け取る。
花火。この夏は予定が合わなくて一度もやれず終いだったから、否が応でもわたしのテンションは上がる。
夜中の山でよく知らない人たちと花火をする。
こんな初めてづくしのイベント。わたしは楽しさ、不安、スリル、緊張といった感情で落ち着かなくて、手元の花火全てに火をつけて振り回したい気持ちになってしまう。何か楽しいことが起こりそうな予感でいっぱいだ。
まあ、ここが墓場だってことを除けば。
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「夏の終わりの花火会?」
SNSをうろついていて見つけた文字に、わたしの目は釘付けになった。なんだか楽しそうな響き。
思えば、というか、思い返したくもないのだけど、高校二年の夏休みをわたしはただただ浪費してしまった。
彼氏はおらず、休みの日に遊ぶような知り合いも居ない。両親は共働きで休みが合わず遊びにも連れて行ってくれなかった。
来年の夏はきっと受験勉強で遊んでなんていられない。せめて、最後に夏休みらしい思い出を一つでも、と今からでも参加できる近場で開催されるイベントをSNSで探し回っている時に見つけたのが、先程の花火会。開催される日も近く、場所も歩いて行ける距離だ。
詳細を確認すると、主催はこの辺りの大学に通う女性。どんな人なんだろうとSNSを遡ってみる。派手に遊んでいる風ではない、どちらかといえば地味な人みたいだ。
時間は深夜、場所は山の中。
実は怪しいイベントなんじゃないかと疑って、すでに参加表明している人たちと主催者のやり取りを見てみても、お酒を飲んで騒ごうとしたり、変な単語が飛び交ったりといったおかしなところはない。ただ、数人でこじんまりと集まって花火をするだけらしい。
やっぱり危ないかなあ、と不安にかられたけど、それ以上に、休み明けのクラスで夏休みの話題がなくて孤立するのが嫌で、意を決して参加することにした。
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