第2話
目を覚ます要因は何だっただろうか。
鳥の囀り?
風が触れる感触?
それとも太陽からの光によるものだろうか。
いや、それはないか。
答えは定かではない。
ただ紛れもない事実として
「ここが異世界か」
俺は異世界転生を果たしたのだった。
◇◆◇◆
「ってどこだここは!!」
目覚めると森の中にいた。
なんか神秘的と言われたらそう見えるし、普通の森と言われてもそうかも……って感じの場所だ。
最初は蚊に噛まれることを恐れはしたが、なぜか俺は全身をローブで包まれた姿をしている。
手には例の魔導書もありで、姿だけ見たら正に魔道士って感じの見た目である。
一ミリも魔術なんて使えないけどな。
それにしても
「やっぱり森の中は歩きにくいな」
どうにか川か湖でも探そうとふらついてはいるが、木々のツルやら何やらで足元を取られ、中々先に進むことが出来ない。
変な感染症があると思うと触れるのも躊躇われるしで
「これなら魔導書よりもナイフがあった方が助かったのにな」
『本当にそうかい?』
「今の声は!?」
俺は周囲を見渡すが、特に誰かがいるわけではない。
だが今の声、間違いない。
「ニャル!!どこにいるんだ!!」
『ここだよここ』
「ここって……魔導書?」
声の発生源は魔導書の中からであった。
『やぁさっきぶり。どうだい異世界は?楽しんでるかい?』
「お陰様でな」
『顔が見えないから分からないけど、君が凄い嫌そうな顔をしてることは分かったよ』
あははと相変わらず人を小馬鹿にしたような笑い方をする邪神。
ほんと、なんで最初あんなに信用してしまったんだか。
……美人だったからだろうなぁ。
「で?何のよう?何もないなら喋らないでくれ」
『冷たいねー。ま、熱いよりはマシだけど。さて、何も嫌がらせだけで話しているわけじゃない。君に助言をしようと思ってね』
嫌がらせは含まれてるんだな。
『その何の役に立ちんだって感じで持ってる本。それはとある条件を達すると内容が分かるようになっている特別仕様のものなんだ。例えで言うなら「金色のガッ」』
「言わせねぇよ!!」
よく分からないが名状し難き何かに触れようとしやがったこいつ!!
油断も隙もあったもんじゃないな。
『まぁ論より証拠だ。特別サービスをしてあげよう。エイボン、無人島に行く際に何か一つ持っていけるとしたら何を持っていく?』
これは有名なやつだよな。
ふざけてヘリとか船とか答える奴もいるが、基本的なものでいうなら
「サバイバルナイ」
『そう、ショゴスだ』
「おいもっとふざけた奴がいたぞ」
てかなんだよショゴスって。
食べ物か何かか?
『そんなわけでショゴスを召喚する魔術を使えるようにしておいたよ。うん、僕って良心的!!じゃあ僕も仕事があるから、それじゃあ頑張って生き残ってね』
そう言って一方的にものを言って去って行ったニャル。
仮に次会う機会があったら一発ぶん殴ろう。
女男以前にあいつ神だし問題ないだろ。
「それにしても魔術ねぇ。本当に使えるのか?」
パラパラとページを捲る。
どこかでまた噴き出す声が聞こえたが気のせいだろう。
それよりも
「本当に見えるようになってる」
とあるページのとある箇所、そこの一部分が相変わらず謎の言語であるにも関わらず読めるようになっていた。
これを読めば……いいのか?
いや待て。
「無警戒過ぎだ俺は。相手はあのニャル、素直に受け取れば危険な気がする」
これはまだ触れないでおこう。
マジで危険になった時にだけ使うようにし
ガサっ
「……ん?」
またニャルか?
「今度はリアルで登場ってか。今度は何の」
次の瞬間、俺は目にすることになる。
およそ生物とは思えないほどの異形、例えるならば一枚だけの翼を持った巨大なクサリヘビのような怪物。
既に何かを捕食したのか、今もなおポタポタと血を垂らしている。
武器を持たざる人類には……いや、例え銃火器を持っていたとしても勝てる気すら分からない化け物がそこにはいたのだ。
「に、逃げなきゃ」
そう思うものの、足が全く動かない。
腰が抜けてしまった。
幸いまだ化け物は俺に気付いていない。
このまま音を立てずにいれば
「だ、誰か助けて!!」
俺の右手側から声がする。
今のは……人の声だ、間違いない。
よかった、この世界にも人は存在したんだ。
そう歓喜したのも束の間
「まずい!!」
化け物は声がした方向に走り出す。
俺はそれを追いかけよう走り
「……何になるんだ」
出せなかった。
「俺が言ったところで犠牲が増えるだけだ。むしろ、このチャンスを棒に振る方がバカな話だ」
せっかく助かった命だ。
化け物が向かった方と逆に逃げることが得策だろう。
そうだ、何故俺は助けようなんて変なことを考えたんだ。
「見捨てる、それが最善だ」
そして俺は走り出した。
◇◆◇◆
呼吸をすることが痛い。
口の中の水分は空っぽで、足は巨大な岩を引きずっているかのように重い。
ただでさえ毎日が苦しかったのに、これじゃあ生きていることが苦痛にしか思えない。
それでも走らなきゃ。
それでも走らなきゃいけない。
潰れそうな喉で叫ぶしかない。
「誰か助けて!!」
そんな私の声をかき消すかにように、木々を払い除け追いかけてくる魔物。
その奇妙に膨らんだ頭には、私を確実に食らおうとする意志を感じる。
怖い!!
涙が枯れるほど怖い!!
でも確かに握っているこれだけは、絶対に離すことは出来ない。
でも
「死にたくないよ」
そしてそんな私の願いなんて傲慢だと言わんばかりに
「……あ」
もう一体の魔物が姿を現した。
「……いや」
そして私は知りたくない事実を見せつけられる。
魔物の体に突き刺さっているあのナイフは
『ヤノおじちゃんにプレゼント!!』
『おぉ、こりゃ嬉しいもんだ。でもいいのか?狩人の俺は獲物を剥ぐ時にしか使わんが』
『うん!!その為に買ったものだからいいんだよ』
『そうかそうか。なら、大切に使わせてもらうか』
「いや」
見間違うはずのない
「いやァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
確かな絆が消えた証拠であった。
【発狂】
『そうか。なら、僕は寛容だからね』
私の目の前にはヤノおじちゃんのナイフが落ちていた。
黒い血で染まったそれに映し出された私の顔は
「あは」
歪んで笑っていた。
「あははははははは」
ナイフを手に取る。
もうどうでもいい。
全てがどうでもいい。
おじいちゃんのことも、村のことも
「お姉ちゃんだって、もうどうでもいいや」
そうだ、どうせみんな死ぬなら同じじゃないか。
なら先に行ってしまってもいいに決まってる。
もう私は、この地獄に耐えられそうもない。
「さよなら、お姉ちゃん」
そして私はナイフを自身の首へと刺
「テケリ・リ」
……声?
「テケリ・リ」
奇妙な、人とは思えない声が響いた。
その声は次第に近付いてくる。
「テケリ・リ」
「ちょ、待」
そして次の瞬間
「テケリ・リ」
「このスライム速すぎにも程があるだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
私のヒーローが現れた。
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