怪物に抱かれて眠る

王都、 トリニティア宮殿前広場。

本日は王国の国王であるファルマケイア三世が現れた。

広場には多くの民衆が集まり王の言葉を待っている。


「国民諸君、 集まって貰って何よりだ

まず初めに【右道】の魔法使いが地方から王都に集まっている

この件により我が国の地方の治安が著しく悪くなっている

この事について謝罪しよう、 本当にすまない」


王の謝罪にどよめく民衆。

珍しい事態である。

面子を気にする王族や貴族が頭を下げるなんて尋常ではない、


「今回暴れた者達の中には禁止されている【反逆派】の魔法

とりわけ邪悪なる【左道】の魔法使いが多く含まれている

彼等を捕まえて尋問した結果

何と魔王側による組織的な攻撃と判明した!!」


先程よりも大きいどよめきが広場を包んだ。


「そこで我々は取りやめていた

魔王達の支配領域に攻勢をかける事にした!!

国民の皆には負担をかけると思うが我々王族と貴族達も

君達と同じく負担を背負おう!!」


国民達はいっせいにピリついた。

増税か? 徴兵か? 何れにせよ国民に負担を強いるのはご免被りたい。

誰だって自分の金や時間が減るのは嫌だ。


「ファルマケイア陛下!!」


そこに現れたのは【フォーチュン家】当主代行

当主兄弟次男ダイダル・フォーチュン。

何だ何だと再度ざわつく。


「我等【フォーチュン家】以下【右道】一同は魔王討伐に向けて

全面的に支援いたします!!」

「なんと!! 其方等が全面的にサポートしてくるならば心強い!!」


【右道】の全面支援!?

それならば本当に魔王を倒せるのではないか!?

国民達は先程までのくすぶりは何処へやら一気に沸き立ったのだった。

これが後の世に言う【最終攻勢演説】である。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何ですかアレは?」


ダイアンはダミアンに説明を求めた。


「魔王討伐なんて事を何故ダイダル叔父様が実行しようとしているのですか?

叔父様ならば私利私欲でお金を使うでしょう」

「前々から魔王討伐は計画されていたんだ、 君は安心して良い」

「いや、 それは無いでしょう」


ナキリが割って入る。


「魔王討伐なんて夢物語、 実行できるとは思えない

過去の英雄ですら魔王を倒すまでには至らなかった

彼等よりも我々が勝っていると?」

「お前の言う通りだ

だがしかし魔王を倒さなくてはならない事情があるんだ」

「事情?」

「魔力臨界点と言う物がある」

「・・・知ってる?」


ダイアンの言葉に首を振るナキリ。


「当たり前だ、 この事を知っているのは王国でもごく僅かだ

だが【魔法終末論】と言う言葉は聞いた事が有るだろう」


【魔法終末論】とは定期的に流行るオカルト染みた迷信である。

内容は様々だが大雑把にまとめると『魔法の進歩がこのまま進めば

何時か世界を滅ぼす魔法が出来て世界が滅ぶ』という内容である。

反論として『世界を滅ぼすと言う定義にもよるが

世界レベルまで効果範囲を広げるのは不可能』とされ

退けられるのが一般的である。


「まさか・・・世界を滅ぼす魔法を魔王が!?」

「違う、 とは言い切れない

事の発端を離そう、 我が長兄タイタン・フォーチュンは

典型的な魔力信奉者だった、 魔力の多寡のみが判断基準で有り

【フォーチュン家】が今まで推進してきたように魔力の高い女を娶り

魔力の高い子供を孕ませた、 胎児の状態でも相当な魔力を持っていたらしい

しかし、 人間の魔力には限界があった」

「限界?」

「そうだ、 その限界を魔力臨界点と呼ぶ

その臨界点を超えた時

普通ならば絶対に越えないその臨界点を我々は超えてしまった

胎児が育ち妊娠8ヶ月になった頃

兄の妻の子は魔力に体が耐え切れずに爆発した」

「爆発!?」


ナキリが驚愕の声を挙げた。


「その爆発で王宮が吹っ飛んだ」

「そんな馬鹿な・・・そんな事・・・!!

【フォークス家】王宮爆破事件!!」

「そうだ、 当時王家に対して反抗していた

彼等に王宮爆破の罪を着せて事態の隠蔽を図った」

「冤罪って事ですか!?」


ダイアンが叫んだ。

まさかそんな卑劣な事をしていただなんて。


「いや、 これは情報を漏らしたら危ない

魔力を高めた結果爆発が起こるなんて事が知られたら

魔力信奉者達が何て言うか・・・」

「そうだ、 だからこそ魔力を高めるのではなく

技巧を凝らす方向にシフトした

他流派弾圧を緩和させて様々な魔法を使える様にと」

「・・・・・それが魔王討伐と何の関係が?」


ナキリが尤もな質問を訪ねた。


「魔物にも人間よりは許容量が大きいが

魔力臨界点が有る事が分かった」

「つまり魔王も爆発するかもしれない、 と?」

「そうだ、 そして厄介な事がある

先程言った爆破事故は実は予兆が有った、 魔力の異常流出等だ

当時の宮廷魔法使い達は何か有った時の為に結界を展開した

結界を展開していなかったらどうなるか?

恐らくは王都から半径100㎞以上が吹き飛んでいたと推測される」

「「!!」」


あまりにもデタラメは破壊力に戦慄するダイアンとナキリ。


「魔族の魔力臨界点がどれだけか分からない

だがもしも、 魔力臨界点を戦略的に利用したら

いや戦略的に利用しなくても魔力臨界点が人間の10倍ならば

破壊力も単純計算で10倍以上に跳ね上がるだろう

半径1000㎞の爆発、 その爆発に

いや余波でも世界が滅ぶだろう、 分かるな?

