〜7章〜【宣戦布告】

帰りの道中、シラヌイの介抱もあり、何とかギルドに戻ってくる事ができたアーク。

 

(これはいかん!今すぐ治療室に運ぶのじゃ!)


俺はすぐ様、治療室へ運ばれ緊急手術が施される、そして、俺の手術中シラヌイが皆に事の経緯を話していた。


(謎の爆破魔法か…にしても、アイツがここまで手酷くやられるなんてな…。)


(それに、隊長と思われる女と言うのも気になるわね。)


アークは星の中でもかなりの実力者、皆は改めて奴らの脅威が身に染みた。


(マスターの名前は“ニグラス,,と呼ばれていた。魔法か否かは不明だが、磔にされておった男が死んだのは明らかにその者による物であるのは確かだ。)


シラヌイが話し合えるとマスターが驚いた様子で声を張り上げた。


(ニグラスじゃと!?どう言う事じゃ…)


マスターはヘルメウスのギルドマスターであるニグラスについて何か知っている様子だ。


(何だよマスター?そのニグラスって奴の事、

知ってんのか?)


シルバーの問いにマスターは険しい顔付きになり、話し始める。


(本名【ニグラス・ウォルバット】奴は、かつて所属していたギルド《冠》“キング,,において

ギルドマスターを含む構成員44名を虐殺した罪により、委員会から「S級賞金首」に指定されておった史上最悪の殺人鬼じゃ。)


マスターの答えに場の空気は完全に凍り付いてしまったが、少しの間を置きシラヌイが口を開いた。


(“おった,,と言う事は現在、其奴は賞金首では無くなったと言う事ですか?)


(違う…ニグラスは三年前に既に処刑された筈なのじゃ、委員会からも直接報じられた。)


(そ、それじゃ、別人なんじゃねぇか?それかソイツの息子とかかもしれねぇぜ?)


委員会によって処刑を執り行ったと言う報告がある以上、別人説や息子説を考えるのが自然だろう、だがマスターは続ける。


(いや、恐らくニグラス本人で間違いないじゃろう…シラヌイ、その殺された男とやらは、最後、悶え苦しんで死んだ…そうじゃな?)


(は、はい…やはりあれは魔法なのですか?)


マスターはシラヌイの問いに首を横に振った。


(魔法ではない…ニグラスは【思呪体質】と言う、先天性の特殊体質者での、いくらかの手順を踏まねばならぬが、任意の人物に、死の呪いを掛ける事ができるのじゃ、そして一度呪いを掛けられれば、いかなる方法であっても解呪する事は出来ず奴に生涯、命を握られる。)


この世界には様々な特殊体質を持った人間がいる。だがそのいずれも、


「熱さに強い体質」

「電気に強い体質」

「毒に強い体質」


など、己自身の体質である場合が殆どだ、

「思呪体質」などと言う、他人に影響を及ぼす体質なんて聞いた事がない…。


(厄介ね…でもその手順ってのを取らせなきゃ良い訳だから、どうにもならない相手って事はなさそうだけど?)


エレナの言葉に対し、マスターの顔は更に険しくなった。


(そう簡単な話でもない、呪いを掛ける手順は


1/相手の名前を知る。


2/その名前を呼び、相手に触れる。


3/呪文を唱える


この3段階の手順を踏む事で、呪いを掛ける事ができるのじゃ。)


(なんだよ、それなら名前を教えなければ良いだけの話だろ?全く、変にヒビらしてくれるなよ、人が悪いぜマスターも。)


名前を知られる事さえなければ、呪いに掛かる事もないと皆が安堵した時、マスターのけたたましい声が響く。


(最後まで話を聞かんか!バカ者ぉ!そう簡単ではないと言うたじゃろう!…はぁ、確かに名前を知られなければ済むのじゃが、それは不可能なんじゃ。)


(不可能とは一体どう言う意味ですか?)


シラヌイがマスターに問い掛ける。


(ニグラスの固有魔法は《絶対透判「パーフェクト・インフォメーション」》と言って、人や動物や植物に関係なく、視覚に入る全ての物の個人情報は然り、遺伝子情報までをも視る事が可能なのじゃ。)

      

マスターの発言に、一同は愕然とする。


(そ、そんなのって…)


(そんなの、どうしろってんだよ…!)


(打つ手なし…か。)


《バンッ!》


皆が絶望に打ち拉がれてると、勢い良く治療室の扉が開いた。


(お前ら何、諦めてんだよバカやろぉ!)


一同(アーク!)


(アークっ…!もう動いても良いのか!?)


