7:光輝(ミキ)ちゃん事件

 トゥルトゥルトゥルと呼び出し音が3回ほど鳴ったのち、受話ボタンが押される『プツッ』という音がした。

そこで俺は、「もしもし? 赤音あかねちゃぁん?」と呼ばわった。

 ところが返ってきたのは、『あれ? 緑山みどりやまくん? どうかした?』という女の子の声だった。

……あれ?……

 俺の想定では、電話の向こうからは、『おう、みどりん。何用?』と明朗な少年の声が返ってくるはずだった。

しかし、実際のそれは女の子のものだ。

彼は「年の近い女の親戚はいない」と言っていたので、彼のいとこか誰かが彼の電話を手にしていたとは考えられない。

 では、電話の向こうの相手は一体……。

「すみません、赤音崎光輝あかねざきこうきくんのお電話で間違いないですよね?」俺は電話口の相手に問い返した。

『はあっ⁉︎ 確かにあたしの名字は【赤音崎】だけど、[光輝こうきくん]って誰よ! あたしの名前はミキ! 【光り輝く】って書いて【光輝ミキ】!』

 俺は混乱のあまり、脳味噌が爆発しそうだった。

……「『光り輝く』と書いて『光輝ミキ』」だって⁉︎……

そのフレーズは、俺の知る「赤音崎光輝こうき」が自己紹介の時に名前の漢字表記を説明する際に使うものと同じだった。

「え……赤音ちゃん、何言って……」

『一応、声からして、「本人」ってことは分かってるけど、本当に「緑山くん」だよね? あたし、君から「赤音ちゃん」なんてフランクな呼ばれ方されるような関係じゃなかった気がするんだけど?』

「あ……、いや、その……」

返す言葉が見つからない。

「ごめん‼︎」

それだけ言うと、俺は電話を切った。

……マジか……

こいつらなら大丈夫だろうと思ってかけたうちの片方まで女声になっているだなんて、本当にどうなっているんだ?

そうは言っても、たかだか1回の不意打ちにビビってもいられない。

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