P4
「えっと、じゃあ……」観念したのか、エナガと呼ばれた女の人は少し間を開けてから「夏休み中に体重が三キロ増えましたっ」と恥ずかしそうに言った。
それだけ? わたしが呆気に取られていると、隣のキイロさんも同じように思ったのか「なにそれ?」と呆れたように漏らした。
「まあまあ、女の体重は最重要機密ですから。充分、他人に話せない秘密ですよ」
「なら私は体重が五キロ減りましたー」
「ちょっと、それは自慢じゃない? というか、わたしへの当てつけ?」
「女の体重は最重要機密。ですよねーセンカさん?」
「あはは……まあ、ですねー」
楽しそうな三人。キイロさんとエナガさんの隣にいるもう一人の女の人は、あまり話に加わろうとしない。人見知りなのかも。知り合いが知らない人と仲良くしていて話しかけられない、なんて経験はわたしにもある。
「それでは、次の人行ってみましょうか―」
センカさんが先に進めようとする。エナガさんの隣の女の人が話すのかと思いきや、何故か「僕はですね……」とその隣の人が話し始めた。
暗くて見えなかった? いや、それでも、キイロさんかエナガさんが指摘するだろうし、本人も何か言うだろう。なんだか薄ら寒いものを感じたけど、この場の誰も何も言わないので、わたしも口を噤んだ。
男の人は「最近、筋トレを始めたけどまだ全然効果が出ないから誰にも話してない」と言い、センカさんが「継続は力ですよー。きっとすぐに見た目が変わりますー」と軽いフォローを入れた。
その後の人も、同じような内容が続く。わたしは他人に話せない秘密、なんていうからどんな重い告白が出てくるのかと思いきや、他人に隠す必要のなさそうな冗談みたいなものばかりで拍子抜けした。
「お姉ちゃんも秘密ってあるの?」
飽きてきたのか、女の子が声をかけてきた。
「まあ、そりゃあ、あるよ」
わたしは軽く答える。
誰にだって、他人に話せない秘密の一つや二つ持っているものだろう。それが、さっきみたいに他人に明かせるような冗談みたいなものか、それこそ墓場まで持っていかなくちゃいけないような重いものかは分からないけど。
「そっか」
「あなたも?」
「まあね」
言って、女の子は顔を地面に向けた。
小さい子の秘密。わたしが小学校の頃はどうだったか。思い出そうとしたけど、暗いものが出てきそうだったので、顔を背けて考えないようにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます