四人目? Atonement

「その人が絵の少女で?」

「うん。彼女が彩花」

 そう続けた彼の顔はとても哀しい顔だった。

「じゃあ、先生はこの人しか‘‘描かない‘‘んじゃなくてこの人しか‘‘描けない‘‘てことですか?」

「そうだよ、その通り。彼女が俺の人生で唯一見えた他人の顔なんだ。でも、たとえそうでなかったとしても俺は彼女を描き続けたと思うよ。」

「どうしてです?」

 いくら自分にとって特別な存在でもここまで取りつかれたように描き続けるなんてことはあり得ない。

「彼女の最後のメッセージなんだ。俺が彼女を覚えていれば彼女は死なない、俺の中で、絵の中で生き続けるんだ。」

はっきり言って正気を疑った、それは洗脳とも依存とも呼べる。だがそう語る彼の目はまるで絵の少女の目のような、引き込まれるような魅力的な目だった。

「それは、愛情ですか?」

「愛情というにはあまりにも歪んでいる、呪いとも違う。強いて言うなら罰だ。彼女を認識でき誰がために彼女の絵を描き、俺は彼女を忘れることはできない。多分、一生。だから彼女を死なせてやれない、そんな自分の「罪」に対しての罰だよ。」

「でもあなたが絵を描けば彼女は、それを見た多くの人の中で生き続けるのでは?」

「でも、‘‘彼女‘‘を知ってるのは俺だけなんだよ―――」


取材を終え玄関に出る

「何もないが、よければまたいつでも遊びにおいで。俺たちはいつでも歓迎だよ。」

「本日はありがとうございました。またいつか、機会があれば。」

 そういって頭を下げ玄関を出る。車に乗り緊張が解けると疲れがどっと来た、あの何とも言えぬ不気味さやプレッシャーの中で取材を行うだけでこんなにも疲れるのかと思う。車を走らせながら考える―――

あの男は確かに狂っていたがそれ以上に、到底僕たちでは理解しえない何かがあるのだろう。それこそ愛情や友情とは違う何かが。

そもそも「彩花」という女は最初からすべてわかっていたのではないのかとすら思ってしまう。自分が死ぬとわかってから、なぜ彼を選び彼に己の存在を託したのか?まるで彼が彼女以外を認識できないことを知っていたかのように。

ここでさっきのイトウの言葉が頭をよぎる、「俺‘‘たち‘‘——」彼は確かにそう言った。

「まさか、だよな。」

 僕は考えすぎなんだきっと。とにかくこの取材を何とか記事にしなければならない。この狂気に満ちた画家の物語を。


 今日も俺は彼女を描く。彼女は俺の中で、そして絵画の中で生き年を重ねていく。

俺が変わるように彼女も変わる、俺と同じように。

ともに私たちは成長する、私はあなたと共に生き続ける。君が生きている限り。君は私以外を知らないから。俺はまた書き続ける、自らの罪のために。


少女を描いた一枚の鉛筆画がある。右下には名前が記されていた、

「Saika Ito」と。











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SiN 竹内 @zenraman426

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