第5話

 翌日、氷華は朝儀へ向かった。本来であれば一介の妃嬪が参加出来るものでは無い。が、今回は被害者なので特別に事件のことについて話し合う際のみ同席を許された。


「充媛様の御成でございます」


 柳葉の発言とともに部屋に入る。その後彼女は退出した。この場にいるのを許されているのは氷華のみであり、それ以外の者は許されない。


「本日は関充媛も参加する、例の件について話せ」


 皇帝がそう言うと同時に氷華は自分に用意された席に着いた。高位の文官が集まるこの中で上手く話せるだろうかと心配になった。皇帝の次に地位が高い充媛だが、この中で一番実権を持っていなかった。


 氷華が後宮入りした時、怪しまれないようまずは女官として働いていた。皇帝が気に入ったということで、特別尚宮になり、正式に皇帝の側室となった。当初はなぜ平民の氷華が婕妤にと、反感を買ったものである。


 女官から側室に昇進することは少なくない。しかし通常であれば采女という、妃嬪の中で一番位の低い地位になる。いきなり六個も飛ばしたのだから反感を買うのは当たり前である。


 比べてこの場にいる文官たちは、家系も考慮されるが基本実力主義である。能力のあるものが重宝されるし、そうでない者の昇進は難しい。


「皆さんも噂で聞いていると思いますが、皇后王氏はわたくしに暗殺を仕掛けました。多くは鳳巫宮の女官と、貴妃劉氏の銀真宮の女官でした。後宮の護衛長である淑妃の母もいたと報告を受けています。故賢妃は、遺書にわたくしが皇帝に寵愛されたのを嫉妬したのが動機だと残しています」


 

 ここまで話して氷華は自分が話すべきでないことまで話してしまったことに気付いた。いくら被害者と言えど、遺書のことまで話してしまった。それは実際に遺書を読んだ者が言うべきだった。


「わたくしが知るのはここまでです。皆さんでご判断ください」


 ここから話し合いが始まった。鳳巫宮の者が勝手に暗殺を仕掛けたのではないか、本当に皇后は関与しているのか、自死した貴妃が主犯なのではないか。色々な意見が出た後、皇帝が皇后の降格を決めた。流石に罪人として扱うことは出来なかった。


「余は、皇后を昭儀まで降格とする」


 すると皇后の父が叫んだ。


「何卒ですか!皇后様はこの王室のため、この国のため身を捧げて来ました!それを一介の妃嬪まで降格するなんて!」


皇帝の父の言うことは最もだった。皇后は王室が財政難の際、自分の給金を返上した。皇后の鏡と言えよう。しかし罪は消えない。


「妃嬪同士の殺人行為は死罪である。今までの行いと、充媛が死んでないことを考慮した。温情であるぞ。また、仮に本人がこの件に関与していないとしても後宮の管理は皇后の責務である。それを怠ったのだから当然の結果であろう」


 これを聞いた皇后の父は引き下がった。これ以上の発言は不敬罪にあたる。


 結果、皇后は昭儀へ降格、貴妃は昭容へ降格、淑妃も昭媛へ降格となり、それぞれ五つ位が下がった。貴妃は昭容として葬儀が行われる。これを聞き、氷華は退出した。

 氷華の退出後、皇帝は朝儀の最後にこう言い放った。


「更に関充媛を空席だった徳妃に任ずる」

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黄華伝 中村マイケル @misakigoose

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