悪役令嬢は二人とも死刑になりたくないっ! 〜乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、同じ世界に2ndシーズンの悪役令嬢がいました〜

七種夏生(サエグサナツキ

第1話


 乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。

 転生というより憑依、十七歳の私に残された時間はあと半年しかない。

 半年! わずか半年で、この世界での私の命は消える。

 なにか策を……対策をしないと!


1st「って言っても別に、なにもする必死ないのよね」


 悪役令嬢つまり私が処刑される理由は至ってシンプル、【王子との仲を勘違いしてヒロインに嫌がらせしたから】

 陰湿、性格が悪い女を王妃には出来ないって理由で処刑になった。そんなことで酷くない? とは思うけど、プレイヤーだった時はなんとも思わなかった。


1st「悪役にもいろいろと事情があったのね、表に出ないだけで」


 同情してる場合じゃないわ。ええっとだから、シンプルに考えればいい、ヒロインに嫌がらせしなければいいだけの話。王子とイチャイチャし始めてもあぁはいそうですかって素直に引き下がって別の国に追放されて、そこの王子と出会って溺愛されて……うん、このパターンでいこう。

 ていうか、逆に応援すればいいんじゃない? 二人の恋仲を応援して、「私の婚約者だけどあなたに譲ってあげる」ってヒロインに恩を着せればいい。いくら王子だって、仲人を処刑しないでしょ。


1st「よし、まずは二人を引き合わせるところから。そのためにヒロインと友達になろう!」


 クローゼットから女子ウケしそうなドレスを取り出し、颯爽と着替えて部屋の中を横断する。

 広……無駄に広いわね、この部屋。まぁそりゃそうよね、次期王妃の部屋だものね。いいわ、全部譲ってやる。

 殺されないならなんだっていいわ。


1st「よし完璧、この作戦でいこう! いざ、破滅への道回避」


 ようやく辿り着いたドアのノブを握り、全体重をかけて扉を押す。

 部屋を出た瞬間、煌びやかな衣装の少女と目があった。


1st「あ、あなたは……」

2nd「あっ、前作のゲームの人」

1st・2nd「「…………えっ?」」


 そこにいたのは私と同じ悪役令嬢。

 と言っても彼女は第二期、続編に登場する2ndの悪役令嬢だ。


2nd「どうして生きてるの? 1stの悪役令嬢はヒロインへの嫌がらせで処刑されて……あぁそうか、王子とヒロインはまだくっついていない」

1st「その通りよ。私の処刑を機に王子とヒロインは急接近して仲を深めて行くの」


 憎たらしいことだけどね!

 ていうかこの子、もしかして私と同じ転生者? ゲームの内容を知ってるってことはそうよね?

 なんか普通に会話成り立ってるけど……まぁいいわ、それより。


1st「2ndのあなたは確か、舞踏会で王子と知り合って」

2nd「一目惚れ猛アタックするも相手にされず、ヒロインに嫉妬して嫌がらせして、それがバレて処刑されるの」

1st「同じパターンってわけね」

2nd「ねぇ、1stの悪役令嬢さん、協力しません?」

1st「協力?」

2nd「処刑されたくなくて色々考えたんだけど、ヒロインと仲良くなって処刑やめてもらうって解決方法しか思い浮かばなくて」

1st「それでいいんじゃないかしら?」


 私の言葉に、2ndの彼女は目を丸くした。

 よく見たらまつ毛が長い、くりくりした瞳に白い肌、子犬のような愛らしい顔つき。

 ヒロインってどんな顔かしら、この子よりかわいいの? 私ほどじゃないけど、子もかわいい。

 こんな素敵な私たちをないがしろにして庶民を選ぶなんて馬鹿な男ね、こっちから願い下げだわ!


1st「王子なんてどうでもいいでしょ。まさかあなた、王妃になりたいの?」

2nd「あ、それはないっす。私みたいな美少女を選ばない男なんてこっちから願い下げだし、そもそも王妃って面倒くさそうだし」

1st「そ、そうね……」


 あれ? 見た目より庶民的? ていうか性格悪そう?

 まぁ、細かいことはいいわ。


1st「だから、対処すべきは王子じゃなくてヒロイン。あなたと私とヒロイン、三人で仲良くなればいいの。そうすれば【嫌がらせをした】という事実はなくなるし、万が一変な噂が広まってもヒロインが守ってくれるわ」

2nd「そ、そうか……そうよね、ヒロインが守ってくれるなら大丈夫……」

騎士「それはどうかな、悪役令嬢さん方」

1st・2nd「「あ、あなたは……!」」


 私たちの会話を遮った低い声は、騎士のものだった。王子の側近、相棒として活躍してヒロインとの仲を見守る、ゲームにおいてキーパーソンとなる人物。

 鎧の上からでもわかる筋肉美、なのに顔は鼻筋が通っててかっこいい……じゃなくて!