あぁ!それよりお前ら、何落ち込んでやがるんだよったく…名前が知られようが何だろうが、要は捕まらなきゃ良いってだけの話だろ?簡単じゃねぇか!そんな奴ぁ俺がヤッてやるよ!)


何の解決にもならないが、絶望する皆を立ち上がらせるには充分な言葉だった。


(ホント…、アンタを見てたら落ち込んでるのがバカらしくなってくるわよ…!)


(うむ、アークの言う通り希望がない訳ではないからな!)


(ったく…!テメェに励まされるなんざ、情けねぇ限りだぜ!)


アークの登場によって、いつもの明るい空気が舞い戻って来た、そしてマスターも声高らかに笑う。


(グハハハッ!安心せい!ギルドの皆はワシが命に代えても守ってみせるわい!)


(フッ、無理せず俺に任せときなジジィ…!)


和気藹々な雰囲気の中、突然ギルドの門が開いた、そしてそこへ現れたのは…!


(やぁ、星の魔導士の諸君。)


なんと、ニグラス本人がギルドへやって来た!


(ニグラス!貴様ぁ!何をしに来たんじゃ!)


ジジィの今までに見せた事の無い怒号がギルド中に響き渡る、しかし、ニグラスはケロッとした顔で続けた。


(そう身構えるなよ、今日ここは来たのは一つ君たちに伝えたい事があったのだ。)


(伝えたい事じゃと…?)


すると、ニグラスはとんでもない事を言い出した!


(明後日、我らヘルメウスは全戦力を持ってこのギルドへ攻め入る!そして一人残らず殺してやる、かつてのあのギルドの様にな。)


奴は正面切って宣戦布告して来やがった!

戦争になんてならなければ良いが…そんな希望はアッサリと断ち切られてしまう。


(ふざけるな!そんな真似は絶対にさせん!)


(フフッ、冗談でこんな事を言うと思うか?まぁそれはそれで別に構わないがな、それでは諸君、明後日、また会おう…)


          ・

          ・

          ・


そう言葉を残し奴は消えた…そして、事情を知らない者達が騒ぎ始める。


(このギルドに攻めて来るだって!?)

(ヘルメウスって何だ!?)

(何がどうなってんだよ!)


現れた男の発言が、余りにも突然な話だったが故に、皆の胸中に走る衝撃は次から次へと伝染して行く、ギルド内は最早パニック状態に陥っていたが、


(静まれぇぇい!!)


騒ぎ立てる音の中、一際大きなマスターの声により、先程までとは一変ギルド内は静寂な空気に包まれ、マスターは話を続けた。


(先ほどの男の宣戦布告により、我々星と盗賊ギルドであるヘルメウスは戦争状態に入った!混乱を避ける為とは言え、皆に黙っておった事を詫びる…すまん!)


皆の不安は無理もない、いきなり戦争だなんて言われてもそう簡単に受け入れられる筈がないんだ…、しかし皆の反応は思い掛けない物だった。


(なんだ…盗賊ギルドかよ〜、俺ぁてっきり、マスターがどこぞの正規ギルドのマスターと揉めたりでもして争いになるのかと思ったぜ〜)


(盗賊ギルドなら問題ねぇな!)


(犯罪ギルド如きが、ウチらに宣戦布告だなんて笑わせてくれるわね!返り討ちにしてやりましょう!)


ほんと、肝っ玉が座ってるよ…ここの魔導士達は…!皆が活気を取り戻した所でマスターは、再度話し出す。


(じゃが、この街を戦火に晒す訳にはいかん!よって明日の朝、奴らのギルドを叩くつもりじゃ!皆の者このギルドを守る為に力を貸してくれ!)


((ウォォォォォォォオ!!))


最高だぜ…お前らは!

ヘルメウス…ニグラス!星に喧嘩売った事を後悔させてやる!


(良いギルドね、ほんと…。)


(なんだよエレナ、泣いてんのかお前?)


(良いギルドだ…、このギルドを守る為なら余も力の限りを振るおう!)


そして、マスターを中心に作戦会議が始まった。

   

         ・

         ・

         ・


~翌朝~


(準備は良い?アーク)


(そんなもん常にできてるよ!)


(では皆の者行くぞ!星の魔導士の力を思い知らせてやるのじゃ!)


星の魔導士52名、盗賊ギルドヘルメウスに向けて進軍を始めた。


~ヘルメウス アジト~


(ニグラス様…たった今、星の魔導士総勢52名がここへ向かっているとの情報が。)


(構わぬ、これも全て作戦のうちだ…フフッ)

























          

        
















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龍の落とし子 ヨネ @Yonesan1789

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