私たちの文化、私たちの家族

エピローグ

「じゃあ、夕飯（ゆうはん）の支度（したく）をしてくるわ。動（うご）けるようになったら一階（いっかい）に来（き）なさいね」

　そう言って、『お母（かあ）さん』は服（ふく）を着（つ）けて下（した）へと降（お）りていく。姉妹（しまい）である私と彼女は、裸（はだか）のままベッドで並（なら）ぶように横（よこ）たわっていた。

「何（なん）で私たち、二人（ふたり）がかりでも、お母さんに勝（か）てないんだろうね……」

「年季（ねんき）が違（ちが）うってことかなぁ……」

　私たちは、まだまだ子（こ）どもに過（す）ぎない。お母さんの偉大（いだい）さが感（かん）じられて、身（み）動（うご）きはできないけれど私は心地（ここち）よかった。でも彼女は、違（ちが）う考（かんが）えのようだ。

「遠慮（えんりょ）してちゃ駄目（だめ）よ。私たちは成長（せいちょう）するし、お母さんは年（とし）を取（と）る。私は法的（ほうてき）に、お母さんと結婚（けっこん）はできない。でも同性婚（どうせいこん）が実現（じつげん）すれば貴女は、お母さんと結（むす）ばれるかもしれないんだから。憧（あこが）れてるだけじゃ、対等（たいとう）なパートナーには成（な）れないのよ。だから頑張（がんば）って」

「……また確認（かくにん）するけど、本当（ほんとう）にいいの？　私が貴女から、お母さんを奪（うば）っても」

「いいわよ、中学生の時（とき）も言ったでしょう。私たちは家族として、あらゆるものを分（わ）かち合（あ）うって。それに今日も言ったとおりよ、私たちが姉妹（しまい）であり家族であることは変（か）わらないわ。奪（うば）うなんて言（い）い方（かた）は止（や）めてよ。ああ、最初に私が言ったんだっけ。奪（うば）ってもいいって」

「うん……ありがとう」

「何（なん）なら貴女が、私と結婚してくれてもいいのよ？　貴女が私と結婚しても、お母さんと結婚しても、私たちは三人で暮（く）らせるかもしれない。それって素敵（すてき）だと思わない？」

　そう彼女が言う。「そうね、とっても素敵」と答えて、私たちは笑い合った。

　九月の中（ちゅう）旬（じゅん）、週末に三（さん）連休（れんきゅう）があった。その連休の初（はじ）めに、私は彼女の家を訪（おとず）れる。インターホンを押（お）すと、彼女の母親がドアを開（あ）けて出（で）てきた。

「あら、いらっしゃい。私の娘（むすめ）なら、部活（ぶかつ）の合宿（がっしゅく）に行（い）ってるわよ。しばらく帰（かえ）ってこないわ」

「ええ、良（よ）く知ってます。貴女に会（あ）いに来（き）たんです、お母さん」

　真（ま）っ直（す）ぐ、『お母さん』の目を見つめる。彼女は私の体（からだ）を上（うえ）から下（した）まで視線（しせん）を這（は）わせて、それから、ふっと笑（わら）った。

「いいわ、可愛（かわい）がってあげる。中（なか）に入（はい）って」

　母親ではなく、捕食者（ほしょくしゃ）のようにキラキラとした目（め）で私を見つめる、怖（こわ）いくらいに魅力的（みりょくてき）な大人（おとな）の女性が其処（そこ）には居（い）る。彼女に肩（かた）を抱（だ）かれて、成熟（せいじゅく）した女性の匂（にお）いに包（つつ）まれながら、私たちの姿（すがた）はドアの向（む）こうへ消（き）えていった。