1st「どういうことよ、騎士……あなた今、私たちを悪役令嬢って呼んだ?」

騎士「姉貴がハマってたんだ、このゲーム」

2nd「あなたも転生者?」


 すごい確率!

 ていうかそれより、お姉さんがハマってって話はきっと嘘。説明書なんてないのよ、このゲーム。実際にやり込まないと誰が悪役令嬢かなんてわからない。

 お姉さんがなんて嘘、あんたがやり込んだんでしょ!


騎士「残念ながら半年後、誰かが処刑台に乗ることになる」

1st「なんですって!」

2nd「そんな……どうしましょうお姉さま」


 お姉さまとは私のことか?

 確かに私は1st、彼女は2ndだから後輩になるけど、この子私より年上じゃない? 顔老けてえーい、細かいことはいいや!


1st「変なこと言わないでよ、騎士! どうして半年後のことがあなたにわかるの?」

騎士「俺の姉貴が開発し、今も管制してるからさ、このゲームを」

1st「なんですって!」

騎士「お前らが喋ってるこの内容も、文字として画面に映し出されて記録されているはずさ」

2nd「じゃあつまりここは、私たち暮らしているのはゲームの中ってこと?」

騎士「ご名答。そしてここに転生してしまったお前らはどう頑張っても元の世界に戻れないし、ゲーム内の歴史的な事実も変えられない。半年後、誰か一人が死刑になる」

1st「でも、ヒロインと友達になれば」

騎士「ヒロインは姉貴だ」

2nd「あ、あねきって」

1st「まさかあんたの?」

騎士「ご名答」

1st・2nd「えぇっー!」

騎士「姉貴はどうやってもこのゲームをシナリオ通りに動かせたい。だから半年後、死刑になるのは1st、お前だ」

2nd「あっ、そうなんだ……」


 私の腕を掴んでいた2ndが、すっと体を離し私から距離をとった。

 本性漏れてるぞ、2nd。

 それより……


1st「待って、あんたさっきこのゲームはお姉さんが管制してるって言ってたわよね?」

騎士「あぁ、オーナーでもありプレイヤーでもある」

1st「そんなのあり!? 現世とゲーム世界を行き来してるってこと?」

騎士「そういうことだな」

1st「ずるい! 帰る方法教えてよ!」

騎士「俺は知らねーよ。帰る気もないしな」

1st「なんで!?」

騎士「言っただろ、このゲームにハマってたって……姉貴が、姉貴がな? 姉貴がやり込んでたんだよ、このゲーム。だから……」

2nd「お前だろーが、オトメン騎士」


 うわぁ、本性隠す気もなくなったか2nd。

 ていうかオトメンって乙女男子のことよね、古…… 2ndって何歳?


