第3話
飛び出すと、例の化け物が二体と、ナイフを片手に死にそうな顔をした女の子がそこにはいた。
あぁ……うん、そうです。
バカ真面目に助けに来たアホは俺のことですはい。
でも聞いて欲しい。
魔導書に書かれたページを読んでみたらスライムが現れたんだ。
大体人くらいの大きさだからビビったが
会話しようとしても
『テケリ・リ』
ってしか喋らないから意思疎通が出来ないと思って
『俺連れて走ってよ。あ、方向はアッチで』
って言ったらこれだよ。
スライムに騎乗?して、なんか化け物と同じ速度にまで達してここまで来ちゃったわけだ。
だから俺は悪くない!!
俺は悪くないのだ!!
とりあえず全てさて置き
「捕まれ!!」
ここまで来たのだ。
助けずに逃げるなんて選択肢はない。
俺はスライムの上から女の子に向かって手を伸ばす。
普通こういうのって白馬とかがオーソドックスだが、そんなこと言ってられん。
てかこのスライム馬より速いし、実質白馬よりも上だろ知らんけど。
「ほら!!手!!」
「……」
そう言って俺が手を伸ばすが、少女は虚な目でこちらを見るだけ。
こりゃ壊れたか?
いや悪役みたいな台詞言ってんな俺。
ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。
化け物がもう迫ってきてる。
ええい!!
「セクハラで訴えるなよ!!」
「あ」
俺は少女を無理矢理抱える。
持ち上げる瞬間にお腹の方に大きなアザが見えた。
もしかしたら見た目以上の重症の可能性もあるな。
「行け!!えっと……ショゴス!!」
「テケリ・リ」
そして走り出すスライム。
よし、これから逃げ切れ……
「あれ?あいつら速くね?」
徐々に、いや結構なスピードで追いつかれる。
もしかしてだが、さっきまであいつら遊んでたのか?
な、なるほど。
「ショ、ショゴス君。君ってあいつらに勝てたりする?」
「テケリ・リ」
「何言ってるかサッパリだが、無理ってことは分かったぜ」
よーし
「死んだな!!」
潔く認めよう。
無理です死にます。
カッコつけてすみません。
非力なくせに人助けなんて烏滸がましいことしてすみません。
でも悪いのは全部ニャルなんです。
こんな場所に送り届けたあいつが諸悪の根源です。
ですのでどうか
「あいつを爆発させて下さい」
そして
「……ん?」
魔導書の光と共鳴するかのように
「ほえ?」
辺り一体が光に包まれるのだった。
◇◆◇◆
「爆発オチなんて最高!!」
俺達は燃える森を潜り抜け、無事に化け物から逃げおおせることに成功したのだった。
突然空が発光したかと思えば、何故か化け物達がよろめきだし、そして暫くすると森が突然燃え出したのだ。
何が起きたのかさっぱりだが、文字通り天が味方したと言うべきだろう。
神様ありがとう!!
邪神はくたばれ!!
「ふぅー、サンキューショゴス。お前がいなけりゃ結局丸焦げか煙で死んでたかもだ。ありがとな」
俺はスライムであるショゴスを撫でると、どこか嬉しそうにプルプルと震える。
顔がどこかすら分からないが案外可愛いやつだ。
ニャルのくせに最高のプレゼントだなこりゃ。
「まぁショゴスのことはいいとして、大丈夫か?どこか怪我は……してるな。どっかに病院とかあったりしないのか?」
「……」
「あ、もしかして喋れないとか?いやでもあの時助けを呼んだの君だよな?あまりの出来事で声が出なくなったとかか?」
「……して」
「お、喋れるのか。悪い、もう一回言ってくれるか。今度は耳を澄ますから」
俺は目線を合わせるように座り、彼女の声を聞く。
「殺して」
「……ごめん、どうやら俺は耳が悪いらしい。一緒に病院行くか。異世界に耳鼻科ってあるかな?」
「お願い……これを持って、向こうに。私はもう……いいから」
少女から渡された謎の液体。
なんかグロテスクな見た目をしているが、なにこれ毒?
「えっと、よく分からんが自分で持って行った方がいいんじゃないか?俺としては何から始めたらいいかも分からんし、案内してくれると助かるんだが」
「……」
「……はぁ」
面倒だなぁ。
「何があったか知らんが、少なくとも俺はお前の命の恩人。そんな俺にお使い頼んで私は死にますってバカか?そんなん言うなら」
俺は瓶に入った液体を掲げ
「これはここで割らせてもらう」
「ダメ!!」
そして勢いよくそれを取られる。
必死そうなその様は、死のうとしている人間にはやはり不釣り合いなものであった。
「行くぞ。死ぬにしろ生きるにしろ、それは大事なものなんだろ?せめてそれを持って行くくらいはして見せろ」
「…………はい」
そう言って少女はゆっくりと立ち上がり
「どちらにせよ、可愛い子き泣き顔は似合わないぜ」
「……」
俺達は歩き出すのであった。
◇◆◇◆
「……あの、それは何ですか?」
少女……スズはショゴスについて尋ねる。
あれから時間も経って大分落ち着いたのか、こうして会話してくれるようになったのだ。
うん、やっぱり人と話せるのはいいことだ。
邪神と違ってな!!
