9:勇奈(イサナ)との電話

 「知ってる名字の知らない名前連中」にも電話をかけるしかないだろう。

手始めに俺は「黒島勇奈クロシマユウナ」という女性に電話をかけることにした。

黒島勇くろしまゆうき」なら、俺のチームのリーダーだが、「勇奈」という名前に心当たりはなかった。しかし、当てが外れて電話をかけるなら、できるだけ知った名前に近い人物にかけたかった。

「……『イサナ』⁉︎」

 短縮機能からかけようとして、振られている読みがなが予想と全然違ったことに意表を突かれた。

ただ、先ほどの「光輝ミキちゃん」の一件は、防げたのかもしれない、と妙なことを思ってしまった。

 今回は、呼び出し音が鳴るなり受話される気配がし、「あ、緑山ミドリヤマくん? どうかした?」という女性の声がした。

 ……え……

男声と女声。多少の言い回しの違いはあるものの、全体的な雰囲気は、俺の知る「黒島勇」そのものだった。

「えと、黒島……勇奈さん? のお電話でお間違いないでしょうか?」

「やだ、緑山くんどうした? まさか店電からかけてる? ……な、わけないよね? これ、緑山くんのケー番だもんね」

「その……君は黒島勇くんの親戚か何かかな?」

「やだ、本当に何言ってんの、緑山くん。大丈夫? 変な薬とか手ぇ出してない? わたしは黒島勇奈。黒い島に勇ましい、大きいの下に示すの『奈』で、黒島勇奈。緑山くんとは小学校からの同級生じゃない」

 俺はまたしてもフリーズしかけた。

俺の知る「黒島勇」の自己紹介フレーズは「黒い島が勇ましい」だった。

彼女の場合は「その後ろに1文字付いている」分、「完全一致」だった「光輝」や「ひびき」ほどの衝撃はなかった。

しかし、「9割方一致している」分、「どうしても拭い切れないもの」があるのもまた事実だった。

「それで結局、わたしに何用? 緑山くんって、用もないのに女の子に電話をかけるような男性じゃないよね?」

「あ……、いや……、その……」

彼女が「この世界の黒島勇」であるならば、これ以上余計な発言はしないほうが良いだろう……。

「ごめん! 何でもないんだ!!」それだけ言うと俺は素早く電話を切った。

 ここまでは「男だと思ってかけたら女だった」のが2人、「女だろうと思った上でかけたら、案の定女だった」のが1人だ。

ということは、残る「知ってる名字の女名」連中も女であることは疑う余地もないだろう。

 ……だとしても……

やはり、仮説が事実であるかどうかは、残る全員に電話をかけて検証できるまで分からない。

 先ほどの黒島勇奈との電話で覚悟が決まった俺は、迷うことなく「青野恭子アオノキョウコ」の電話番号を選ぶと、電話をかけた。

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1ピース欠けた世界 赤音崎爽 @WyWsH3972

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