2nd「処刑されるのが1stなら、私はなにもしなくても大丈夫……」

1st「待ちなさい、2nd。あなた、自分のキャラクターわかってる?」

2nd「え? 悪役令嬢だけど……2ndの」

1st「そう、2ndの! つまり私の処刑後、次に死刑台に登るのはあなたよ!」

2nd「ふはぁぁああ!」


 不思議な声を発した2ndが、騎士を睨み付けた。

 一瞬怯んだ騎士だが、すぐに取り繕って怪しい笑みを浮かべる。


騎士「ご名答。1stが処刑された半年後に2ndの処刑が行われる」

2nd「てめぇぇえ、ふざけんなよ! なんとかするのがお前の仕事だろーが!」

騎士「いや、俺の仕事は王子の……つーか痛い、鎧掴まないで……」

1st「落ち着きなさい、2nd。助かる方法はあるわ」

2nd「え?」

1st「私たちが二人とも助かる方法が一つだけある。そうでしょ、騎士」

騎士「……ご名答」

2nd「え、なになに?」

1st「元凶を取り払えばいいのよ」

2nd「げんきょー?」

騎士「悪役令嬢を処刑するのは誰だ?」

2nd「誰って、王子でしょ?」

1st「違う! それはゲーム内の話! じゃなくてリアル……いや、うーんえっと」

騎士「ゲームの開発者である姉貴、つまりヒロインを処刑してしまえばいいんだ」

2nd「…………えぇぇえー! なに、どゆこと!?」

1st「私たちを処刑するのは王子だけど、その原因となったのはヒロインの存在でしょ?」

騎士「だからその原因、ヒロインを亡き者にしてしまえばいい。お前らが処刑される前に」

2nd「そ、そんなの……でも、開発者にそんなこと出来るの?」

騎士「俺が協力するさ。安心しろ、お前らは死なない」

2nd「待って、ヒロインってあなたのお姉さんよね?」

1st「私もそれ思った。あんた、どうして私たちにこんな助言……まさかスパイ!?」

騎士「違う! 俺はお前ら悪役令嬢の味方だ! 信じてくれ!」

1st「なにを根拠に」

騎士「好きなんだ」

1st・2nd「は?」

騎士「悪役令嬢モノが大好きなんだよ。俺は!」

2nd「え、あんた乙女ゲームにハマってるって言ってなかった?」

騎士「だから! 乙女ゲームも悪役令嬢モノも大好きな、生粋のオトメンなんだ!」

1st「オトメン……」

騎士「いいよ、思う存分笑うがいい、俺はオトメンだ! 転生憑依やり直し政略結婚からの溺愛ハピエン大好物な生粋の乙女なんだよ! 笑うなら笑え!」

1st「笑えない……ていうかあんた、乙女じゃなくて男だから。生物学的に」

2nd「え? 男だからオトメン、乙メンなんじゃないですか?」

1st「なに?」

2nd「だから、乙の男で乙メン」

騎士「乙女の乙とメンズのメンで乙メンだな!」

2nd「そう、それ!」

1st「……くだらない。そんなことよりも、ヒロイン死んじゃったらあんたのお姉さんも死んじゃうんじゃないの?」

騎士「そこは大丈夫だ、姉貴はオーナーだから」

2nd「出た、ご都合主義!

騎士「姉貴の場合はゲーム内で死んでもリセット、現実世界に帰るだけだ。でもお前らの場合は……あれ? お前らって死んだらどうなるの?」

1st「知らないわよ!」

2nd「もしかして、私たちも現実世界に帰れるとか?」

1st「その手があった!」

騎士「え? いや待て、お前らがいなくなったら悪役令嬢がいなくなる。そしたら俺はどのキャラを推せばいい?」

1st「知らないわよ」

2nd「その辺のメイドでも推しておけば……あ、ダメだ私、現実世界ではトラックに轢かれて死んでるんだった」

1st「え? 私も……トラックに轢かれてこの世界に来て……」


 私と2ndは目を合わせ、互いの心中を察して黙り込んだ。

 私たちの顔を交互に見ていた騎士が、腕を組みながら咳払いをする。


騎士「じ、じゃお前らはこの世界で生きていくしかないな!」

1st「なに喜んでんのよ」

2nd「サイアク」

騎士「ち、違う! 俺はただ、悪役令嬢が好きなだけで……」

2nd「そんなことよりお姉さま、対策を練りましょう!」

騎士「対策?」

1st「えぇ、そうね。考えましょう、ヒロインを亡き者にする方法を!」

騎士「え、ちょっと……確かにそれが正しいというか、そうは言ったが……」

2nd「まずはどうします?」

1st「そうね、お茶に毒を盛るなんてどうかしら?」

騎士「え?」

2nd「それはやり過ぎじゃないですか? そうだ、服の中に毛虫を入れるとか!」

騎士「えぇーっ……ちょ……」

1st「いいわね、それ! そうして少しずつ嫌がらせして、最後にズバンとや殺りましょう!」

2nd「殺りましょう、お姉さま!」

騎士「るの漢字が殺すになってるんだが……」

1st「当たり前でしょ!」

2nd「やられる前にやる、処刑する前に処刑してやるのよ!」

騎士「いや、それはいいんだが嫌がらせは……」

1st「行きましょう、2nd。作戦を立てるわよ!」

2nd「はい、お姉さま! 毛虫作戦ですね!」

1st「まずは私がやるわ。慣れてきたら2nd、あなたもヒロインに攻撃を始めなさい」

騎士「だから嫌がらせが原因で処刑になるから……つーか1stからってマジで処刑の順番的にも……」

2nd「了解ですわ、お姉さま。行きましょう!」


 カツ、カツとヒールが床を蹴る音がお城に響く。

 そう、ここは乙女ゲームの世界、私たちはヒロインの敵の悪役令嬢。

 死刑になりたくない、なんとかして処刑を免れたい私たち二人はこうして、ヒロインを処刑すべく歩き出した。

 その先に破滅への道があることなど誰も、知りはしない。


騎士「いや、俺は知ってたぞ」


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