1章 ヨウトウノクニ

第5話 着地狩りの礼儀作法を知らぬのか?

 …うとうとしていたようじゃの。何やら騒がしい場所に堕ちたよう…あれ? シーマは??? 腕の中にいた筈の湯たんぽがおらぬ!? 


「マズい…非情・・にマズい状態じゃ!」

「おい女! カラクリ家の刺客か? ここがハネザキ・カンヅカサ・クニシゲ将軍閣下の天守閣と知っての狼藉だろうな…乳でか…」

「女などおらんが?」


 見渡す限り変な髪型の穴切れ達が吾輩を囲むばかりだ。よく見るとその背後には珍妙な筆致の動物や…これは悪鬼かの? 絵巻物を真似た仕切り板がこの空間を部屋として成立させておる。変わった建築方式じゃの〜!!


「貴様しかおらぬわ!!」

「え、吾輩? 男じゃけども」

「そのデカ乳で男であるわけがなかろう!! ええい、顔も良いしメチャクチャ勿体無いが斬り捨ててしまえ!!」

「おいおい危ないぞ!」

「「「はあああああああ!!」」」


 何故か少し名残惜しそうな穴切れのオスどもは何か力の篭った金属の板切れを吾輩にぶつけた。近くで観察すると、魔法とは別体系の力である事が理解できる。随分と陰険な奴が組み込んでおるの〜〜?? 甲高い音が鳴り、吾輩にぶつかった板切れは粉々に砕け散る。


「は?」

「そんな玩具・・で竜王を縊り殺せるわけがなかろう! 良いか? 殺めるというのはな??」


 慄くオスどもの顔から血の気が引き、脂汗と大きな恐れと死の覚悟が滴ってきた。まだ拳を握り固めただけだというに…肝っ玉の小さい奴らじゃの〜。


「こうやるのだ」

「あ…ばけもの」


 一番手近そうな奴に向けて正拳の一突きを放つ。ビュンと風が駆け抜けて天守閣? とやらの壁を大きく穿った。拳があまりにも弱すぎてバキバキに折れて痛かったが故か、オスAが尻餅をついた故か血飛沫の花が咲くことは無かった。室内を風と音が遅れて吹き飛ばす。


「回復魔法を使いながらでないと拳1つ振えないとは…人間弱過ぎじゃろ。しかして…ええのう♪」


 久しく味わっていなかった蹂躙の愉悦だ! この空間は最早吾輩への畏怖・恐怖だけに包まれ、失神する者に失禁する者・呆然と膝をついて吾輩を見上げるしか出来ない者に満ち溢れていて。口角も吊り上がるというものよ。


「クックック…皆殺しじゃ」

「ひぃ…や、やめ…助け…」


 オスAを逃さぬように首を引っ捕まえて拳を構えた時、思い出した。


「あっ!」

「ひぃぃぃぃ!?」


 『シーマの手本となるべく人間の女としてふさわしい振る舞えをするように。破ったら力が更に弱まり、ワープして俺が脇腹を抉りにいく』…若造の言葉通りに考えてみると、ヤヴァい。穴切れのメスは当然これ程の膂力を持ち得ないし、蹂躙が趣味みたいな強者のメスには過去出会ったことがない。

 シーマがいないとはいえ、若造には吾輩の行動を筒抜けの筈。


「やっぱ無し!! じゃの」


 ぐったりしたオスAを投げ捨てて、手ずから作った穴に飛び込み地上へ。何やら穴切れのの集まる場を足場に出来そうなので其方を目指すとしよう。


———


 広場を囲む群衆。視線の先には女が1人。泣きじゃくる彼女の背後には陰陽道の力で煌めく刀を構えたサムライ達。サムライの1人が群衆に戒める為に叫ぶ。


「この者は偸盗を犯した童を子供だてらにと庇い立てした!! 悪に理由などなく、年端も関係はない!! 今一度刻め、悪は全て・・誅さねばならぬと」

「そんな〜まだ今日のおやつも食べてないのに…」


 あと数秒で首を刎ねられる女は呑気な遺言を吐きながらやはり泣きじゃくる。目からは涙の滝を、鼻からは鼻水の濁流を垂らして。サムライ達は嘲笑した。


「実に悪人らしい無様な最後よ。やれ」

「へぇ!」

「うぅ〜」


 刀が白い軌跡を描き、甲高い音が群衆の中を吹き抜けていく。


「—いきなり着地狩りとか失礼じゃろが!!」

「あば—」


 執行人の男が振るった刃は突如空から降って来た麗女の頸に当たり砕けて、そして機嫌を損ねた麗女は執行人を空の彼方へと殴り飛ばしてしまった。

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吾輩は竜王である。名はもう捨てた 溶くアメンドウ @47amygdala

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