第4話

 宮に帰った氷華は柳葉に酒を持ってこさせた。氷華はいつも柳葉と呑みたくて盃を二つ持ってこさせる。しかし彼女が手をつけたことは無かった。


「お前も呑めばいいのに」


「仕事中なので」


 柳葉は顔色一つ変えずに言う。彼女とはこの後宮で会った。高位の妃嬪であれば女官として家から何人か連れて来れるが、死んだことになっている氷華には誰もついて来る者はいなかった。


 そこで好きに選んで良いと皇帝に言われた時、選んだのが柳葉だった。正直理由は無い。


 どうやら柳葉は前科があるらしく、長らく冷宮に入れられていた。出してくれた氷華に恩を感じているのか良く尽くしてくれていた。すぐに匕首出すけど。


「柳葉、すぐに好戦的になるのはやめなさい。私に迷惑がかかると気付かないの」


 数刻前のことは間違いなく殺すようなものではなかった。氷華があの時どれだけ肝を冷やしたか。以下その時の氷華の心境である。


 え、匕首?なんで出すの。いつも出すけどここではないでしょう間違いなく。というか今要らなくない?通してくれないだけだけど。どうしよう、これはもしかしたら柳葉が罰せられる。わたくしも間違いなく。というか短気すぎない?そもそも女官って匕首持ってもいいんだっけ。いや大丈夫か、何で身を守るんだって話になるし。あー、宮へ帰りたい。いつもの布団で眠ってしまいたい。というかほぼ毎日皇帝の住まいへ来ていてなんて顔知らないのよ、というか習慣なんだから上司が説明しておきなさいよ。いつもの門番見かけたら不敬罪でしょっぴいてやる。いやわたくし皇后じゃないから出来ないけど。


 今思えば平民出身の氷華が、心の中の一人称までになったのに月日の流れを感じた。四年って結構長いんだな。


「申し訳ありません、脅せば開けてもらえると思いまして」


「いや相手は軍人だからね!?」


 四年妃嬪をやっていてもこればかりはつっこまずにいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る