第6話

そんなこんなで、コルセットは無事着付けられた。

その後、軽い軽食をとる。

出てきたのは1口サイズに整えられたサンドウィッチだった。

サンドウィッチは3種類あった。

1つ目はサージと呼ばれるハムのようなものと、マヘルと呼ばれる葉っぱを挟んだもの。

2つ目はカガルという鳥のような生き物の肉とその卵を使ったもの。

3つ目はアルの実といういちごのようなジャムを塗ったものだった。


この世界はなぜだか日本にいた頃の味に似ているものが多い。

それなのにあまり美味しくないと感じるのは味が薄いからだろうか?

どこか淡白に感じてしまい、日に日にお米や魚、お味噌汁が恋しくなってくる。

この国にはあまり魚を食べるという文化がないらしいから...

食べる機会はなかなか無いだろうと思っている。

最も他の国では家庭料理ぐらいのニュアンスで使うらしいから頼めば食べれるんだろうけどね。


少し軽食をつまんだ後はいよいよドレスを着る。

今回は初のドレスということで、あまりスカートの膨らみの大きくないシンプルなもののようだった。

淡い青色から紺色へとグラデーションになっているそのドレスはあまりにも綺麗で、

「こんなもの似合いません!!」

と思わず言ってしまった。

しかし、

「美晴様にきっとお似合いになるだろうと第1王子様がお選びになったものです。」

と言われ、結局着ることになってしまった。

着たあとはそのまま化粧を施される。

「目を瞑っていてくださいね。」

そう言われて目を瞑ったが不安で開けてしまいそうになる。

その気持ちを堪えてどのくらい時間が経っただろう。

顔のまわりや、髪から手が離れていく気配を感じた。


「もう大丈夫ですよ」

「ぜひこちらの鏡でご覧になってください!」

そう言われ鏡を見て映る自分は、別人のように見えた。

元々、大学に通う為や、バイトの為に化粧をすることはあったが、やはりプロの手となるとこんなにも違うものなのか。

歳の割には幼く見える顔立ちは大人っぽいドレスにより美しく見え、コンプレックスだったタレ目でさえ、色っぽいものに見える。


「これが私...?」

「美晴様は幼い顔立ちということを気にしていらっしゃったようなので、少し大人っぽい印象にさせて頂きました。」


驚いた。

たしかに自身の顔立ちはコンプレックスだった。

少しでも大人っぽく見せたいと思い、アイラインを濃く引いたり、口紅を暗めにするなど様々な工夫をしていた。

でも、そういう話は彼女達にしたことは無い。

なぜ...と思った時だった。


外で話し声が聞こえ、侍女の1人がドアの方に向かった。

「ヒーデスだ。美晴に会いたいのだが大丈夫だろうか?」

「美晴様、第1王子様がいらっしゃっています。

如何なさいましょうか?」

「大丈夫です。お通しして下さい。」


私がそう言うとドアが開けられ、ヒーデスが入ってきた。

彼は私を見ると...その場で静止した。

無言で凝視してくる。

段々沈黙に恥ずかしくなった私は、

「あの...似合わないですか...?」

と、恐る恐る尋ねた。

彼が選んでくれたドレスを着こなせていない。

そう思うと、分かっていたけれど悲しくなる。

「マニエル。」

ヒーデスは静かな声で、私お着きの侍女を呼んだ。

「これはダメだろう。」

その言葉に涙が出そうになった。

やはり似合っていないのだ。

もう恥ずかしくて、悲しくて、穴に潜りたい思いだった。

しかし彼女の反応は私の想像より少し違うものだった。

「ええ、ええ!そうでしょう。

だから似合うだけでなく、もっと考えて選ぶべきだと言ったのです!」

「本当にそうだったな...ここまで美しいとは...

謁見はなしにしてそのまま庭の散歩でも...」

「そんな事この私が許しませんよ。」

「だが...」

「あの...」

2人は何やら話をしているが、待って欲しい。

つまり、似合っているが、似合いすぎてという話なのだろうか?

だとしたら...

頬がブワッと熱くなるのを感じる。

そしてそれを見たヒーデスも口元を抑えて横を向いた。

恥ずかしい!!

でも嬉しい。


「あの...その...」

先に口を開いたのはヒーデスだった。

「...君が良かったらエスコートさせてくれないだろうか?」

恥ずかしそうに言うヒーデスに、

「もちろん!」

と嬉しそうに答える美晴。

彼女たちを見守る視線は温かいものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の大国と聖女の涙 @kaorun2222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