「ショゴスのことか。ショゴスはな……」
え?
「お前ってなんなの?スライム?」
「スライムにこんな大きさの個体はいませんよ。人を運べるだけの力があるなんてのも聞いたことがありません」
「異世界あるある、スライム最強はここでは通用しないのか」
となるとなんだ、ショゴスってスライムじゃないのか?
「私はもう色々慣れましたが、村の人が見たらかなり驚く生物であることは確かです」
「そうなるとペットみたいに連れ回すのは危険だな。よしショゴス、戻っていいぞ」
「テケリ・リ?」
ショゴスは俺の言葉を理解しているはずだが、特に何かするでもなくジッとそこにいる。
「えっと、戻る、本、オッケー?」
「テケリ・リ」
ショゴスは魔導書に向かって触手のようなものを伸ばすが、やはり何も起きない。
これはまさか
「戻り方が分からんのか」
「テケリ・リ」
マジか。
俺はもう一度魔導書を開く。
やはり何を書いているかサッパリだが
「この下の部分。もしかしてここに戻す呪文が書かれているのでは?」
確かニャルが言うには条件を満たせば次第に本が読めてくるらしい。
その条件が何かは知らないが、少なくとも今の俺はショゴスを帰す術を知らないってことだ。
「まずいな、このままショゴスを街に入れるわけにはいかんし、かと言って放置するにも心配だしな」
あれやこれやと考えていると
「ん?どうしたショゴス」
ちょんちょんと肩を叩かれる。
何やら見て欲しいものがあると言わんばかりのショゴスは、何故かプルプルと震え出し
「おいまさか」
「嘘……」
スズの持っていたナイフと同じ姿へと変貌したのだった。
「ショゴスすげぇ!!」
「あんなに大きかった体がこんなに小さく……神秘ですね」
「これ元に戻れたりするのか?」
そう言うと、ショゴスはもう一度スライムの姿に変わる。
だが、先程と比べどこか疲れている様子を見せる。
どうやら変身すると体力を消耗するらしい。
あまり何度も使わせるべきではないだろうが
「これで街にも入れるな!!」
「テケリ・リ!!」
「あの……ところで」
スズは申し訳なさそうに手を上げ
「結局この子は何なんですか?」
俺とショゴスは顔を見合わせた。
◇◆◇◆
「あ、異世界転生者なんですね」
俺が異世界から来たと言うと、思ってた数百倍あっさりと受け入れられた。
というのも
「私の村にも結構いますよ。最近多いんですよ、転生者の皆さん」
「そんな季節感のある虫みたいに……」
この世界では異世界転生者は結構多いらしい。
じゃあチートだらけかと言われたら、むしろ逆。
「異世界の人って魔法が使えないんですよね。魔力はあるのに使えないって不思議ですね」
「あ、やっぱり魔法あるんだ」
だから異世界転生者はこの世界だと結構蔑まれる立場らしい。
同じ知性で魔法が使えないとしたらその通りなのだが、思ったよりも異世界は世知辛そうだ。
「でもスズは俺のこと嫌悪してる感じはしないが」
「エイボンさんは命の恩人ですし、それに私のお姉ちゃんは転生者なんです。だからあんまり気にしてないですね」
「あぁ、病気のお姉さん転生者なのか」
何故スズがあんな危険な場所にいたのか。
その理由はどうやら姉が病気にかかってしまったらしい。
その治療薬として、先程俺達がいたンガイの森にあるどんな病気も治ると言い伝えられる液体を回収しに来たそうだ。
その際、一緒にヤノという人と共に来たそうだが……
「これでお姉ちゃんの病気も治るはず!!」
どんどん元気になる様子は嬉しいはずだが……やはり、なんだか不安な気持ちでいっぱいである。
もしこのまま姉を助けたとして、スズはその後一体何をするのだろうか。
それに、気持ちの元気は上がっているようだが時々咳をする辺り、体調面は逆に悪化しているように感じるしで。
うーんこれは
「なぁスズ。村に行ったらしばらく村に住んでも大丈夫か?」
「え?はい、大丈夫ですよ。ショゴスちゃんがいるなら、きっとエイボンさんは凄腕冒険者になれると思いますしね」
「おぉ!!冒険者!!やっぱりあるんだな」
「あ、そうだ。冒険者になるなら戦うことが多くなります。なのでこれ、渡しておきます」
「いやこれは……あぁ、ありがとう。大事に使わせてもらうな」
俺は期待と不安を胸に、スズの故郷へと向かった。
そして
「そん……な……」
俺達は崩壊した村に辿り着いたのであった。
魔導書片手に異世界へ!!〜発狂付き〜 @NEET0Tk
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