魔王は絶滅させねばならない」

「・・・・・」


頭を抱えるナキリ。


「な、 何で私に教えて下さらなかったのですか?」


ダイアンが震え声で問う。


「さっきも言った予兆が起き始めている」

「!!?」

「つまり魔力臨界点による爆発が起こりえる、 と?」

「可能性は高い」

「そんな・・・」


震えるダイアン。


「安心しろダイアン、 我々が総力を挙げて奴を倒す

お前は待っていろ」

「・・・・・私は役に立たないと?」

「子供を前線に出す程、 私は人でなしでは無い」

「・・・・・」



ダイアンとナキリはダミアンの部屋から出た。


「厄介な事になったな」

「厄介なんてレベルじゃないわ、 何て言う事なの・・・

それに何も出来ないなんて・・・」


ダイアンは頭を抱えた。


「世界とはままならないもんだよ」

「割り切れと言うの?」

「割り切ろうと割り切れまいと世界は人間を置き去りにして進むんだよ

だったら割り切った方が良い」

「・・・・・」


ダイアンは顔をあげてナキリを見た。

ナキリは文字通り死んだ様な眼をしていた。


「・・・・・貴方は何を割り切ったの?」

「オレ? 初恋の娘が特等のクズだって事かな

思い出すだけでも嫌だ」

「・・・好きな人を悪く言うのは駄目だよ」

「へっ、 知った事かよ」


悪態を吐くナキリ。


「因みに初恋の相手って?」

「言わねーよ」

「私の初恋の相手は」

「【ゲッシュ】だろ」

「彼との付き合いは」

「興味ねーよ」


掛け合いをするダイアンとナキリだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


魔王が支配する魔王領最深部魔王城にて一人の女が歩いていた。


「おやおや、 十二魔将の放蕩娘のお帰りですか?

人間ごっこももう良いのかい?」


出向かえたのは魔王直属

魔王に次ぐ実力の十二の魔物が一つ、 糸車セー

牙の生え揃った老婆の様な魔物である。


「あぁ、 遊んでいる暇がもう無くなりそうだからな」


日曜日の使者サンデー・モーニングで人間に成り済ましていた

白樺しらかば黒檀こくたんの交差路が擬態を解いた。

彼女の額から長い角が生える。


「王国が騒がしくなった、 可笑しな新興宗教

そして王国が魔王領に攻め込むと発表した」

「なんだってぇ!? それを早く言えよ!!」

「魔王様が懐妊なさったと聞いてな胎教に悪いかと」

「ちぃ!!」


糸車は走り去った。


「・・・そしてあのバケモノ、 か・・・」


遠い目をする白樺と黒檀の交差路だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【皮膚の兄弟団】に逃げ帰った剥ぎ取りジャックジャック・ザ・ストリッパー

愛しの聖女から詰め寄られていた。


「もうバリありえないんですけど!! もうジャックに任せればオールオッケーと

思ってたのに!! てぇ抜いたんじゃないの!?」


顔中にキラキラとしたラメを輝かせながら聖女が怒った。


「この足を見て貰えば分かると思うが

この世界の魔法じゃない魔法を使ってくる奴にやられた」

「むむむ!! このしおしおの足は本当にヤバいわね!!

むしろやられて情報を持ち帰ってくれてありがとう!! ちゅ」


剥ぎ取りジャックジャック・ザ・ストリッパーの頬にキスする聖女。


「ありがたき幸せ!!」

「ふふー、 ジャックだけよー

私の誉め言葉をちゃんと嬉しがってくれるの」

「貴女の様な淫らな女を相手出来るのはワタシだけです!!」

「やーん♥ ジャックったらー」


全力で剥ぎ取りジャックジャック・ザ・ストリッパー

にビンタを喰らわせて吹っ飛ばす聖女。


「相変わらずすさまじい威力・・・ガクッ」

「やーん♥ やり過ぎちゃったー♥」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ボクは気が付くと真っ暗な場所に飛ばされた。


████████ 一皮剥けたと言う所か


【不定の神】が喜色を見せながら述べた。

ボクは跪くと同時に体を隠した。

全裸なのだ。


████ よいよい████████████ 寧ろ情事中に呼び出してすまんな

「・・・・・」


ボクは顔を真っ赤にした。


████████ お前を呼んだのは他でもない

████████ お前が打ち倒した【皮膚の兄弟団】は████████ お前が感じた通りに危険な連中だ

████████ そして何やら不穏な気配がする

████████ 我の数少ない信奉者████████ それらの子孫を救う為に

██████お前に動いて貰う事もあるだろう

「は、 はい全力でお応えします!!」

████████ うむ、 よろしい████████ あぁ、 そうだ


【不定の神】が神では無い柔らかな物腰で言った。


████娘を頼む


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ボクは目を覚ました。

起き上がるとアーケアスの粘液状の体に物凄い引っ張られる。

彼女の顔を見ると寝ている様に見えるのに離れるなと言っている様だった。

そんな彼女を見て『愛されて幸せだな』と思えた。


これから【不定の神】の命で多くの修羅場を潜る事になるだろう。

だがこんなに美しい女性が愛してくれるのならば何が有っても大丈夫だと思えた。

我が師『エズダゴル』と【不定の神】、 そしてアーケアスに感謝しながら

ボクは彼女の胸に顔を埋めてまた微睡に墜ちていくのだった・・・



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Magi Call~亡き師が遺した魔法を使ったら神の娘が婚約者に!?~ @asashinjam

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