*終
「――御寮、サチナ。そなたはザングを夫として、病める時、健やかなる時、富める時または貧する時、喜びの時も悲しみの時も、ともに助け支え合い、その畢生の限り真心を尽くすことを誓うか?」
「――誓います」
晴れ渡る秋深まる月桂樹の実がたわわに実る頃、西の谷あいにある陽寿族の小さな村の長の屋敷でひとつの婚礼の儀が執り行われた。
式典はサチナの屋敷の敷地内にある、通常寄合が行われる広間で挙げられ、部屋の奥には婚礼の儀の際に掲げられる天帝とその妻であるといわれている西王母が並び立って描かれた掛け軸を前に、新郎新婦であるザングとサチナが並んで正座して座っている。
ふたりの前には、夫婦に誓いの言葉を促す、司会進行を担う村の長のグドが向かい合って座っている。
サチナは家に代々伝わる、村の伝統の図案が多く刺繍された赤い絹織物の花嫁衣装の着物に身を包み、ザングもまた同じく彼の郷里に伝わる伝統的な花婿の衣装に身を固めてそれぞれ前を見つめていた。
「それでは、夫婦の盃を」
グドの言葉を合図に、傍に控えていた礼服姿の侍女たちが、赤い盃などの酒器を載せた三方を手にしずしずとふたりの前に歩いてきてそれを差し出す。
差し出された盃をそれぞれ手にすると、酒器から透明な御酒が注がれ、ザングとサチナは銘々にそれをゆっくりと飲み干した。
ふたりが揃って盃を飲み干すと、広間からは一斉に拍手が沸き起こった。
「おめでとうございます、サチナ様、ザング様」
「おめでとう、ふたりとも」
祝いの言葉を口々に発してくれる参列客たちの方を振り返り、ザングとサチナは指をついて深く一礼をする。
「これをもって、ザング、サチナを夫婦とする」と、グドが宣言し、ザングとサチナは晴れて夫婦となることができた。
再び沸き起こる拍手の中、ザングとサチナは見つめ合って微笑む。その姿はふたりのしあわせそのものを象徴していた。
<終。>
聡明な娘が柴眼の堅物役人と恋仲になる話 伊藤あまね。 @110_amane_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます