8:響ちゃん⁉︎

 そこで気を取り直して、今度は紫村響しむらひびきの番号に電話をかけることにした。

やはりトゥルトゥルトゥルと呼び出し音が3度ほど鳴った末に、誰かが電話に出る気配がした。

「もしもし、バカ殿?」

『ヤダ、緑山みどりやまくん? バカ殿って、誰のこと?』と女の子の声がした。

……あれ?……

俺の想定では、『あれ? みどりん、どうかした?』とフランクな口ぶりの少年の声が聞こえるはずだった。

 とは言え、今回は相手の声自体に聞き覚えがないわけではなかった。

なぜなら彼には4歳年下の「鳴美なるみ」という妹がいるからだ。

そうは言っても、鳴美ちゃんなら、俺のことは「緑山くん」ではなく、「夏也なつや兄ぃ」と呼んでいるはずなのだが……

「もしかして、鳴美ちゃん? お兄ちゃんと代わってくれる?」

『ヤダ、本当に何言ってるの、緑山くん! 【鳴美ちゃん】って、誰⁉︎ それにあたしに、「お兄ちゃん」なんていないんだけど!』

「え……でも、君、鳴美ちゃんだよね?」

『大丈夫? 変な薬でもキメてない? あたしの名前は、紫村響シムラヒビキ。【志す村の志村じゃなくて、紫の村の紫村】。それでもって、【故郷の[郷]の下に音って書いて、[響]】』

 その瞬間、俺は意識がぐらりと揺らぐような気がした。

今の名前の説明は、俺の知る「紫村響」が使っているものそのものだった。

『それから、うちには【ナル】っていう弟はいるけど、【鳴美】なんて女の子はいないんだからね?』

……「鳴美」じゃなくて「鳴」? しかも"弟"? どういうことだ?……

『それより本当に大丈夫、緑山くん?』

「……ごめん!」

 それだけ言うと、俺は赤音あかねちゃんの時と同様電話を切った。

いや、「切るしかなかった」というべきか。

……おいおいおいおい……

「安全」だと思った人選が2人とも外れるだなんて、あんまりにしてもほどがある。

……かくなる上は……

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