第4話 ちょっとだけじゃからな!!!

「きっつ〜〜〜!! 何なんじゃこの胸は!!!」

「うーん。少しデカくしすぎたか?」


 魔剣の若造に渡された布切れを纏おうにも、乳がどう考えても入り切らない。サイズを間違えておるのではないかと7回も問うた! …合ってるって。


「…これなら何とか」


 乳の下側を露出する形であれば一先ず装衣完了ではある。


「うーん。良いか、今は」


 なんでそんな不満そうな顔をしている?


「なぁ〜? 若造が用意したんだから、吾輩が痛めつけられるのは理不尽だと思わんか〜??」

「うーん。まだ何もしてないけど」

「でも〜、手がワキワキと吾輩の頭を抉りたいそうに蠢いているけれど〜??」

「シーマの教育に良くないような…」

「気のせいじゃろ♪」


 にしても不思議な格好である。肩も胸元も下腹部も大腿も、急所たりえる部位はかなり露出している。排熱効率なぞ、穴切れ程度なら考える必要もなかろうし…これは何を目的としたデザインか甚だ理解に苦しむの。

 吾輩の思考を遮って準備の出来たシーマがぴょんすか飛び付いてきおった。これだからガキは嫌いなのだ!…が若造に一瞥され、口笛を吹いて誤魔化す。奴は関節技サブミッミョン系は全部強い。


「じぃじ早く〜!! 早く!!」

「…よいのだな?」

「あぁ。忘れるなよ」

「しつこいぞ? 竜王は約束を忘れはせん」


 若造とは『母親の死についてシーマに話さない事』『シーマを傷付けない事』『人間としての振る舞いを徹底する事』の3つを義務付けられてしまった。本来の力さえあればアームレスリングの一つ二つ余裕のヨルムンガンドであったのに!! こんなねぇ!!細っせぇ腕でねぇ!!勝てるわけゃあね〜〜んだよ!!!

 破った場合は1つ毎に『更に力が3,000分の1になる』呪いを掛けられている。流石の吾輩でも、9,000,000分の1の力では穴切れどもの国1つ堕とすのすら苦労してしまいかねない。守護らねばッッ…! 3つ全部破れば8兆分の1の力しか出せんしな。


(ま、ここを離れた瞬間に本来の力の半分程度は出せるように身体を調整してやるわ!!バカめ!! クックック!!!)

「うーん。それやったら一瞬で分かるから」

「!? コイツ、吾輩の心が読めるのか!?」

「見守り魔法を仕込んである」

「何じゃそのバカ親専用魔法は!?」

「はーやーく!!!」

「くっ…!」


 このガキを蔑ろにするとどんな目に遭うか想像もつかん。兎に角今は合わせるのだ…! 機会など永劫を駆ける吾輩になら文字通り無限にあるのだから!! でもやっぱ悔しいのじゃ!!!!


「シーマ、お外に行く時はいってきますって挨拶するんだ」

「! 行ってきます、父さん」

「うん。いってらっしゃい」

「好きじゃのーそーゆーの」


 儀礼を重んじるのがよー分からん。魔法的な意味合いも無いし合理性から生じた物でもないし。縁起を担いで防御力が上がるのなら吾輩だってやるかもしれんが。


——


「寒くないところがイイ!!」

「そんなところがあるの!!」

「…本当に何も教えられておらんのだな」


 口癖が「教育」の癖にまるで教えるのが下手くそだな。だからこそ躍起になっておるのか! クックック、生意気な若造の不得手を知れただけでも気分が心地よい!!


「と考えておる間も寒いの…くれぐれも落ちるでないぞ?」

「分かった!!」


 シーマを抱き抱える。こやつの装いがモコモコしているのもあって湯たんぽ(と吾輩は抱き枕代わりに使っていた体温の高い炎龍サラマンダーの姫をそう呼んでいた)みたいじゃ。


「出力は300%程で大丈夫かの?」


 翼を3対のジェットエンジン器官に変態させる。本来よりかなり弱まっているので、ある程度多めに蒸した方が良かろう。


「全燃焼翼過燃焼オーバーロード…行くぞ」


 顔面部を竜王の顎門を模した面頬で守り、地を蹴る。そうそうこれこれ!! この空を駆ける感触こそ吾輩に相応しい!!!


「わぁー!! お空の中にいる!!」

「ハーッハッハッハ!!! 凄かろう」


 ——こうして吾輩とシーマの存在しない母親を探す旅が始まった。




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